同族嫌悪
難産でした。書きたいことを詰め込みすぎて急ぎ足になってるかも知れません。読んでいて違和感等を感じる箇所が有れば感想で教えていただければ助かります。
「「…………」」
小屋の中には重苦しい雰囲気が漂っていた。
ララもイリエステルも互いへの嫌悪感と敵対心を隠そうともしていなかった。
………どうしてこうなった。
ララの方はまだイリエステルの事を嫌いだと言っていたから警戒心を剥き出しにするのも分かる。ただその嫌っている理由は何かしらの誤解があって、イリエステルと話し合えばその誤解も解けるだろうと思っていた。
………分からないのはイリエステルだ。彼女もララに対して何か怒りを抱いている様だった。あまり感情を面に出さない彼女がここまで不機嫌になるとは思わなかった。
一体イリエステルは何に怒ったんだ?確かにさっきのララの自己紹介は馴れ馴れしく、煽っているような言い方をしていたが、イリエステルは煽られたらすぐにキレる様なタイプには思えない。
さっきの自己紹介の中に何か癇に障る部分があったのか?
ララが俺の中に住む事になったと言った事か?ララに名前をつけた事か?それともララが、俺を護ると言ったことか?ララが水晶に映る映像をすり替えていた事か?
可能性があるとすればララが俺を護ると言った所だろうか?イリエステルはよく俺を助けたがっていた。もしかして彼女は、俺の窮地を救い続けないと、唯一自分に近づくことの出来る存在である俺との縁が切れてしまうのではないかと不安に思っていたのではないだろうか?だからララの事が自分を孤独にしに来た敵に見えているんじゃないだろうか?
だがララを自分に寄生させるという事はもう自分で決めた事だ。そうなるとイリエステルが危惧している通りに彼女の力が必要になる機会はガクッと減るだろう。しかしそうなったとしても決して命の恩人である彼女を独りにはしないと伝える必要があった。
説明をするために口を開こうとしたら、先にイリエステルの方が口火を切った。
「エデル、コレは今は人間の形をしているけど『悪滅の雷』。エデルは騙されている」
イリエステルは背中から翼を広げ臨戦態勢を取っていた。
そうか!イリエステルはララの自己紹介の「エデルの中に住まわせて貰っているララって言いまース。」という部分からララの正体に気付いたのか!だからここまでララに敵対心を剥き出しにしているのか!
「ハァ!?アニキもララが『悪滅の雷』だったって事は織り込み済みで寄生することを許してくれたッス!」
ララの周りに幾つもの魔法陣が展開され始めた。
………やはり一度死闘を繰り広げた相手とはすぐには打ち解ける事は難しいか。
ここは俺が、お互いがお互いに抱いている敵というイメージを払拭するしか無いだろう。
「二人とも落ち着いてくれ!」
睨み合っている二人の間に身体を割り込ませた。
「……私は落ち着いている。ただ家の中に虫が入り込んできたから潰そうとしているだけ。だからそこを退いてほしい」
「そうッスか。じゃあアニキ、どうやら虫退治で忙しいみたいなんでお暇しましょうか。いやぁ、虫が湧く様な家に住んでるなんて大変ッスね」
ララは繋いでいた手を引っ張って小屋から出て行こうとした。
「ちょっと待ってくれ!今日はララを彼女に紹介する為に連れてきたんだ。だから喧嘩腰になるのはやめてくれ!」
俺はララとイリエステルの二人なら仲良く出来るのではないかとララをここに連れて来たつもりだった。だが二人ともここまで相手を拒絶するとは思わなかった。
世の中にはどうしても仲良く出来ない相手と言うものは存在する。二人とも相手がそういうものだと初見で感じ取ったのかもしれない。しかし出来る事ならたった一度でも良いから二人には同じテーブルについて話してみて欲しかった。その理由が二つある。
一つは俺ではイリエステルの境遇に同情は出来ても共感はしてあげれないからだ。しかしララは違う。ララも『七つの厄災』の一つに数えらて永遠の孤独を生きてきた。お互いの境遇の苦しさを分かってあげられる唯一の存在になれるのでは無いかと思っていた。
………………それに何よりもう一つの、一番の理由は俺が人間だからだ。百年生きれるかどうかも分からない人間という種族である俺は、そう長くはイリエステルの側に居てやることは出来ない。だから寿命というものが存在しないララと関わりを持てば俺が居なくなった後もイリエステルは独りにならずに済むのではと思っていた。
しかし今の状況はどうだろう。今にも二度目の『七つの厄災』同士の戦いが始まろうとしていた。
「イリエステル!俺の話を「エデルの言いたい事は分かっている」イリエステル………!」
どうやらイリエステルは俺の意図を汲み取ってくれた様だ。きっと背中から広げてる翼もたまたま今、羽を伸ばしたくなった(物理)だけだったのだろう。
「エデルは自分に寄生してしまった寄生虫から助けて欲しくて私を訪ねてきた。方法は簡単、エデルがその手を寄生虫から離せば寄生虫は死ぬ」
汲み取ってくれていなかった。
「違うが?」
「!?」
そんな驚愕した様な顔をされても。
「だから何度も言ってるじゃないッスか。アニキの方からララに、自分の中にいて欲しいって言われたんスよ」
あれ?そんなセリフ言った覚えは……
「………エデル、前に渡した剣を今だけ返して欲しい」
なんでこのタイミングで?
