人は誰だって自分だけのヒーローを持っている
一話から書き直しました。リメイク前から読んでくれていた方々申し訳ございません。書き直しているうちに少し設定が変わっています。
変更点は
・アーシンが大臣を殺してない。
・エデルが大臣からの刺客をなくす為にアーシンの協力のもとエデル・クレイルが死んだ事にし、ジョン・ドゥという偽名を使ったまま魔法学校に入った。
前との変更点は大きくこの二つだと思います。
『ダンジョン攻略』に続く成績に関わる二つ目の魔競技、『PvE』が開催され、ジョン・ドゥ班が見事一位の成績を収めた。
『PvE』とは学校側が用意した巨大な魔物………に化けさせた魔法道具と班ごとに戦うといった行事だ。
その魔法道具をどれだけ早く倒せたか、行事前に支給されたフード付きのマントが発動しているバリアの耐久度がどれだけ減らされたかで各班に点数がつけられていった。
場所は決闘場で行われ、自分達の班以外の戦いは決闘場に備え付けられている観戦席から魔法道具と戦っている他の班を見学する事が出来た。
流石にそんな衆人環境ではアゾーケントも『ダンジョン攻略』の時のような嫌がらせができなかったのだろう、他の班が戦っていた時と同じような強さに設定された魔法道具をヒサメ達が一瞬で解体していた。
俺はというと、『PvE』では動かないでほしいと他三人から要請された為に三人がゴーレムを瞬殺しているのをただ黙って見ていただけだった。なんでも次の『PvP』と呼ばれる他の班とトーナメント形式で直接戦っていく第三の魔競技に備えて、魔法を使える事を隠していてほしいという事だった。
『ダンジョン攻略』で二位という結果になってしまい『PvE』が始まるまで常に気を張り詰めていた俺達だったが、今回見事一位という成績を取った事で少し心に余裕が出来たので次の休日に息抜きも兼ねて四人で街に出かけようという話になった。
「ここが噂に聴く王都の商業区でござるか……!活気もあっていい場所でござるな。」
「ヒサメさんはここに来るの初めてなんですか?」
「うむ、王都に来てすぐにマジカルヤマダ魔法学校に入学したでござるからな。それに今までは魔競技の事で頭がいっぱいでござった」
「じゃあ今日は僕が案内します!王都には小さい時から住んでましたし、ヒサメさんは何処か行きたい場所はありますか?」
この中で唯一商業区の地理に詳しいヘンリーが自ら案内役を買って出て意気込んでいた。
「うーむ…………そういえばジョン殿の指に嵌めている自前の『転移の指輪』は何処で買ったものでござるか?」
「え゛………ヒサメさん『転移の指輪』が欲しいんですか?」
「うむ」
「あの………失礼ですけどヒサメさんの今の手持ちはどの程度なんですの?」
「今はこれが拙者の全財産でござる」
そういうとヒサメは懐から使い古されたガマ口財布を取り出し自らの手のひらの上にその中身をぶち撒けた。
……チャリ……チャリ
出てきたのは二、三枚の銅貨だった。
す、少ねぇ………
いや、だが分かるぞヒサメ…………俺も同じだ。元々貴族向けの学校に無理やり入る為に手持ちの殆どが無くなったんだよな。俺も入学可能な年齢になるまでギルとアーシンに協力してもらってかなりの数の任務を受けた筈なのにその稼ぎの殆どを入学金に持っていかれた。
魔法学校の食堂が生徒に対しては無料で本当に助かった。
「拙者も今の手持ちでは『転移の指輪』を買うには少々足りてないというのは分かっているでござる」
「いや、少々じゃないです。びっくりするほど足りてないです」
……初めてヘンリーの真顔を見た気がする。
「しかし王都には冒険者ギルドという魔物を倒すだけで報酬が貰えるという場所があると聴いたでござる」
ヘンリーの話を聴いてやれよ。
「冒険者ギルドですか………すみませんアドルフ先生からあそこには近付くなって言われてて………とにかく治安が悪いらしくて屈強な男の方でも急に壁に殴り飛ばされて瀕死の状態になるような場所だそうです」
「王都にそのような場所があるのでござるか?この光景を見る限り王都の治安は良いものだと思って居たのでござるが………」
「ジョ、エデルさん少し良いでしょうか?」
リリィが側に寄ってきて声を潜めて話しかけてきた。
「なんだ?」
何か二人に聴かれたくない事でもあるのだろうか。
「エデルさんって兄と冒険者をされていたのですよね」
「ああ、かなりお世話になった」
「今、偽名を名乗られてますが冒険者登録とかはどうなっているんですの?」
「……色々あって今はジョン・ドゥって言う名義の冒険者カードを持ってる」
「そうなんですね……」
「………ん?二人ともどうしたのでござるか?」
「いえ、なんでもございませんわ」
「それより二人ともヘンリー殿を説得するのを手伝って欲しいでござる」
「「説得?」」
「ヘンリー殿に冒険者ギルドに案内して貰いたいのでござるがなかなかに首を縦に振ってくれないのでござる」
「いや………だから危ないんですよ。もし赤毛の怪物に出会したりしたら」
「なに、怪物の一匹や二匹拙者がどうにかしてみせるでござる。………それに拙者達にはあのリッチさえ一撃で倒してみせたジョン殿が付いているのでござるよ?」
おれぇ?
