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壁の花 〜レフィア視点〜

 パーティーなどで、会話の輪から外れている女性のことを壁の花と表現するそうですが、その男性版は壁のシミというらしいですね。


 「では生徒諸君、せっかくの機会じゃ。今日は普段話す機会の無い他寮の生徒と交流してみると良いじゃろう」


 後三日で成績に関わる最初のイベント、ダンジョン攻略が始まる。そんな中で今日は学校主催の交流会という名の立食パーティーが開催されていた。本当はダンジョン攻略に向けて準備をしたかったけど、この交流会で生徒一人一人に自分の班を決めて欲しいという建前がある以上強制的に参加しなければならなかった。


 「どうだ?楽しんでるか?」


 「えぇ、まあ」


 「そうか……なら今度アゾーケント家でもパーティを開く予定なんだが……レフィアも来るか?こんなチンケなパーティでは無く本当のパーティというものを」


 「お構いなく」


 今、私に絡んできているのは私がこの学校で所属することになった班の班長である男子生徒だ。


 初日から元学校長の娘ということで目をつけられていたみたいで、しつこく勧誘されていたが先日同じ班になる事を了承した。


 本当は成績に関わるイベントの事以外では関わりたく無かったが、三年間同じ班として行動する以上完全に無視するという訳にもいかなかった。


 「なに……?……だがレフィアも次期マクスウェル家当主として我が家の主催するパーティで他の招待客に顔を見せておいた方がいいんじゃ無いのか?他の高貴な家柄の者達と関わっておいて損は無いと思うが」


 「お構いなく。私はマクスウェル家を継ぐつもりは無いので」


 私はマクスウェル家の名を借りてるだけでこの身体に一切高貴な血というものは流れていない。だから師匠の家を継げないし継ぐつもりもない。


 「もしレフィアがマクスウェル家を継がなかったとしても……その……将来他の貴族の家に嫁ぐ事になるかもしれないだろ?」


 「嫁ぐつもりは無いので大丈夫です」


 しかし本当に面倒くさい。元々は交流会が終わるまで会場の隅っこでひっそりと過ごすつもりだったが先客が居てそれも叶わなかった。


 会場の隅は既に四人の生徒達に占拠されていた。


 そして誰もがその四人に近づこうとせず、四人を中心にぽっかりと穴が空いていた。


 私も人の密度が低い場所に移動したいとは思っているが、あの場に近づいていったら逆に目立ってしまうと思い仕方なくこの場に居た。


 遠目でしか見えないが、その四人の生徒のうちドス黒く大きな魔力を立ち昇らせているのがおそらく…………ジョン・ドゥという名の生徒だろう。


 最初………その後ろ姿が彼に見えてしまった。


 名前も髪の色も違うのに何故だろうか?


 彼の事だからまた一人ぼっちな誰かのために無理をして魔法学校に入って来てしまったのではと想像してしまった。


 彼は村に居た時からそうだった。私の妹の事もそうだが彼は一人で困っている子を放っておけなかった。

 

 村で一人でいる子が居ればレグスのグループに入れる様に取りなしてあげたりもしていた。


 その子が彼の事を馬鹿にしていたクソ野郎どもの影響を受けて一緒に彼の事を馬鹿にする様になっても、彼はその子が誰かと一緒に居れる様になったことの方を喜んでいた。


 そんな彼だからこそ私は………


 ……駄目だ。何故かあの後ろ姿を見ると彼との思い出がどんどんと出てきてしまう。


 あのドス黒い魔力を垂れ流している男子生徒にはあまり近づかない様にしよう。


 「ん?何を見ているんだ?」


 「いえ、別に……」


 班長の人が私と同じ方向に顔を向けた。


 「……あいつら、分不相応にもこの会場内に入りやがって。ここは下賤な人間が来ていい場所では……………ウッ!?」


 「………?」


 班長の人が件の四人の方に近付いていこうとしたので止めようとしたが、私が声をかける前に班長の人の身体が急にビタッと止まった。


 「………どうしたんですか?」


 「………………なんでもない!……いや、俺はもう向こうに行くけどパーティの件考えておいてくれ」


 ………行ってしまった。一体何だったのだろうか?