「あー、その事なんだが……すまない………その……人にあげてしまった……」
譲ってもらったものをすぐに他人に渡したのだ。何を言われても受け入れる覚悟は出来ている。
「いや……エデルがそう決めたのならいい」
「そうか……いや良かった。許して貰う為にはどうしようかずっと悩んでいたからな」
イリエステルが望むのならなんでもするつもりだった。
「!!………いや、やっぱり私は傷ついた。だからエデルにお願いがある」
「あれ?でも今……」
「騙されたら駄目っすよアニキ。あの女悲しんでるフリをしているだけッス」
「…………」
イリエステルは感情を感じさせない様な眼でララの方を見ていた。
「いや、イリエステルがどう思ってようと俺がイリエステルから貰った物を了承も無しに他人に渡したのは事実だ。イリエステルが望む事があれば俺に出来る事なら何でもする」
「じゃあソレを身体の中から追い出して欲しい」
即答だった。
「………すまない、それは出来ない。………むしろ一度だけでもいいからララと話してみて欲しい」
それがきっとイリエステルの為にもなると思う。
「……………ならもう一度エデルと………この森の外に出たい」
「……………それは」
単純に「外に出る」という意味ではないのだろう。
……かつてイリエステルを『腐敗領域』から連れ出した時は全てを軽く考えていた。イリエステルにかかっている呪いのことも、そんなイリエステルがここに居る事で保たれている平和がある事も。
俺はイリエステルに、いつかもう一度王都に行こうと約束していた。ただその約束をした時は王都で呪いについての情報を集めて、それぞれの問題への対策を講じた上で、と考えていた。だが王都に着いてからというもの思う様にいかず自分の事で精一杯な毎日を過ごしていた。未だ呪いのことについて調べれていないというのが現状だった。
「…………ごめんなさい。聴かなかった事にしてほしい。エデルを困らせるつもりは無かった」
謝らなければならないのは俺の方だ。
「すまない、なんでもすると言っておきながら………」
「……アニキ困ってますか?」
「いや………」
イリエステルはただ望みを言ってくれただけだ。どの口で困っているなんて言えるだろう。
「その女にかかっている呪いをどうにかする方法なら知ってます」
「!?何か知っているのかララ!」
「はい、知ってます。あとその女がこの場から離れても大丈夫かも知れない方法も知ってるッス」
「頼むララ!その方法を教えてくれ!」
「もちろん教えるに決まってますよ!ララはアニキが困っている時はどんな時でも力になるッスからね!まずはその女がこの『腐敗領域』から外に出ても大丈夫な方法なんですけど神聖国にヒントがあると思うッス」
「神聖国………」
神聖国とは人間の住んでいる土地に存在する三つの国の内の一つだ。王都の南に位置し、教会のトップである教皇が国の最高権力者も務めているということぐらいしか知らない。
「神聖国では魔力ではなく法力という力を用いて行う法術という儀式があるみたいで、その法術の中に『結界』という、指定したモノを通さない空間を作る法術があるみたいッス」
「その結界を張れば魔族が此方に渡ってこない様になるのか………」
「ええ、しかし大陸を二分するほどの結界を張るとなると必要な法力もとんでもない量が必要になるッス。その膨大な法力を用意する手段までは………ごめんなさい、思いつかないッス」
「いや、ありがとう。かなり助けになる情報だった。あとイリエステルの呪いをどうにかする方法も教えてほしい」
「はい!こっちは私がいれば簡単に達成出来るッス!その女の腕に『状態異常封じの腕輪』を嵌めればその女にかけられてる呪いも封じる事が出来るッス!」
え、何その俺の存在意義が無くなりそうな名前の腕輪は。
「……えーっと、簡単に達成出来るって事はララがその『状態異常封じの腕輪』を持っているのか?」
「いえ、誤解させてしまって申し訳ないッス。今は『状態異常封じの腕輪』が何処にあったか、どうすれば手に入るのかを知ってるだけッス」
「一体何処にあるんだ?」
「王都にあるマジカルヤマダ魔法学校の宝物庫にあったと思うッス」
「マジカルヤマダ魔法学校!?」
名前ダサっ!………え?王都に大きな学校があるなと気になってはいたけどもそんな名前だったのか!?
