四人目
ジョン・ドゥは召喚術特化で特別寮に入った者だと学校中の全ての人間が思っています。
「さて、明日から授業が始まるでござるがその前にやっておかなければならない事があるでござる」
「「やっておかなければならない事?」」
学生が一日自由でいられる最終日、入学資金集めに奔走してこの学校の情報を集めていなかった俺と、記憶喪失になってしまったヘンリーは、この中で唯一この学校の情報に詳しいヒサメの「本格的な授業が始まる前にやっておかなければならない事があるでござる」という鶴の一声のもと特別寮の部屋に集まっていた。
「ヒサメの言う通りにヘンリーを呼んできたけど、今日までに何かしなきゃならない事があるのか?」
「うむ、昨日予期せぬ幸運でヘンリー殿が班に入ってくれたでござるが、この魔法学校で定められた班を構成する人員は最大六人。後三人は入る余地があるでござる。今から勧誘しに行くでござるよ」
「……でもヒサメがこの班に入ってくれる人は居ないみたいな事を言ってなかったか?」
「可能性は限り無く低いでござるが、後から後悔をしないように出来る事はやっておきたいでござる。拙者たちの班に入ってもいいと言う風変わりな者もいるかも知れないでござるからな」
「アドルフ校長は四ヶ月後にある最初のイベントの前に生徒達が班をどうするか決める事が出来る様に、他の寮の生徒との交流の場が用意されているって言ってましたよ?その時じゃ駄目なんですか?」
「其れは既に形骸化しているらしいでござるよ。今はほとんどの者がこの魔法学校に入学が決まった時点で誰の傘下に入るか、誰を傘下に入れるかが決まっているそうでござる。派閥やら、地盤固めやら、貴族社会の中での家同士の繋がりというやつでござろう」
じゃあ今から俺たちは希少な『特別寮の人間に対して忌避感を抱いていない生徒』の中から更に希少な『まだ班が決まってない生徒』を探さなければならないということか…………無理ゲーじゃん。
「だからこそ、数少ない未だ班の決まっておらぬ生徒を他の者に取られる前に此方から動くでござる」
そうして俺とヒサメとヘンリーの三人で班に入ってくれそうな生徒を探しに行くことになった。
「とりあえず部屋から出たものの……ヒサメは班に入ってくれそうな生徒に心当たりはないか?」
「うむ、まずは一番可能性の高い同じ特別寮の者達を勧誘しに行くでござるよ」
「じゃあ……隣の部屋ですね」
「ここは拙者に任せるでござる」
ヒサメが隣室のドアをノックした。
「すまぬ、少しよろしいか!同じ特別寮に所属している者でござる!扉を開けてもらえぬか!」
ヒサメがドアに向かって呼びかけているとゆっくりとドアが開き、警戒しきった顔で男子生徒が顔を覗かせた。
「……なんですか?」
「手間を取らせてしまってすまぬ、拙者は隣の部屋に住むヒサメ・ムイチモンジと申す。そして彼らは同じ班に所属するジョン・ドゥ殿とヘンリー・ヴィクティウム殿でござる」
「「どうも……」」
「拙者?ござる?……貴方、王都の人間じゃないんですか?だとしても王都にいるのなら王都の言葉で話してください。何を言っているのか分かりづらいです」
「それはすまぬな………ジョン殿、説明を交代して欲しいでござる。どうやら拙者の言葉は王都の者にとって難解なようでござるからな」
「分かった」
ヒサメには入学してからというもの世話になりっぱなしだ。これぐらいの頼みなら喜んで引き受けた。
「あー、さっき紹介に与ったジョン・ドゥだ。もし入る班が決まってないようだったら俺たちの班に入らないか?」
「……は?貴方があの入学して次の日に次期大臣のアゾーケントに喧嘩を売ったっていうジョン・ドゥですか?なら、嫌に決まってるじゃないですか。貴方と同じ班になるって事はこの学校の全ての貴族を敵に回すって事ですよ?それに既に同室の方と、もう一つ隣の部屋の方と班を組む予定になっています。貴方達と班を組む事は出来ません」
「……そうか」
「ならば其方も此方も三人ずつで合わせて六人になりますね。三年間どんなルールのイベントがあるか分かりません。お互い人数が多いに越した事はないんじゃないですか?」
勧誘を断った理由が俺にあると言われ説得を諦めようとしていたが、ヘンリーが負けじと俺の代わりに説得を続行していた。
