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キミに決めたっ!


 「逃げずに来たようだな」


 どうしてこうなった。


 ララに促されるままに魔法学校内にある施設の一つ、決闘場という場所に連れてこられた。決闘場の中に入ってみると天井は無く、中心にかなり広い石造りの足場があり、それを囲むようにまるでサッカースタジアムのような階段状の観客席が設置されていた。


 そしてその観客席をこの魔法学校の生徒達が埋め尽くしていた。


 「では早速貴様の公開処刑を始める。…………オイ審判!さっさと始めろッ!」


 『……あの立会人兼審判、どうやら向こうの味方のようッスね。あの二人、今目配せしてましたよ』


 勝手に話が進んでいるが俺は決闘を仕掛けた覚えも了承した覚えも無い。


 『アニキ、あの倒れた男の血を拭き取ってやるのに奴がアニキに投げつけて来た手袋を拾って使ってましたよ』


 手袋を拾ったら決闘……って、まさか中世ヨーロッパ的なアレだろうか。


 「で、ではまずお互いに魔術契約書スクロールに自身の所属している寮と名前、勝利時に相手に求めることを書いてください」


 立会人の男が何かの紙を渡して来た。


 スクロール?


 『お互いの魂を縛る契約書の事ッスね。一度サインしたらその契約を守るか、それとも死ぬかの二択になります』


 『学生同士の諍いにそんなものを持ち出すか?普通』


 『でもその紙に書いた事をあの人間に絶対実行させる事が出来ますよ?』


 『そりゃあ(二度と彼に関わるな)と書きたい気持ちはあるが、決闘の方法って召喚獣を闘わせるってやつだろ?』


 『はいッス!だからララを出してくれたら絶対勝てる戦いッスよ!』


 『いや、出さないが』


 『!?』


 『せっかく寮分けの時に退学を回避出来たのにララを召喚したら今度こそこの学校を追い出されるだろ。いや、それだけならまだしも最悪俺が指名手配されるぞ。……だからってイリエステルを召喚したらこの学校の生徒も教師もとんでもない事になるし』


 あれ?この決闘勝ち目なく無いか?


 『ならララが別の生物に姿を変えるんで、それでどうッスか?』


 『別の生物に変身……ってどんな姿になれるんだ?』


 『ララが寄生した事のある生物なら何にでも変身できるッス。あ、でも安心してください。どんな姿に変身してもララの強さは据え置きッス。たとえどんな弱小生物の姿で召喚されたとしても、あの人間が召喚したヤツをぶっ飛ばしてやるッス!』


 『流石に勝ったら怪しまれるレベルで弱そうな生き物の姿はやめて欲しい』


 『分かったッス。とりあえずアレが召喚したもの次第で考えるッスよ』


 決闘をどうするかの方向性も決まり、スクロールに此方の要望を書こうとしたところで手が止まった。


 此方の要望はもちろんあの男子生徒に金輪際関わるなという事だが、件の男子生徒の名前が分からなかった


 『大丈夫ッスよ。本人が誰の事かを理解していれば効力があるんで、そのまま書いて良いと思います』


 『そうなのか、じゃあそのまま書いて大丈夫そうだな』


 「ではスクロールを此方に渡してください」


 言われた通り立会人の男に此方の名前と要望を書いたスクロールを渡した。


 「では最後にお互いが書いたスクロールに承諾のサインをしてください」


 相手の男、ユリウス・アゾーケントが此方に対して要求したい事を書いたスクロールを渡された。


 書かれていた内容はこうだ。


 ユリウス・アゾーケントに家族、恋人、友人の名前と住所を包み隠さず全て報告する。


 なんだか碌なことにならなそうな条件だった。


 『まあ勝つのはアニキとララなんでちゃちゃっとサインしちゃいましょう!』


 『分かった』


 ララを信じてスクロールにサインした。








 「ではこれよりイフリート寮所属、ユリウス・アゾーケントと特別寮所属、ジョン・ドゥによる決闘を始めます!決闘方法は召喚獣による代理決闘!お互いに決闘に使用する召喚獣を召喚して下さい!」


 「貴様特別寮だったのか!基本魔法も満足に使えない落ちこぼれが相手だったとはな!」


 アゾーケントは見下したような目で此方を見てきた。


 「魔法も満足に使えないならこの学校から出てけ!」

 「特別寮の奴なんてほとんど劣等種と同じじゃないか!」

 「早く負けてしまえ!」

 「ユリウス様!頑張ってください!」


 観客席からもブーイングが嵐のように飛んできた。どうやら此方に味方は居ないようだ。


 『相手の人間は王国の貴族の中でもかなり高位の貴族で基本魔法もしっかりと使える、この学校のほとんどの生徒にとっての象徴の様な存在なんでしょう』


 「俺に刃向かわなければもう少し長くこの魔法学校に居ることが出来たのにな!俺が召喚するのはこいつだ!」


 アゾーケントの指に嵌められている指輪が光ると、彼の目の前に成人男性四人分程の大きさのドラゴン?が現れた。


 「この世界の生態系の頂点に君臨する竜種、ワイバーンだッ!」


 GYAAAA!


 ワイバーンのけたたましい鳴き声と共に観客席からは歓声が聴こえてきた。



 『ララ、アレに勝てそうか?』


 『そんなの楽勝ッスよ。姿は……とりあえず相手と同じ竜種の姿にしときましょうか』


 『そうだな、それで頼む』


 ワイバーンがワイバーンに勝っても周りに違和感を感じられたりしないよな?