というかマジカルもそうだがヤマダって………まるで日本人が付けたような………
「ずっと昔にアニキと同じ世界からこの世界に転生した人間が創った学校ッスね」
「俺以外にも転生者がいるのか!?」
「正確には「居た」が正解ッスね。転生する時に女神に無限の魔力を願ったみたいッスけど、そのせいで『悪滅の雷』の寄生対象に選ばれて死んでしまったみたいッス」
どうして無限の魔力なんて厄ネタにしかならなそうな特典を願ってしまったんだ!
……だが驚きつつも納得もしていた。あの女神がなんの説明もせずに特典だけ持たせて送り出す姿が簡単に想像出来た。
「……でも魔法学校の宝物庫ってどうしようもなくないか?盗みに入るわけにもいかないだろ?」
「それも今から説明するッス。マジカルヤマダ魔法学校では生徒が最大六人までの班を作って様々な行事に挑むんスけど、毎年最終学年の班の中から三年間の総合成績で一番を取った班は宝物庫の中から好きなものを貰える様になってるッス」
「それこそどうしようもないだろう。俺は魔法なんて使えないのにどうやって魔法学校に入学して優秀な成績を収めることが出来るんだ?」
「そこでララの出番ッス!ララがアニキの中から魔法を使うんで入学試験も楽々突破出来ますし成績に関わる行事も簡単にクリア出来ちゃうッス!」
「でもそれって不正じゃ……」
「そんな事はないッス!ララとアニキは一心同体!ララの力はアニキの力も同然ッスよ!それにその女の呪いをどうにかするにはこの方法しか無いッス!」
俺はイリエステルの方を見た。イリエステルの方も寂しげな目で此方を見つめていた。
腕輪があればイリエステルは俺が死んだ後も孤独にならずに済む…………。
「行こう、魔法学校へ………!」
計画通り…………!!
私は心の中でほくそ笑んだ。
誰かが一人になる事を無意識に恐れているアニキが、あの『腐敗の女神』との関係を断ち切るなんて事がある訳ないと分かっていた。
だから話を私に有利な魔法学校の事まで誘導した。
話の流れを自分の思うがままに誘導するのは簡単だった。アニキが抱えている恐怖、『腐敗の女神』への引け目も知っていたし、『腐敗の女神』が挑発されてどうするか、望みを聞かれてなんと答えるかも分かっていた。自分なら同じ立場の時どうするかを考えるだけで良かった。
話は戻るが、一旦魔法学校にさえ入れたら三年間は私だけがアニキを独占できる。
魔法学校では魔法だけが全てだ。
アニキは魔法が使えない。私の力無しじゃ腕輪まで辿り着く事は出来ないだろう。
アニキが魔法学校の中で頼れるのは私だけなのだ。魔法学校の生徒は九割が貴族の子息だ。誰もアニキに力を貸す事はないだろう。そして卒業までの三年間でアニキに私があの『腐敗の女神』より役に立つ事を示すのだ。
後日、パーティメンバーであるギルとアーシンに魔法学校に入る事になるかも知れない事を伝えた。
「えーっ!ジョンさん魔法学校に入っちゃうんですか!?」
「どうしても魔法学校で手に入れなければいけないものが出来たんだ」
「でもジョンは魔法を使えるのか?」
「まあ、それについてはアテがある」
「………そうか、でもジョンが魔法学校に入ってしまったら三年間はパーティ活動が出来なくなるな」
「………すまない」
「いや、気にしないでくれ。むしろ丁度いいと思っていたよ」
「丁度いい?」
「前にジョンを置いて逃げなきゃならなかった時すごく悔しかったんだ。置いて逃げるなんて何が相棒か!ってね。だから三年くらい修行しようと思っていたんだ」
「あれは仕方のない事で………」
「確かに僕は自分で人間は『七つの厄災』に勝てないって言っていたけど、其れを理由に相棒を残して逃げるなんて事をしたくないんだ」
「私も!私もエデルさんの隣に立てる様に修行します!」
「ギル………アーシン………ありがとう」
「じゃあまずはジョンが入学条件の十五歳になるまで依頼を受けまくって入学費用を集めないとな」
「いや、そこまでしてもらうのは悪い」
「気にしないでくれ。三年間は会えなくなるんだ。今のうちにしてやれる事はしてやりたい。それにジョンはどうしても魔法学校でやらなければならないことがあるんだろう?」
「私も!私もジョンさんの入学費用を集めるのを手伝います!」
二人と一緒に依頼を受けまくった!