 しかしそうこうしてるうちにパーティも終わりそうだ。

 

 このパーティが終われば次はダンジョン攻略だ。


 漸く始まる。


 私は必ず『状態異常封じの腕輪』を手に入れて彼を迎えに行く。私自身の罪と向き合う為に。











 一方その頃


 パーティ会場の隅に陣取っている四人は困り果てていた。


 「どうしましょうか」


 「どうしよう」


 「うーむ、出来る事なら最後の駄目押しとしてこの交流会で未だに入る班の決まってなさそうな一人で居るものに声をかけて回ろうかと思っていたのでござるが…………この様子では無理そうでござるな」


 「俺のせいですまない」


 「大丈夫ですよジョンさん!僕が三人分の力になるんで!寧ろ後ろの方で踏ん反り返っていてもらって構いません!」


 「私だって負けませんわ!今度のダンジョン攻略でもゴールまでの道を阻む有象無象どもを蹴散らして見せますわ!」


 「誤解させてしまったのならすまぬ。ジョン殿を責めた訳ではござらん。寧ろこの様な頼もしい二人との縁を繋いでくれたジョン殿には感謝しているでござるよ」


 「みんな………」


 「これ以上班員が増えそうにないのでしたら今はパーティを楽しみましょう!ジョンさんもこの料理をお食べになってみてください!」


 「ふむ、やはり貴族向けの食事というのは豪勢でござるな。しかし拙者には故郷で食べていた質素な料理の方が合うでござる。ヘンリー殿はどうでござるか?」


 「僕は学校長に引き取られてからはここまで豪華ではないですけど似た様な食事をしていたので………」


 「……美味い」


 「…………ジョンさん?」


 「あ、いやすまない。こんな料理を食べたのは初めてで」


 「……?今まではどんなものを食べてたんですか?」


 「俺の生まれた村が『腐敗領域』の近くにあって植物もあまり育たない様な村だったから、こと食事で贅沢が出来なくて……」


 「え!?ジョンさんって貴族の方じゃ無かったんですか!?」


 「そうなのでござるか!?」


 「寧ろ何でそんな誤解をしてたんだ!?」


 「だって……ジョンさんの指に嵌まっている二つの指輪って貴族の中でもかなり上位の家の者じゃないと買えない様な指輪ですよ?もし貴族ではないのならジョンさんはどうやってその指輪を手に入れたんですか?」


 「……『召喚の指輪』は貰い物で『転移の指輪』の方は王都の裏路地にある店で宝石と交換したんだが……もしかして俺が貴族じゃ無かったら何か不味かったか?」


 「……もしジョンさんが貴族じゃないって周りにバレてしまったら卒業後に命を狙われる可能性が出てきます」


 「ああ、その件なら大丈夫ですわ。ジョンさんは今、名前を変えて変装をなさっているので」


 「という事は今の名と姿はジョン殿の本当の名と姿ではないという事でござるか?」


 「まあ変装と言っても髪と眼の色を変えてるだけだけどな」


 「いや、対策をしているのなら良かったです」


 「しかしジョン殿が貴族ではないという事は隠しておくに越した事はないでござろう。幸い今は周りからこれだけ距離を取られているおかげでこの会話が聴こえたということもないでござろうし」


 「まあもしバレたとしても安心なさってください!ジョンさんが貴族の一員になれば何の問題もございませんわ!」


 「む?この国の貴族とはそう簡単になれるものなのでござるか?」


 「いや、そんな筈は………一体どんな方法なんですか?」


 「それは勿論私とジョンさんがけっ……けっ………」


 「「「けっ?」」」


 「……決闘して私から貴族の地位を勝ち取れば良いのですわ」


 「いや、それは流石にまずい。俺が罪悪感で死んでしまう」


 「そうですよ、それにその方法を取ったら今度はリリィさんの方が狙われてしまうかもしれないじゃないですか」


 「うむ、この学校生活三年間の間だけとはいえ背中を預ける仲間が今の地位を失うというのは手放しで賛同は出来ぬでござるよ」


 「そ、そうですわよね。少し早まってしまいましたわ………はぁ」








 ここまでこの小説を読んでいただき誠にありがとうございます。良ければ評価、感想などをいただけるとモチベーションに繋がります。

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