 「ん?どうした?恐怖で声も出ないか?それも仕方ないか、このワイバーンを捕獲する時と調教する時に父上の部下をかなり消費してしまったが、それに見合うだけの強さを持っているからな」


 「ジョン・ドゥ、早く決闘に使用する召喚獣を召喚してください!」


 立会人から早く召喚しろと、強い口調で催促された。


 『やるぞ、ララ。この決闘に勝って彼を助けるんだ』


 『え、別にそれは……いや………ララ、ヒトダスケダイスキッス。ガンバルッス』




 「来てくれ!!ララーーッ!!」




 だが俺の目の前には何も現れなかった。


 あれ?ララ?……ララさん?


 「…………フハハハ!何も来ないじゃないか!その指輪は飾りか?それともお前の召喚獣が俺のワイバーンを前に震えて出てこないのか?どちらにしろお前が召喚獣を出さないのならこの決闘は俺の勝利の様だな!」




 途端、決闘場に降り注いでいた陽の光が何かに遮られた。


 「ん、なんだ?」


 アゾーケントが上を向いた。俺もそれに続く様に上を見た。


 そこには竜がいた。


 だが竜は竜でもアゾーケントの召喚したワイバーンとは比べ物にならないほど巨大で、神聖な雰囲気を纏った、ドラゴンという呼び方すら烏滸がましいと思える様なナニカだった。




 ソレはゆっくりと決闘場に降りてきた。


 「あれは………エンシェント………ドラゴン………!?どうしてそんな伝説上の生き物が…………!?」


 エンシェントドラゴンと言うのか?あの生物は………


 エンシェントドラゴンのその白く巨大な躰が降りて来ただけで決闘場の面積の殆どが占有されてしまった。


 アゾーケントが召喚したワイバーンが怯えていた。それもそうだろう。エンシェントドラゴンは、人間よりも大きなワイバーンを一呑に出来る程巨大なのだ。


 だが怯えているだけワイバーンは凄い。


 この場にいる人間は俺を含めて状況を理解出来ずに固まっていた。恐ろしく巨大な怪物が降りて来たというのに誰も逃げようともしなかった。いや出来なかった。


 エンシェントドラゴンが此方へと首を向けた。直後頭の中に声が響いた。


 『あ、アニキ!言われた通りに竜種の姿で来たッスよ〜』


 いや、うん、タイミング的にそうじゃないかなぁ?とは思ってはいたよ?だけど姿が予想と違いすぎて固まっていた。


 『ララ……なのか………?』


 『そうッス、アニキが言ったんじゃないッスか。竜種の姿で頼むって』


 『いや、でも………』


 思ってたんと違う。


 「………………まさか、そのエンシェントドラゴンが………お前の召喚獣………なのか………?」


 アゾーケントが化け物でも見るかの様な目で俺を見てきた。


 「そう…みたいだ……いや、そうだ」


 「だ、だがお前はエンシェントドラゴンを召喚出来ても命令を言い聞かせることが出来るのか!」


 『こいつララのことを馬鹿にしてるッス!アニキの言う事ならララは無条件でなんでも聴くッス!』


 途端にエンシェントドラゴンが俺を守る様に体勢を変えアゾーケントに向かって咆哮した。


 GURUAAAAAA!!!


 「ヒッ………」


 アゾーケントは尻餅をつきそのまま後ろにずりずりと下がっていった。


 「………ワ、ワイバーン!!その化け物をなんとかしろぉ!」


 だがワイバーンは先程の咆哮で完全に戦意を喪失していた。


 これもう決闘どころではないだろ。


 「えーっと、これどうする?」


 立会人兼審判をやっていた男子生徒に判断を仰いだ。


 「え、えーっと」


 男子生徒はチラリとアゾーケントの方を見て判断を仰いでいる様子だった。


 だがアゾーケントは怯えていてその目配せに気付いていないようだ。


 「……で、では…………続行します!!」


 鬼か。


 それか実はアゾーケントのことが嫌いなのか?


 『ララ、ワイバーンを平和的に無力化する方法は無いか?』


 流石に戦意を喪失している動物を嬉々として殺しにかかる精神はしていない。


 『平和的に殺せばいいんでスか?』


 全然違う。


 『命を奪わずに無力化してほしい………難しいか?』


 『そんなまさか!アニキが望むのならララはどんな無理難題にも答えて見せますとも!』


 そう言うとエンシェントドラゴンの姿をしたララは、その巨大な口でワイバーンを一呑した。


 !?


 『口の中でこの竜種に強制送還魔法をかけて元居た場所に戻してやったッス。これで周りから見たら食べられた様に見えると思うッス』


 『そうか………無理言ってばかりでごめんな』


 『そんな!さっきも言った通りアニキからの命令なら喜んで聞くッス!』


 『嫌な事は正直に断って欲しい。でも………ありがとう。ララのおかげで助かった』


 これで彼は酷い学生生活を送らずに済むだろうか。


 『◎△$♪×¥●&%#♡?!』


 !?突然頭の中に叫び声みたいなものが!


 『ララ!?どうした!』


 『気にしないでください』


 『お、おう』


 気を取り直して改めて審判のほうを見た。



 「しょ、勝者!ジョン・ドゥ!!」





 この小説を読んでいただいて本当にありがとうございます。皆様のおかげでこの小説の総合評価が1000を超えることが出来ました。出来ればこれからもよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] こんな重い子たちがあと五人も追加されると思うともう 爆笑ですわ
[一言] これ更に恨まれてろくな事にならなそう…… 当人が近寄らなくていいだけで人を使えば骨抜きになりそうな約束だし 最近更新が多くて嬉しいです。次回も楽しみです。
[一言] 姿を変えても強さが変わらないのは色々利用できそう
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