後日談 その1
先ずはこの話を読んで下さっている皆様にお礼を言わせて下さい。
ありがとうございます!!
皆様のおかげで一日だけですがこの物語がピッコマ様の少年マンガのランキングで4位、独占先行作品のランキングで1位を獲る事が出来ました。
今流行りの『特級呪物』というワードで有名なあの作品や『ヒーロー学校』を舞台にしたあの作品より上にランクイン出来たという夢の様な経験をさせて頂きました。
重ねてですが本当にありがとうございました!!
『沈黙の歌姫』による騒動があった次の日、魔法学校の臨時休校が決定し、俺達はヘンリーの誕生日パーティを開いた。
あんな事があってすぐに誕生日パーティを開くなんてどうなんだ?ヘンリーだって今開催されても迷惑なんじゃ無いか?という思いもあったが、それでも開く事を決意した。
……あのイヴィアという女に唯一の家族であったアドルフ校長を殺されて、今のヘンリーには頼れる存在が居ない。
……一人にさせたくなかった。一人だと思ってほしくなかった。
家族という存在には敵わないかもしれないが、ここにいる三人は友人としてヘンリーが困ったらいつでも助けになるつもりだと知って欲しかった。
本当は王都でもかなり人気な料理店に予約を入れていたのだが、その料理店も先の騒動で襲撃を受けてとても入れるような状況じゃなかったので急遽俺たちの部屋で小さな誕生日会を行った。
……その時に彼が浮かべていたあの笑顔が本心からのものであれば良いのだが。
そしてそのパーティから次の日、ヘンリーの下にアドルフ校長の親戚だという人達が訪ねてきた。
なんでも校長が遺していた遺言状に「自身の家名と財産をヘンリーに譲渡したい」と書かれていたらしく、それに従ってヘンリーを迎えに来たそうだ。
そんなことを突然言われてもヘンリーにはまだ心を整理する時間が必要だと、日を改めて欲しいと彼等を追い返そうとしたのだが、当のヘンリーがその話を是非受けたいと言ってその話を了承してしまった。
どうやら本人にもやりたい事があるらしく、それの為にこの話を急いで受ける必要があったらしい。
そして彼は最後に「近い内に俺達に手紙を送る事になるかもしれないから気にしておいてほしい」と言い残してその者達について行ったのだった。
それからクレア先輩達の下へ聖剣を返しに行ったり、様々な事をしながら過ごしていると、ヘンリーから俺とヒサメ宛に手紙が届いた。
これがヘンリーの言っていた手紙だろうか?
そうあたりをつけながら手紙を開けてみるとそこには「指定された日時にヒサメと共に魔法学校の校長室まで来て欲しい」という旨の内容が書かれていたのだった。
……そして今日がその手紙で指定された日だ。
「確か手紙には校長室に来て欲しいって書いてあったよな?」
手紙で指定されていた時間より少し早いが俺とヒサメは校長室の前まで来ていた。
「うむ、中から人の気配を感じる。ヘンリー殿も既に来ているようだ」
「そうか、なら入っても大丈夫だよな。……失礼しまーす」
校長室の扉を開けて中に入ると、確かにヒサメの言うとおりにヘンリーが居た。
校長室に備え付けられている窓から校舎を見下ろしているようだ。
「…‥あ、良かった。来ていただけたんですね」
扉が開けられた音で俺達に気付いた彼は、校長の机の前に椅子を並べはじめた。
「此方にお掛けください」
「あ、ああ………」
言われた通りに椅子に座るとヘンリーは対面の方に移動し、そこにある校長の椅子に座る事なく机に手をついて話し始める。
「………実はこの度、マジカルヤマダ魔法学校の一時閉鎖が決定致しまして………」
「「え゛っ!?」」
二人揃って変な声が出てしまった。
……いや、今はそんなことはどうでもいい。
この学校が閉鎖される……?