「確かに班の人数が最大の六人になるのはメリットです。ですが、殆どの貴族に悪感情を持たれるというのはそれ以上のデメリットなんです。申し訳ないですが諦めて下さい」
「…………僕はイフリート寮に所属していますよ?」
「…………確かに基本魔法が使える奴が同じ班にいてくれるのは心強いですね。私達は全員基本魔法が苦手ですから………………分かりました、お互いの班を一つに合わせても構いません」
「本当ですか!」「本当でござるか!」
「ええ、ただ一つ条件があります」
「「「条件?」」」
「ジョン・ドゥを貴方達の班から外して下さい」
「えっ……?」
俺が抜ければ二人と班を組んでくれるのか……別に俺は一人でイベントに臨むような事になっても構わなかった。もともとは一人で挑む予定だったからだ。ララが居れば一人でもなんとかなると思っていた。
『このララに任せてくださいッス!必ずアニキを宝物庫まで連れて行くッス!このララが!』
だが俺が一人で勝ち続けると言うことはヒサメが宝物庫の中にあるらしい『名刀でゅらんだる』を諦めると言うことだ。たった二日程度だったが彼らとの親交を深めた今、そんな事にはなって欲しくなかった。だからと言って俺が『状態異常封じの腕輪』を諦めるという訳にもいかず、この提示された条件に対して二人がどう返すのか不安だった。
「申し訳ございません。この話は無かったことにして下さい。行きましょうジョンさん、ヒサメさん」
「あ、あぁ」
「うむ、時間を取らせてしまってすまなかったでござる」
二人共さっきまで粘っていた姿が嘘のようにそそくさとその場を立ち去ろうとしていた。
「……ちょ、ちょっと待って下さい!貴方達にとっても悪い条件じゃないはずです!ジョン・ドゥと同じ班に所属するということは貴方達も貴族の方々に睨まれるってことですよ!?」
「そうやって出来た班に僕が頑張る理由は無いですから」
「どちらにせよこの魔法学校の催し事で勝ち続けるならば、そういった者たちに疎まれるのは変わらんでござるからな。ならば周りからの評判など関係なく己の信頼できる者と班を組むのは道理でござろう?」
二人が最後にそう言い残し三人でその場を後にした。
「すまない……俺が居なければ今頃五人の班になっていた筈なのに」
「気にしないで欲しいでござる。ジョン殿が居なければ基本魔法の使い手であるヘンリー殿との縁が出来なかったでござるからな」
「そうですよ!俺が彼らの分まで動くんでそんなに落ち込まないで下さい」
「二人とも………ありがとう」
「なに、拙者はただ単純にあの者達とジョン殿のどちらが拙者の目的に利用出来るかどうか秤にかけただけでござる。だからジョン殿がそこまで気にする必要はないでござるよ」
「お礼を言わなければならないのは僕の方です。あの時ジョンさんに助けてもらわなかったら今頃どうなっていたか……」
「いや、その事は気にしないで欲しい」
「じゃあジョンさんも気にしないでください」
「では、気を取り直して勧誘を再開するでござるよ」
「……何か他にあてがあるのか?」
「ないでござる。だから手当たり次第に話しかけてみるしかないでござるよ」
「分かった」「分かりました」
その後、三人で道行く生徒を手当たり次第に勧誘してみたが誰一人首を縦に振ることはなかった。
「………けんもほろろでござるな」
「……全滅でしたね」
「…………」
やはり俺の存在はこの班にとってかなりマイナスなのではないだろうか。ほとんどの生徒が俺を見た瞬間怯えて逃げるように去っていった。
「少しよろしくて?」
三人で散々な結果に黄昏ていると女生徒が話しかけてきた。
「……なんでござるか?」
「ござる?……ここでエデ、ジョン・ドゥという方が班員を募集していると聞いたのですが……貴方方、何か知りませんか?」
「ジョン・ドゥ殿ならここに居るでござるよ」
ヒサメが俺の肩に手を置いた。
「………?貴方がエデ、ジョン・ドゥですか?でも確か彼は茶髪だった筈……でも顔の造形は一緒ですわね………あ!!卒業後に宝物庫から頂いたものが狙われないように変装なさっているのですね!」
「……君は俺の事を知っているのか?」
王都に、それもこんな貴族然とした口調の知り合いなんて居なかったと思うが………。
「あ、申し遅れました。私、リリィ・ナイトエイジと申します。イーギル・ナイトエイジの妹です」
「……ギルの妹ッ!?」
……という事はあの時盗賊団に誘拐されていた女の子か!
