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問題児達

 


 「えーっと、じゃあ今から召喚魔法と魔法生物学の授業を始めさせて貰うよ」


 この魔法学校に潜り込んで二週間、漸く授業らしい授業が今始まろうとしていた。


 「それにしてもこの人数は…………何というか………」


 前にこの学校の食堂で会った、ムツゴーロ・モンストラムと名乗っていた教師は教室に集まった俺達を見渡して表情を固くしていた。


 今、この召喚魔法と魔法生物学の教室には教師であるムツゴーロ先生を除いて、俺、ヒサメ、ヘンリー、リリィの四人しか生徒が居なかった。


 「おかしいな……僕ならエンシェントドラゴンを生で見れるとなれば魔競技で召喚術が使えなくなったとしてもこの授業に飛び付くんだけど………一体なぜ…………あれが………いや………しかし…………………」


 ムツゴーロ先生はボソボソと何かを呟きながら一人で何か考え込んでいた。


 「あの……先生、授業の方を………」


 そしてそんなムツゴーロ先生に授業を始める様にヘンリーが促した。


 「………おっと、すまない。本来この授業に誰も来ない可能性もあった筈なんだ。そんな中でエンシェントドラゴンと契約しているジョン君や、こんな中でこの授業を選択するくらい熱意のある三人が来てくれたんだ。ならば僕もそれに応えないとね」


 「………葛藤が解決出来た様で良かったでござる」


 「ありがとう………じゃあ、改めて今からこの授業の大まかな流れを説明をするよ。まずは………」


 説明を簡単にまとめるとこうだ。


 この授業は大きく三段階に分けて授業を進めていくそうだ。


 第一段階は召喚術の習得と基礎的な知識、そして各々の契約を希望している生物についての生態や関わっていく上での注意点についての授業。


 第二段階は実際に校外に出て先生の引率の元でその生物を探し、契約を試みる授業。


 そして第三段階では自分の契約した生物との交流をメインに据えた授業を行うそうだ。


 「じゃあ次に………ジョン君、みんなにこれを配ってくれ……………おや、ジョン君はもう持っているみたいだね」


 そう言ってムツゴーロ先生は俺に三つの指輪を渡した。


 「これは転移の指輪と言って、一度訪れたことのある場所に一瞬で移動できる転移の魔法の力が封じ込められた指輪だよ。使い方は後で説明するけど、この授業は基本的に校外で行うんだ。最初は僕の召喚するグリフォンに乗って移動して貰うけど二回目からはこの指輪で移動するようにしてほしい。後、授業中に校外で不測の事態に遭遇したらこの指輪を使ってすぐにこの教室に逃げてくれ」


 「この指輪は貰えるのでござるか?」


 「いや、三年間学校から貸し出すだけだよ」


 「……それは残念でござる。王都にはその様な便利な道具があるのでござるな………」


 「じゃあ早速校外に出ようと思う。僕は準備をするから君たちは決闘場前に集合しておいてくれ」


 






 「……よし、四人とも揃っているみたいだね」


 言われた通りに決闘場前で待っているとムツゴーロ先生が遅れてやってきた。


 「じゃあまずは君たちに召喚術と魔法生物の両方を披露しよう………来てくれ!みんな!!」


 ムツゴーロ先生がそう言うと、横に現れた大きな魔法陣の中から鳥の様な頭と羽を持った四足歩行の生物が三体現れた。


 「この娘達はグリフォンのグリちゃんとフィンちゃんとドールちゃんだ。僕のお世話しているグリフォン達の中でも気性の穏やかな娘達だ。………どうだい?ジョン君!」


 ???


 「なにが?………ですか?」


 「……この立派な翼!しなやかな脚!!綺麗な嘴!!!君も召喚士なら分かるだろう!?彼女達の魅力が!!」


 ????


 「……ん?これだけじゃ満足できないかのかい?ならこれはどうだい?この柔らかで整った羽毛!この娘達に抱きつくとすごく幸せな気分になれるんだ………こんな風に……スゥーーハァーーー…………………………………………」


 ムツゴーロ先生は自身の召喚したグリフォンに抱きついたまま動かなくなってしまった。この人大丈夫だろうか?


 「……今のうちに皆に伝えておきたいことがあるでござるよ」


 四人で、先生の意識が此方に戻ってくるのを待っていると突然ヒサメが口を開いた。


 「この選択授業に拙者達以外に誰も居らぬというのは運が良かったでござる。前に食堂で少し話した事でござるが拙者達は絶賛嫌がらせの対象になっているでござる。拙者達が手の内を明かせばジョン殿の様に対策をされるかもしれないでござるよ。しかしこの授業中は同じ班に所属する者達しか居ない状況が出来る。つまり拙者達の話し合いの場にはもってこいでござる」

 

 「ならばヒサメさんの使う魔法をこの場でなら教える事が出来ると言う事ですか?」


 「うむ、拙者の使う魔法はこれでござる」


 ヒサメはそう言うと自らの掌に魔力を集め始めた。


 すると掌に集まっていた魔力がどんどん長い棒の様な形に変わっていき最終的に青い半透明な刀が握られていた。


 「これが拙者の使う魔法『魔力刀』でござる」


 「この刀………全部魔力で出来ているのか?」


 「そうでござる。この様に魔力を集めて刀の形にするだけのつまらない魔法でござるよ」


 「………私の魔法と少し似てますわね」


 「リリィも『魔力刀』を使えるのか?」


 「あれ?でもリリィさんってセルシウス寮所属でしたよね?氷魔法を使うんじゃないんですか?」


 「ええ、氷魔法ももちろん使います。ただそれとは別に我がナイトエイジ家に代々伝わっている固有魔法も覚えているのですわ。あと『魔力刀』という魔法ではございませんわよ」