「それは……」
「もしかしてヘンリー殿はジョン殿の力を疑っているのでござるか?ジョン殿がその赤毛の怪物に負けると思っているのでござるか?」
………いや、俺は弱いぞ?リッチを倒したのはララの魔法だったし。
「!!………そんな事ないです!ジョンさんは誰にも負けません!!分かりました冒険者ギルドに案内します!赤毛の怪物だろうとなんだろうとジョンさんが倒してくれます!」
え?
「なんで俺が戦う事になっているんだ?」
『任せてください!ララがその赤毛の怪物をぶっ殺してやるッスから!』
なんでララもそんなに好戦的なんだよ。
話が訳のわからない方に行く前に元の道に修正しよう。
「…………俺、冒険者だぞ?」
そして冒険者ギルドに付き、三人の冒険者登録を済ませた後で依頼掲示板の元に向かった。
「いろいろな紙が貼られていますのね」
「依頼内容が書かれた紙の後ろにまた別の依頼内容の紙が貼られてますね」
「それだけ困っている人々がいると言う事でござるよ。では早速『転移の指輪』が一度で買えるような金額が報酬の依頼を探すでござるよ」
「いや、どれだけ危険な任務に挑む気だよ」
ヒサメはもしかして仕事は出来ても私生活がダメなタイプなのでは………
「む?これとかどうでござるか?」
ヒサメは一枚の依頼書と………一枚の似顔絵を紙の束の中から引っ張り出した。
「どうやら人探しの依頼でござるな。しかしこの似顔絵………子供が書いているのでござるか?顔の特徴は掴んでいるのかもしれないでござるが……特定するのは難しそうでござる」
「この絵から分かるのは……茶髪で……髪型はジョンさんみたいな髪型をしてるんですかね?目は緑色で描かれてますけど」
「うーむ、難しそうでござるが………この依頼主のバルスブルグ家はかなりの報酬金を用意しているようでござる。とりあえず話を聞きに行ってみるでござるよ。ヘンリー殿案内よろしくでござる」
「えぇ……いや、場所は知ってますけど」
ヒサメは依頼の紙と似顔絵を掲示板に戻しその依頼主の元へ向かおうとしていた。
しかし俺は、その場から動けずにいた。
この似顔絵……なんか変装する前の俺に似てないか?
「あの……エデルさん、これって……」
そうか、リリィも変装する前の俺の顔を見たことがあるのか。
「いや、まさか。こんな特徴の人物なんてこの世界に沢山いるだろう」
貴族に捜索される覚えなんて………普通にあるな。でもアーシンが俺の死をしっかりと偽装したと言っていた。
「………バルスブルグ家という家名に聞き覚えはございますか?」
「………何処かで聴いたような」
何処だったかな?
「二人共なにしているのでござるか?」
一向に着いてこない俺たちを疑問に思いヒサメ達が戻ってきた。
「ああ、いえ、なんでもございませんわ」
「……すまない、今行く」
思い出せないままにヒサメ達に着いて行った。
『(………アニキに伝えるか?あの腐れ女から貰った剣を渡した兄弟達だと………いや、確か姉がいると言っていたな。まさかとは思うが…………まだ伝えるのはやめておこう)』
俺達はヘンリーの案内の元、バルスブルグ家が所有しているという豪邸の前にやってきた。
「ここがバルスブルグ邸です。少し前まで没落しそうだったところを家宝を取り戻したとかでなんとか没落を回避したらしいです」
家宝………?…………………!!バルスブルグ!没落!家宝!
ここはあの兄弟の家か!
俺が漸く依頼主の正体に思い至ると同時にヘンリーがドアノッカーを使って扉を叩いていた。
数秒して扉が開き、中から執事服を着た細身の老人が姿を現した。
「当家に何か御用でございますか?」
「あ、冒険者ギルドで人探しの依頼を見たんですけど……」
老人の問いかけに対しヘンリーが対応した。
「もしや其の御方をご存知でいらっしゃいますか!?」
「いや、あの似顔絵だけでは分からなくて……。書いた人に直接話を聞きたいんですけど」
「……申し訳ございません。御坊ちゃまは今外出中でして………」
「誰か来ているんですか?」
老人の背後から女性の声が聴こえた。
「お嬢様!いえ、今こちらの方々がお嬢様の出した依頼をご覧になられて例の御方の詳しい特徴を確認する為にこの居館に訪れたと」
「あの依頼の似顔絵に心当たりがあるんですか!?」
声の主は老人の横をくぐり抜け俺たちの前に飛び出てきた。
「あ、貴方達は……!ジョン・ドゥとその取り巻き達!!」
声の主は俺達の顔を認識すると、わなわなと震えながら此方に指を差してきた。
少し長くなりそうなので一旦区切りました。




