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魔法学校で行われるイベントの名称を魔競技とさせて頂きました。
授業開始初日、特別寮第一学年の教室の中には生徒が俺を含めて五人しか居らず、前方にある教卓の後ろには死んだ目をした成人男性が立っていた。そしてその男性はやる気が無さそうに俺達に話しかけてきた。
「俺はお前達の担任をやる事になったペレー・シルバーチ。担当教科は魔法史だ。一番やる事が少なそうだったので一番不人気だった特別寮の担任に立候補した」
……授業初日で一番不人気とか生徒のモチベーションを下げるような事を言うなよ………。
「特にお前らと関わるつもりは無いから、お前らも俺に話しかけたりしなくていいからな。それと問題を起こしたりして俺に迷惑をかけるなよ…………特にジャン・ドンっ!!」
「?」
………誰だ?指を差されてるのは俺だが
「お前、入寮してすぐ次期大臣のなんとかって生徒を殴り飛ばして決闘騒ぎまで起こしたみたいだな。早速俺への風当たりが強くなってしまったんだが?ん?」
俺のことだった。
「す、すいません。あと俺の名前はジョン・ドゥです」
「先生殿、少し待ってほしいでござる。ジョン殿は人として正しい事をやったのでござるよ!あとその次期大臣の者の名はアゾーケントでござる」
自分の行動で関係ない人にまで迷惑をかけてしまった事を悔やんでいると、隣の席に座っていたヒサメが俺を庇おうとしてくれた。
「あいつらは爆弾みたいなものだと思え。刺激すると面倒臭いんだよ。知ってるか?今年から魔法競技で召喚術が禁止になったそうだぞ。明らかにそのアーソケットの仕業だろう」
「なっ……!?それは真でござるか!?」
「本当だ。今日の朝、全教師に通達があった。それと本来特別寮以外の各寮ごとに用意された授業があるんだが……この特別寮で授業をするかどうかは俺に一任された。俺はやるつもりはないが……授業を受けたいって奴は居るか?」
「「「………」」」
教室の中は静まり返っていた。
「……ま、だろうな。お前達の目当てはどうせあれだろう?この学校の宝物庫の中のものが目的なんだろう?せいぜい五人で力を合わせて頑張れよ」
「先生殿、なにか誤解があるようでござる。拙者とジョン殿は共に班を組む予定でござるが、彼らとは別の班となる事になったでござるよ」
「………え゛!?マジかよ…………あーお前ら、俺からの最初の授業だ」
さっき授業はしないって言わなかった?
「お前らに人間として大切な心構えについて教えてやる」
魔法学校で急に道徳の授業らしきものが始まった。
「お前らに学んでほしい事、それは相手を認める広い心を持つという事と相手を許せる心を持つ事だ。お前らが二つの班に分かれると言うことは必ず各魔競技で点数を貰うごとに差が付いていく。そしてその度に焦りと相手の班に対して嫉妬という感情が湧いてくるだろう。それは段々と相手に対する怒りに変わってくるかもしれない。しかしそこでグッと堪えて相手も自分と同じ目的のために頑張ってきていたという事を分かってやれ。そして相手の勝利を認め、許してやれ」
要するにスポーツマンシップのことか。自己紹介された時は不安だったが存外まともそうな教師じゃないか。
「だからお前らこの教室の中で争ったりとかして俺に迷惑をかけるような事はするなよ!もし俺の監督責任が問われるような事になったらお前ら…………絶対許さんぞ!」
許せる心はどこ行った。
「じゃあ俺からの授業はこれで終わりだ。さっきも言ったように寮としての授業をするつもりは無い。だが選択授業と魔競技は必ず出てもらう。魔競技の方はお前らも目的の為に絶対必要だから言うまでも無く出るだろうが、選択授業も必ず出てもらう。今から各授業の説明の書かれた紙を配るから期限内までにどの授業を選択するのか、一緒に配った希望用紙に書いて提出してくれ」
「こっちはそんな感じだった」
お昼時、魔法学校の食堂でヒサメと共にヘンリーとリリィに朝の教室であった事を話していた。
「じゃあジョンさん達のところは寮としての授業が無いんですね」
「まあ仕方ありませんわね、特別寮の方々は私たちの寮のように所属している生徒全員の得意分野が同じという訳じゃありませんから」
「確かに生徒一人一人の得意な魔法に合わせて授業というのも難しいのでござろうな。特別寮が不人気というのも頷ける話でござるよ」
「………それよりも皆さん聴きましたか?今年から魔競技で召喚魔法が禁止になった話」
「……ええ、私も朝その話を聴いて驚きましたわ。でもご安心下さいませジョンさん!私がジョンさんの分まで頑張りますから!」
「もちろん僕もジョンさんが宝物庫に辿り着けるように微力を尽くす所存です!」
?……もしかして俺、召喚魔法しか使えないと思われているのか?