なら魔競技で一位となったチームのメンバーに宝物庫のアイテムを与えるという話はどうなるんだ?
俺もヒサメもそのアイテムが目当てで今まで頑張ってきたのだ。
そして実際にそこまでもう少しで届くところだったのだ。
「閉鎖……ってマジか…‥。臨時休校って話じゃ無かったのか?」
「ええ、最初はそうなっていたみたいですけど………あの事件で殆どの貴族が被害を受けたみたいで……当主がいなくなった家、子息が殺された家、酷いところはその両方ともというところも…………。それで今はどの家も魔法学校に子息を通わせる余裕が無いという事で閉鎖する事が決まったみたいです」
「そんな……理屈は分かるけど……ッなら俺達のこれまでの頑張りはどうなるんだ……!」
「………ジョン殿は確か先の事件で下手人より取り戻した『状態異常封じの腕輪』を魔法学校に返却したのでござったな」
「……ああ、このメンバーなら正規の手段でも腕輪を手に入れることが出来るって確信してたからな」
……それに何よりイリエステルに盗品を渡すなんてことしたくなかった。
それがまさか閉鎖するなんて……。
「……臨時休校の話を聴いた時からこうなる可能性を危惧してたんです。なので閉鎖の話が決まってからすぐに動いて……
なんとか王様にこの二つをお二人に渡す許可をいただきました。
」
「「……………………は?」」
そう言ってヘンリーは机の下から何かを取り出し机の上に置いた。
「「こっ、これは………!」」
目の前に置かれた二つの物。
刀と腕輪だ。
一つは一度この目で見たことあるから分かる。『状態異常封じの腕輪』だ。
そしてもう一つは………
「では先ずはヒサメさんの方からですね。……コホン、『沈黙の歌姫』事件当時マジカルヤマダ魔法学校内に居た貴族子息を暴徒達から守り切ったという功績を以ってこの『妖刀でゅらんだる』を……」
「ちょっ、ちょっと待って欲しいヘンリー殿…!なぜヘンリーがこの刀を…っいや、これらの物を持っているのでござるか…!それに王とは………。説明……!説明が欲しいでござる!」
「説明ですか……?えーっと、お二人があの事件で如何に活躍なされたのかを王様にお伝えして、王国の威信にかけてお二人に褒美を与えるべきだと提案したんです」
「この国の王と謁見出来たのでござるか!?……いや、そういえばヘンリー殿はいま名家の当主という立場になっていたのでござるな」
「……なぁ、もしかしてヘンリーが言ってた『やりたい事』って…コレの事だったのか?」
ヘンリーが言っていた『やりたい事』、それの為に急いで話を受ける必要があると言っていた。
「……本当は閉鎖されないに越したことは無かったんですけどね。お二人がコレらを手に出来なくなる可能性に備えておきたかったんです」
「そんな、すまない……」
きっと校長先生が亡くなった事を悲しむ時間すら無かった筈だ。
「気にしないでください。あの時にも言いましたがお祖父様の遺言であった以上遅かれ早かれ話を受けるつもりではいました。それに何よりもし僕が話を受けないまま閉鎖が決まっていたらきっと一生後悔してた筈です。
だからこれは…僕が僕の為にした選択です
」
「……そうか、なら……ありがとうって言った方がいいだろうな」
「うむ、この恩は生涯忘れぬでござる」
「お二人のお役に立てて良かったです。……では改めてこれをヒサメさんに…。」
そう言って彼はヒサメに『妖刀でゅらんだる』を差し出した。
「うむ、確かに頂戴致した」
「それでは次にジョンさんの方ですね。ミュンナ姫の教育係であるアルマ・バルスブルグさんとその御家族の救出、そして『沈黙の歌姫』の封印を解き混乱を招いた首謀者の討伐への多大なる貢献、以上の功績を以てこの『状態異常封じの腕輪』をマジカルヤマダ魔法学校より贈らせる。…………という事です」
「ああ、確かに受け取った」
