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違う!今のは『悪滅の雷』が勝手に!


 朝になった。


 結局『悪滅の雷』の事が気になって一睡も出来なかった………。


 疑問も尽きず、だがそれを相談出来そうな相手の見当もつかず、俺が取れそうな手段は結局『悪滅の雷』本人(?)に訊く、くらいしか思い付かなかった。だが会う手段も分からず、どうすれば良いか悩んでいると昨日の夜に『悪滅の雷』が『召喚の指輪』で召喚されたと言っていた事を思い出した。


 俺はまさかと思い破棄する予定のギルドカードを確認した。




・使用魔法


  《転移魔法》


  《召喚魔法》

   対象:『腐敗の女神 イリエステル=スカーレット』

      『悪滅の雷     』



 …………マジか


 だが「召喚の指輪」で召喚出来るのなら、仮に何かあっても周りに被害の出ない場所で『悪滅の雷』を呼んでみるしか無いだろう。





 俺はギルドで新しくジョン・ドゥという名前でギルドカードを作り適当な依頼を受け、一人その場に向かった。


 最初は依頼を受けずに真っ直ぐ人の居ない土地に向かおうとしたのだが、確実に人の居ない場所を選びたかったので、魔物などが居て人の寄り付かなくなった場所に行く為に依頼を受けるという形を取った。


 そして二匹のトロールが暴れていると依頼のあった森まで辿り着いた。

 

 しかし森を奥に進んでいくと既に事切れたトロールの死体が二つ転がっていた。


 「トロールが………死んでいる………?」


 近くに他の冒険者か、もしくはトロール二体を相手取れる力を持った他の魔物が居る可能性が高かった。


 周りを警戒しつつ更に進んでいくと何者かが立っていた。


 「貴方が『腐敗の女神』と共に『悪滅の雷』を討伐した人間ですね?」


 森の中に立っていたのは魔族だった。


 正直もう二度と魔族とは会いたく無かった。だがこの魔族も俺がイリエステルを森から連れ出した時に此方の土地に渡って来たのなら俺がどうにかするしか無かった。


 しかし身構えては見たものの目の前の魔族からは此方への敵意は感じられなかった。むしろ此方の警戒を解くような柔和な笑みを浮かべていた。


 「………」


 「『腐敗の女神』に触れても腐敗せず、『悪滅の雷』に近づいても麻痺することも無い。魔王様は貴方に大変興味を御持ちです」


 魔族は此方に近付こうと足を前に出した。


 その瞬間何処からともなく飛来してきた巨大な火球が魔族を襲った。


 が、魔族は余裕を崩さないままにそれを回避した。


 「そう警戒しなくとも大丈夫ですよ?私は魔王軍四天王が一人『未来視』のシストと申します。魔王様からの命で貴方を迎えに来ました。貴方を殺す気はありません」


 魔王軍四天王、字面から相手が只者では無い事が察せられた。


 そしてシストと名乗った魔族は再度此方に歩み寄ってきた。


 今度は俺の背後から放たれた風の刃が未来視のシストを襲った。


 「………確かに貴方が魔族を警戒するのもわかります。そちらの土地に『悪滅の雷』を押し付けてしまいましたからね………しかし我等も同族を救う為にそうするしか無かったんです。許してくれとは言いませんが、今だけはどうか話を聴いてくれませんか?」


 近づいてきたシストにいくつもの氷のつららがマシンガンの弾丸の如く俺の背後から発射された。


 しかしまるで何処に着弾するのか分かっていたかのように全てを回避していた。


 「………お願いしますよ」


 未来視のシストは未だに笑みを絶やしてはいなかったがその額には血管が浮き出ていた。


 その後も未来視のシストが近づいて来ては俺の背後から魔法が放たれるという事が繰り返され、


 「…………」


 遂には未来視のシストは何も言葉を発することもなく無言のまま此方に近づいてきた。


 今まで放たれていた全ての魔法が未来視のシストに襲いかかった。


 しかし未来視のシストは、普通ならどれか一つくらいは当たるだろうと思うような量の魔法を全て避けていた。


 「………貴様ぁぁぁ!!さっきから私が下手に出ていたら魔法をポンポンポンポンポンポン!!!貴様には耳が付いていないのか!それとも他人の言葉を信じる事が出来ない心の病を患っているのか!」