そして半年経ち明日が魔法学校の入学試験日というところまで来た。
「…………イリエステル、学校が休みの日にはここに来るからそう落ち込まないでくれ。三年間我慢してくれたら俺以外にももっと沢山友達が出来る様になるから………」
「………私は……エデルさえ居たらそれで「卒業後のことについて話があるッス!」
イリエステルがまた感情の無い瞳でララを見ていた。
「後ろ盾の無い平民が魔法学校の宝物庫から何かを貰ったとなれば卒業後にアニキの身はいろんな奴らから狙われる可能性があるッス!だから幻惑魔法でアニキの目の色と髪の色を変えるッス!」
「なるほど、じゃあ頼む」
「やっぱりアニキに似合うのは黒だと思うッス!だから黒髪黒目にしといたッス。アニキもそれがいいですよね?」
「あ、あぁ」
確かに元日本人としてはそれが落ち着くかな。
「…………赤」
「え?」
「エデルには赤が似合う」
「ハァ?アニキには黒一択ッスよ!」
「エデルは赤……嫌い?」
俺はどう答えるのが正解なんだ?
「………まあ引け目が無いこともないから折衷案にしてやるッス。アニキこれでどうッスか?」
目の前に鏡の様なものが現れた。鏡に映っている男は黒い髪を生やし、目を紅く、妖しく光らせていた。
「ぐおぉぉぉぉぉ!!」
前世での十四歳の時の黒歴史という名の記憶が!
「どうしたんスかアニキ!?急に地面に手をついて!」
「この組み合わせは止めよう!」
結局金髪碧眼にしてもらった
同じ刻、王都にある元マジカルヤマダ魔法学校校長の館にて………
「よくぞ儂の出した全ての試練を突破した。弟子よ」
「ありがとうございます。全ては師匠のおかげです」
「謙遜はよい。一年もかからずに儂の教えることのできる魔法を全て修めるとは恐ろしい才能じゃ。じゃからこそ惜しくて仕方ない。その類稀なる魔法の才を用いた最終目的が『腐敗領域』で死体を探すことなどとは………」
「これは罪人である私がやらなければならないことで私個人がやりたいことです。暗い場所で、一人ぼっちで、無念のうちに死んでしまったであろう彼を、私が迎えにいかなければいけないんです」
「うーむ、儂にはわからぬ。確かにお主の才を持ってすれば宝物庫にある『状態異常封じの腕輪』を戴くことなど造作も無いじゃろうが………今からでも考えなおさんか?」
「………これだけは絶対に譲れません」
更に同じ刻、ナイトエイジ家の館にて
「お兄様、本当にエデルさんもマジカルヤマダ魔法学校の入学試験に来るんですの?」
「ああ、どうしてもやらなければならないことがあるらしい。魔法を使うとこは今まで見たこと無いけど………まあ、エデルなら大丈夫だろう。二人とも合格する事を祈っているよ。あ、あと今エデルはジョン・ドゥって名乗ってるから気をつけてやってくれ」
更に同じ刻、バルスブルグ家の館にて
「姉上、第二学年への進級おめでとうございます」
「ありがとうございます。『聖剣デュランダル』が我が家に返ってきたおかげです」
「本当に良かったです。姉上が学校を辞めずに済んで………これも僕達に無償で『聖剣デュランダル』を渡してくれた姉上と同い年くらいの男性のおかげですね」
「でもその男の名前も分からないんですよね」
「申し訳ありません。どうしても名乗りたくなかったみたいで」
「………フン、どうせ騎士団に指名手配されていて名乗れなかったとかそんな理由でしょう」
「姉上………」
「あらあらこの娘ったら、ちょっと前までその男性のことを血眼で探していたのに」
「お母様っ!!」
次回、魔法学校編開始!!
ここまでこの小説を読んでいただき誠にありがとうございます。魔法学校編はかなり長くなる予定です。ですがどうか最後までよろしくお願いします。