「……しかし、この国の王は薄情な王でござるな。普通こういった物を下賜する時は王が直々に…と認識していたが……」
「……本当は王様も直々に感謝の言葉を贈りたかったそうなんですけど、あんな事件があったばかりで暫くは貴族以外の者は立ち入り禁止という事になるみたいで………代わりに僕がこの役目を賜る事になったんですよ」
「そうだったのでござるか」
「今は動かなくなった『沈黙の歌姫』を遠くに運び出す計画が持ち上がっているようなので、それが終わったら改めてお呼ばれするかもしれませんねっ!」
めっ、めんどくさ……
横にいるヒサメを見ると彼も如何にもめんどくさっといった表情を浮かべていた。
「まあその話は置いておいて、取り敢えずはこれでお二人をお呼びした用件は終わりです」
「…最後にちょっと聞いてもいいか?」
「え?ええ、なんでも聞いてください」
「この学校の宝物庫の中に人の腕みたいなものってあったりしたか?」
奴が大事そうに抱えていた人の腕、あれに関する情報が分かれば奴の行く先が分かるかもしれない。
「腕……ですか?すいません、宝物庫の中に入った時はその様な物は……いえ、腕といえば宝物庫にまつわる有名な噂がありますね」
「噂?」
「実は宝物庫の奥には歴代の学校長すら入れないもう一つの部屋が存在していて、そこには初代学校長が集めた価値ある品物が多数収められているらしいです。……確かその中には隣の神聖国で信仰されている女神様と共に世界を救った『救世騎士』と呼ばれる存在の腕もあったとかなんとか……」
「『救世騎士』……そういったものなら神聖国が欲しがるんじゃないのか?彼等が信仰する神にがっつり関係するものだろ?」
「確かに不思議ですね。でも神聖国が返還要求したとかそういう話も聴かないですし………あくまで噂は噂って事でしょうね」
……いや、確かに奴はあの人の腕をイヴィアに宝物庫の中から取って来させたと言っていた。
神聖国、一番怪しいのはそこだ。
居るのか……そこに奴が。
どちらにせよこの後神聖国には行くつもりだが……リフィアちゃんの件が解決するまでの間、少し探ってみるとしよう。
その後、ヘンリーが俺達に褒美を渡した事を報告しにいかなければいけないという事でその場は一度解散した。
そして今は寮の部屋へと戻っているのだがふと頭の中に疑問が浮かんできた。
そういえばヘンリーのあの見た目……イヴィアは自分の魂がヘンリーの中に入っているから自分にそっくりな女性の様な見た目に成長してしまっているると語っていた。
だが今ヘンリーの中にイヴィアの魂は無い。
これから彼の身体はどうなるんだ?急激に男性的な見た目になったりするのか?
『人間の肉体の成長は生まれて三年目までの魂の状態に左右されるッス。生まれてすぐにあの女の魂を体に入れられて、そのまま三年が経った時点であの者の身体はこれからも変わらず女の様な見た目で成長していく事が確定しています』
『それは………あんまりじゃないか。自分の祖父を殺したやつと似た顔のまま生きていかなきゃならないなんて』
『少なくとも女性的な見た目である事はあの者にとっても都合が良かったみたいッスし大丈夫だと思いますけどね』
『都合が良い?』
『ええ、詳しく聞きたいですか?あの者が心の奥に秘めている想いについても話すことになりますが……』
『心の奥に…?よく分からないがヘンリーはそれを他人に知られたく無いって事か?』
『どうやらそうみたいッス』
『なら…………やめておこう』
『いいんスか?』
『ああ、流石に他人のプライバシーに土足で踏み入る訳にもいかないからな』
それにその話を聞いてヘンリーが大丈夫かどうかの判断を俺がしても何の意味もないだろう。
大丈夫だと思っていた奴が実は限界まで追い詰められていた……という事を俺は一度経験している筈だ。
もう二度と間違える訳にはいかない。