 未来視のシストがとうとうその顔を怒りで歪め、翼を広げ勢いよく此方に突っ込んできた。


 しかし面制圧するかのような怒涛の魔法がそれを拒んだ。


 「さっきから分からないのか!どれだけ魔法を撃ってきたところで私は五秒先の未来が見える!私に魔法が当たることは無い!」


 さっきから全く事態に追いつけていないが、どうやらシストは俺の後ろから魔法を撃っている何者かにキレているようだった。


 俺は俺を挟んでシストと戦っている何者かの姿を確認する為に後ろを見た。


 しかし其処には誰も居なかった。


 「貴様だ、貴様!!馬鹿にしているのか!…………もう良い!貴様がそこまで反抗すると言うのなら、その眼を、その舌を、その手足を引き千切った後で魔王様の元に連れて行こう!」


 俺は努めてお前の話を聴こうとしてるよ!


 「魔法を撃ってるのは俺じゃない!」


 「嘘をつけぇ!この場には私と貴様の二人しか居ないんだぞ!」


 「それでも俺はやってない!」


 「もう良い!貴様がなんと言おうが私の未来視の前には全てが無力という事を教えてやろうっ!!」


 俺にはどうすることも出来なかった。


 それは相手の未来視という強力な能力に対して無力という意味では無く、さっきから魔法を撃っているのは俺ではないということだ。


 相手が持っている能力によって戦い方を変えるというのは戦いの基本だろうが、俺はさっきから戦ってすらいない。


 さっきから俺の意思が介入していないままに勝手に戦闘が展開されていた。


 「なにっ!?」


 シストが何かに驚いていた。俺はさっきから蚊帳の外で、シストが何に驚いているのかすら分からなかった。


 不思議に思っていると、空を飛んでいたシストを中心に夥しい数の魔法陣が展開された。


 「………フッ、私が未来を見た後に移動出来る範囲を全て潰されたか………敵ながら見事だ!」


 相手が何を言っているのかさっぱり分からない!


 未来視のシストは此方を感心したかのように見ていたが、何もした覚えもなく、今何がどうなっているのかすら分かっていない中でそんな顔を向けられても恐怖しか感じなかった。


 展開されている全ての魔法陣からレーザーの如き雷が発射され、未来視のシストに全ての雷が直撃した。


 「ぐわぁぁぁぁぁ!」


 未来視のシストを中心に爆発が起こった。







 爆発で発生した煙が晴れると、そこには誰も居なかった。


 「どうやらあの魔族は分身だったみたいッスね」


 「!?…………君は……」


 背後から急に話しかけられ、驚いて振り向くと昨夜会った『悪滅の雷』と名乗った黒髪黒眼の女の子が立っていた。


 「さっきから魔法を撃っていたのはもしかして」


 「そうッス、エデルに近づいて来てたので迎撃してやったッス、でも分身だったから完全に倒し切る事は出来なかったッス」


 「どうして………」


 なんで『悪滅の雷』が俺に近づいて来た存在を迎撃してるんだ?


 「そんなのもちろんエデルを守る為に決まってるじゃないッスか!」


 「……俺は一度『悪滅の雷』を殺そうとした。それなのに何故俺を守ろうと………」


 昨日の夜から分からない事ばかりだ。


 「私がエデルを守った理由………それは私がエデルの側に居たいからッス」


 「側に?………それはどういう………?」


 「知っての通り『悪滅の雷』はこの世界の全ての存在から嫌われてるッス。でもそれも仕方の無いことで『悪滅の雷』は今までそれだけの事をその世界の住人達にして来たッス。だからエデルが私に剣を突き立てた事に文句は無いッス」