「はい、貴方に救っていただいたお礼を直接言いたくて、ジョンさんをずっと探しておりました。昨日もお部屋へ伺わせて頂いたのですが、どうやらいらっしゃらなかったみたいなので……今日ジョンさんがここで班員の勧誘をしていると聴いて急いで駆けつけましたわ」
昨日は学校探索、決闘、保健室と一日中部屋を空けていたからな、申し訳ない事をした。だが彼女の態度を見る限り俺たちの部屋を荒らした人物と鉢合わせたりはしなかったようなのでそれは良かったと思う。
「すまない、昨日はずっと部屋を空けていたんだ」
「いえ!責めてるわけじゃございません!私が勝手に訪ねようとしただけでジョンさんに非は一切ございませんわ!」
無駄足を踏ませた事を謝ったが、彼女は必死でそれを否定した。
「……コホン、では改めて……ジョン様、あの時は私を助けて頂いて本当にありがとうございました」
彼女は深々と頭を下げ感謝を伝えて来た。その綺麗な所作に釣られてつい俺も頭を下げ感謝を受け入れてしまった。
「ど、どういたしまして……」
「………それと重ねてジョン様に一つお願いがございます」
「お願い?」
「どうか私をジョン様の班に入れてくださいませんか?」
正直、魅力的すぎる提案だった。俺のせいで班のメンバーがこれ以上増えないかもしれない中で彼女が俺たちの班に入ってくれるのならとても助る。だが彼女が俺たちの班に入るということは彼女も周りに疎まれたり、最悪嫌がらせの対象になってしまうかもしれないという事だ。恩を着せる形で彼女の貴重な三年間を棒に振らせるなんて事は出来なかった。
『その通りッス、アニキ!アニキのことはララが守るから問題ないッスけどこの女はどんな事されるか分からないッスからね!決してアニキの班員集めを邪魔してるわけじゃ無いッスよ?この女の為に言ってるんス』
「……盗賊の一件のことならもう気にしないでくれ。俺も君のお兄さんにかなりお世話になった。だから俺もこれ以上恩を着せるなんてことするつもりはない……だから君も恩を返そうとしてこの班に入るなんてことはやめておいた方がいい」
「……それは昨日ジョンさんがアゾーケント家の者を決闘でぶちのめしたことと関係ありますか?」
「……そうだ。この班に入ってしまうと君もこの学園の殆どの生徒から疎まれる事になると思う」
……ぶちのめした?聞き間違いか?
「ならば大丈夫です。私は恩返しのつもりで入るのではなく、私がジョンさんの班に入りたいから入るのですわ!その結果どうなろうが後悔はしませんわ!……そこの方々、ジョンさんと同じ班の方々ですわよね?私が班に入る事に何か問題はございますか?」
「特に問題はないでござる。むしろ大歓迎でござるよ」
ヒサメっ!?
『こいつッ……!どこまでも私の邪魔をするつもりかッ!』
『ララ?』
『なんでもないッスよ!』
だがララの不安も分かる。彼女やその周りに何かあった時に俺に責任が取れるかどうか聞かれると難しいと言わざるおえないからだ。
「……でも家族の方に手を出される可能性もあるんだぞ?」
可哀想だが少し強めに脅しておこう。
「それも大丈夫ですわ!私の家族は兄のイーギル・ナイトエイジただ一人。あのような方々が兄をどうにか出来るとは思えませんし何も問題ありませんわ!それに私は初めからジョンさんの班に入るつもりで準備してきました。もしジョンさんの班に入れなかったら一人で各イベントに臨む覚悟ですわ!」
!?彼女の家族はギルだけだったのか。確かに俺もギルの強さは信頼しているが……
「なのでどうか私をジョンさんの班に入れてくださいませんか!」
この強引さもギルそっくりだな。……ギルの妹を一人にする訳にいかない。彼女を班に入れよう。
「……分かった。これからよろしく頼む」
『アニキ!?』
「はい!私のことは是非リリィとお呼びください!不束者ですがどうかよろしくお願いいたしますわ!」
この小説をここまで読んでいただいて誠にありがとうございます。これからもよろしくお願いいたします。
魔法学校編の現在登場しているキャラの簡単な紹介のようなもの↓
ジョン・ドゥ 本名エデル・クレイル。決闘の件もありこの魔法学校中の恐怖の対象。本人は魔力が見えないせいで気付いていないが魔力の色が、この世の全ての悪を全て集めたかのようなドス黒い色をしている。これは本人の魔力ではなく『悪滅の雷』の魔力だが周りからはエンシェントドラゴンという国一つ滅ぼせる力を持った極悪人に見えている。
ヒサメ・ムイチモンジ 最初は同室のジョン・ドゥの魔力の色を見て警戒していたが、人を足蹴にしていた貴族を殴り飛ばしたところを見てジョン・ドゥがどのような人間か分からなくなる。結局魔力の色よりも自分の眼と勘を信じてジョン・ドゥになら背中を預けれると信頼を置く。もしその事をエデルに告げたらエデルからの好感度がかなり上がり謎の黒髪の少女に殺される。
ヘンリー・ヴィクティウム ジョンの魔力の色に関しては記憶が無かったせいで嫌悪感を抱かなかった。むしろ恩人の色という事で黒色はいい色というイメージを持った。
リリィ・ナイトエイジ 前にエデルを見た時はドス黒い魔力をしてなかったことから何か事情があるんだろうと察する。本当は感謝の言葉よりも自分のせいで人の命を奪わせてしまった事を謝りたかったが、周りにヒサメとヘンリーがいた為にエデルが人を殺したという事を口に出せず謝れなかった。