『アニキが特別寮所属という情報と召喚術でエンシェントドラゴンを召喚したっていう情報の二つから自然とアニキが召喚魔法特化だと思われてるみたいッスね』
『マジか』
とりあえず召喚魔法以外も(ララが)出来ると言った方がいいんだろうか?
『あ、でも少なくともこの場では訂正しない方がいいッス。召喚魔法の禁止もアニキに対しての嫌がらせみたいッスからね。こんな人間の多い場所でアニキの情報を開示してしまったらアニキと決闘をしたあの人間に伝わってまた追加でなにか嫌がらせをされるかもしれないッスから』
『なるほど……ありがとう、ララ。これからも俺が考え無しに行動しそうになったら教えて欲しい』
『えへへ、このララにお任せくださいッス』
「フッ、ジョン殿は人気者でござるな」
「……ところでヒサメさん、貴方ってどんな魔法を使用になられるのですか?特別寮ということは基本魔法以外の何かの魔法が得意なんですわよね?」
「それは後からのお楽しみというやつでござる。ジョン殿と班を組むと決めた以上は拙者もアゾーケント殿の標的になるかもしれなでござるからな。拙者の魔法まで対策されたら敵わんでござる。だからこのような人の多い場所で拙者の使う魔法を言う訳にはいかないでござるよ」
すごいな、ヒサメもララと同じ考えに至ってる。
『こ、こいつ……ッ!私の発言に便乗してアニキからの好感度を上げやがった……!?』
「なるほど……分かりましたわ。あとジョンさんにも聞きたいことがありますわ」
「俺に……?」
「ええ、あの……そのですね………選択授業は何になさるおつもりですか?」
??、リリィは何を恥ずかしがっているんだ?魔法学校では選択授業で何を選んだか聞くのは恥ずかしいことなのか?
「まだ決めてないんだ」
「そうですか………もし決まったのなら是非この私に教えてくださいまし」
「??……分かった」
頭の中で選択授業である魔法史、魔法薬と薬草学、占いと天文学、召喚魔法と魔法生物学、錬金術と地質学、魔道具製作術の六つのうちどれを選ぼうか考えていると何者かに話しかけられた。
「君がジョン・ドゥ君かい?」
声の方へ顔を向けるとそこには大人が、つまりこの魔法学校の教師らしき人物が立っていた。
「……俺がジョン・ドゥで合ってます」
「食事中にすまないね、僕の名前はムツゴーロ・モンストラム。このマジカルヤマダ魔法学校の教師の一人で担当教科は召喚魔法と魔法生物学です」
「ど、どうも……」
この魔法学校の教師が俺に一体何の用なんだ?わざわざ生徒がひしめき合ってる食堂に足を運んでまで何か伝えたい事があるのか?もしかしてララの事がバレたんじゃ……
『殺りますか』
『はやまらないで』
ガシッ!
ララと念話していると急に目の前の教師から肩を掴まれた。
『殺りますか』
『はやまらないで』
「今年から急に魔競技で召喚術が禁止になったせいで僕の授業が一番不人気なんだ」
「は、はぁ…」
「ところでジョン君、君は召喚魔法でエンシェントドラゴンを呼んだそうじゃないか………是非、僕の授業を選択した方がいい。いや、して下さい」
目の前で頭を下げられた。
「ファッ!?」
こんな沢山の生徒の見てる前で頭を下げられたらあらぬ誤解をされてしまう…!