 「ほう?それは興味深いでござるな。是非ともその固有魔法というものを見せて貰いたいでござる」


 「見せたいのは山々ですが私の家に伝わる魔法は少々派手でして………此処で発動したらグリフォン達が驚いてしまいます。なのでまたの機会にさせて貰いますわ」


 派手………ナイトエイジ家の人間に伝わる………


 魔族と戦う時にギルが使っていた魔法か!確かにここであんなものを使えばいくら授業中でもバレるのは必至だ。それに今現在ムツゴーロ先生に抱きつかれていても微動だにしていないグリフォンも流石に驚いてしまうだろう。


 「ではその時を楽しみにしておくでござる。ではジョン殿、そろそろムツゴーロ殿を此方の世界に戻してきて欲しいでござるよ」


 「…………えっ?俺が?」


 「うむ、拙者達はグリフォンに抱き付いて別の世界に旅立っている者を此方の世界に戻す術を知らぬでござる」


 俺も知らない


 「しかしムツゴーロ殿と心を同じくするジョン殿ならばムツゴーロ殿の意識を此方の世界に戻せるのではと思ったのでござる」


 アレと一緒にするな


 「え!?本当ですのジョンさん!」


 ん?なんでリリィさんがそんなに驚いているんだ?


 「……とりあえずやってみるよ」


 未だにグリフォンに抱きついたままトリップしているムツゴーロ先生に恐る恐る話しかけてみた。


 「あの……先生……授業中です」


 「スゥーハァーーー………え?あ、そうだったね。ジョン君にエンシェントドラゴンを見せてもらわないと」


 そう言って先生は佇まいを正し何事も無かったかのように授業を再開した。


 「このグリちゃんとフィンちゃんとドールちゃんが、この授業で校外に移動をする時に君達を乗せて運んでくれるから今すぐ彼女達の名前を覚えてあげてくれ。右からグリちゃん、グラちゃん、グリルちゃんだからね」


 「「「「はい」」」」


 「よし。じゃあ次に……この授業の最終目的は君達に召喚術を覚えてもらって召喚獣と契約してもらう事だ。残念ながら今年から魔競技での召喚術が使用禁止になってしまったけど成績に関わる三つの行事のうち最初の一つ、ダンジョン攻略では召喚術が使えるみたいだから上手く行けば二年目と三年目のダンジョン攻略では君達の成績に貢献できると思う」


 「ダンジョン攻略……って危険じゃないですか?」


 「ああ、本物のダンジョンに挑む訳じゃないよ。このマジカルヤマダ魔法学校にあるダンジョン生成室という部屋で生成されたダンジョンに班ごとに挑んで貰うっていう行事なんだけど、ダンジョン内では本当に傷を負う事は無いから」


 「傷を負う事は無い?」


 「そうだ、生成されたダンジョン内にいる魔物から攻撃を受けたりしたらリタイア判定を受けてダンジョンから追い出される仕組みになっているんだ。だからダンジョン内で本当に怪我したり死亡したりする心配は無いよ」


 「なるほど」


 流石に当然か。この学校の生徒のほとんどが貴族なのに危険の伴う様な行事を必須にする訳なかった。


 「あ、でもだからって来年以降のダンジョン攻略に間に合わせようとして召喚獣を大事にするつもりもないのに無理に召喚契約を結んだりしてきたら退学だから」


 「大事にするつもりがあるか無いかはどうやって判断するのでござるか?」


 「愛があるかどうかは見れば分かるよ」


 即答だった。


 「……そうでござるか」


 「ダンジョン攻略の説明をしていたら時間が押してるね。

 本当はジョン君にエンシェントドラゴンを召喚してもらって終わりにしようと思ってたんだけど、今日はジョン君以外の三人にどんな生物と召喚契約をしたいか聞いてから終わりにしようかな」


 『えっ!?ずっとアニキに召喚される瞬間を待ってたんスけど!じゃあなんスか、ララは今日頭を撫でられないって事ッスか』


 なんでララはそこまで乗り気だったんだ?


 「えーっと、僕はドラゴンと契約したいです」


 「私もドラゴンを所望しますわ」


 「拙者は鳥の様な、飛行能力を持った生物と契約したいでござる」


 「いや、君達……これ学校の授業なんだけど、冗談はそこまでに…………………曇りなき瞳!?」





 結局、ドラゴンとの契約が授業の最終目標になった。





 各生徒の選択授業に対するモチベーション

 

ヒサメ 班のメンバーだけで情報の共有を行える良い場所が出来た。


ヘンリー 出来ることなら自分のヒーローと同じドラゴン使いになりたい。


リリィ 恩人でもあり思い人である彼と同じ授業ならなんでも良かった。




先生 実は人の名前を覚えるのが苦手。エンシェントドラゴンを召喚出来るということで興味を持ったエデル・クレイル以外の生徒の名前は覚えていない。

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