「ちょっと!貴方何してるんですか!生徒達の目の前で先生に頭を下げさせるなんて!」
ほらぁ!案の定俺が周りから責められるじゃん。
早速、誤解をしているだろう女生徒から詰め寄られた。
「違……っ!先生も頭を上げてください!」
「じゃあ召喚魔法と魔法生物学を選択してくれるのかい!?」
「それは………」
『絶対にやめときましょう、アニキにはララが居ますから新しく召喚獣を増やす必要は無いッス』
『分かった』
「申し訳ありませんが」
「頼む!他の生徒達の前でエンシェントドラゴンの頭を撫でたりとか召喚獣と交流を図っているところを実演して見せてくれるだけでもいいんだ!」
『絶対にこの授業を選択するべきッスよアニキ!他の授業の内容なんて逐次ララがアニキに教えれば済む話ッスから!』
ええ………?どっちだよ。
「分かりました。召喚魔法と魔法生物学を受講します」
「本当かい!?いやー助かったよ!選択授業が始まったらよろしくね……ところで君たち……ジョン君の友達かい?」
先生は、俺が召喚魔法と魔法生物学を選択すると約束するや否や次はヒサメ達三人に話しかけていた。
「ええ?その私的には友達以上と言いますか……」
「僕がジョンさんと友達なんて恐れ多いです!」
「……ここにいる三人共、ジョン殿の友人でござる」
「そうかい、それはちょうど良かった!君達も召喚魔法と魔法生物学を受講しないかい?今ならあの伝説のエンシェントドラゴンを見る事が出来るよ!」
あれ?俺広告に利用されてる?
「ええ、私はもちろん先生の授業を受けるつもりですわ!」
「本当かい!?今年は僕の授業に生徒なんて来ないんじゃないかと心配していたんだが君のような熱意ある生徒が来てくれるようで良かったよ!」
「……ええ!よろしくお願いいたしますわ!」
「まあ、僕も他の選択授業を選んでしまったら貴族の方々にまた何かされる可能性がありますし………ヒサメさんはどうします?」
「拙者も皆と共に授業を受けるのはやぶさかじゃ無いでござるよ」
「やぶさか………?まあ、君も僕の授業を受けてくれるって事だよね!いやー良かった良かった。ジョン君のおかげで三人も生徒が増えたよ!ところで君もどうかな?」
先生は先程まで俺に詰め寄っていた女生徒にまで声をかけていた。
「いえ、私は第二学年なんで……」
「そうなのかい?それは残念だ。ではジョン君達!選択授業でまた会おう!エンシェントドラゴンが生で観れる召喚魔法と魔法生物学で!!」
やっぱり広告に利用されてる?
「……初めは気弱そうな方に見えたのでござるがその実、嵐のような方でござったな」
「………そうだな」
昼食を食べに食堂に来ただけなのになんかどっと疲れた。
少し離れた場所で、
「ねぇ、クレアがああいうのを見逃せないのは分かるけど今はやめた方がいいよ。あの子の魔力を見たでしょ?せっかくクレアも進級出来たのに、あんな危険なのに関わってクレアに何かあったら明日から私は誰とご飯を食べたらいいの?」
「すみません、でも公衆の面前で教師に頭を下げさせるなんて………」
「多分あの子が今年一番の問題児って噂のジョン・ドゥだよ。周りの子がジョンって呼んでたし。」
「そうですか………彼がジョン・ドゥ…………」
「ん?どうしたの?もしかしてクレア、あの子に一目惚れしちゃった?」
「は?」
「そんなに睨まないでよ。冗談じゃない。クレアは家族を救ってくれた謎の男の子一筋だもんね」
「………別にそんなんじゃありません」
「顔を真っ赤にして否定しても説得力ないよ……………まだ見つからないの?」
「……弟達を連れて騎士団の手配書を見に行ったんですがどれも違うと言われました」
「そっか、でもという事はその人は犯罪者じゃないって事よね?良かったじゃない」
「なら何故その方は名を名乗らなかったのでしょう」
「なんでだろうねぇ。クレア達に恩を感じて欲しくなかったからとか?」
「ありえません。家宝を自慢するようですが『聖剣デュランダル』を持っていればどんな事でも出来ます。それにあの『腐敗領域』の中にあった筈で入手するのも大変だった筈です。それをなんの見返りもなしに人に渡すなんて………」
「もしそうならどんだけいい人なんだって感じよね」
「そうですね、でも……もしそうならジョン・ドゥにも見習って欲しいものです」
「へっくしっ!」
「大丈夫でござるかジョン殿」
「風邪かな?」
「風邪ですか?なら僕の炎魔法で暖を取りましょうか?」
「いや、大丈夫だと思う」
『アニキの身体に異常は無いみたいッス』
『……俺の身体の状態が分かるのか?』
『ええ、アニキに何か異常があったらすぐに分かります』
『………至れり尽くせりだな』
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