 「………」


「私はエデルに倒された後、『悪滅の雷』に破壊を振り撒く存在であれと命令していた者たちを自分の中から消して自分の意思を手に入れたッス。でも私の存在を歪めていた悪意の主から解放されて自分の意思を手に入れても『悪滅の雷』が世界の嫌われ者という事実は変わらないッス。だから私にはもう『悪滅の雷』を嫌悪していないエデルしか側に居てくれる人が居ないッス」


 「俺しか居ない……」


 俺が彼女を見捨ててしまったら彼女は孤独になってしまうというのか………そんなのまるで…………


 昨日『悪滅の雷』が泣いている顔を見てイリエステルのようだと思っていたが『七つの厄災』という共通点からかどうにも二人共境遇が似ているように思えた。


 「そうッス!私が寄生しても麻痺しないのは、この世界でエデルだけッス」


 そうか、『悪滅の雷』に寄生されても麻痺しないのは『全状態異常無効』を持つ俺だけなのか……………………ん?寄生しても?


 「今…………何処に………住んでいるんだ?」


 俺は自分の予想が間違ってる事を祈って恐る恐る質問した。


 『悪滅の雷』は無言で俺のいる方向を指差して来た。


 体を右にずらした。『悪滅の雷』の指先も右にずれた。


 体を大きく左にずらした。『悪滅の雷』の指先も大きく左にずれた。


 「今エデルの中に住んでるッス」


 なんて?


 「今エデルの魂に寄生してるッス」


 「……………俺の魔力を吸い取っているのか」


 俺の魔力は今もジワジワと吸い取られて死に向かっているのだろうか?


 「そんなつもりはないッス!私に宿主の魔力を奪うように命令していた存在は消したッス!でも私が寄生した生物を麻痺させてしまうというのは変えられなかったッス。だから私にはエデルしかいないッス」


 …………そんな話を聴かされたら俺の中から出て行って欲しいとは言えないじゃないか!俺以外の人に寄生したらその人は一生麻痺状態になるとか選択肢は俺に寄生させる一択しかないじゃないか!!


 「だからエデルの中に居させて欲しいッス。その為ならなんでもするッス。さっきみたいにエデルの中から魔法をバンバン撃ってエデルの戦闘のサポートもするッス…………………だから、お願いします。私を側に置いて下さい」


 「………分かった」


 そう答えた瞬間、迷子の子供のような表情をしていた『悪滅の雷』は満面の笑みを浮かべた。


 「良かったッス!!断られたらどうしようってすごく不安だったッス!じゃあ改めてエデルのことは『アニキ』って呼んでも良いッスか?」


 なんでアニキ?


 「別に構わないが、俺は君のことをなんて呼べばいいんだ?」


 「それは……アニキに決めて欲しいッス。私は実質最近生まれたばかりみたいなものなんで名前がないッス。だから私の名前をアニキに付けて欲しいッス」


 そんなことを急に言われても…………彼女の事をまだほとんど知らないのにどうやって。俺が知ってることといえば彼女が『悪滅の雷』と呼ばれていたことと寄生した者を麻痺させることくらいしか無い。…………『悪滅の雷』……雷……サンダーちゃんとか?流石に無いな。麻痺……パラライズ………………


 「…………ララって名前はどうだろう」


 「ララ……ララ……………ララ!……ありがとうございます。アニキに付けて貰ったこの名前、一生大切にするッス」


 気に入って貰えたのなら良かった。


 「……じゃあアニキと呼ぶ許可も貰ってララにララって名前をつけてくれたってことは、あの『腐敗の女神』よりララを選んでくれたって事でいいんスよね!」


 「え?」


 「え?」


 「………昨日から疑問に思っていたが選ぶってどういう事だ?」


 「アニキがこの世界で共に寄り添って生きる存在に『腐敗の女神』じゃなくてララを選んでくれたってことッスよね?」


 「????」


 「ララを側に置くってことは『腐敗の女神』との関係を断ってくれるってことッスよね?」


 「違うが?」


 「!?」


 そんな、騙された!みたいな顔をされても………


 「というかなんでララが俺の中に住む事とイリ……彼女との関係を断つ事がイコールなんだ?」


 「そんな……まさか二股ッスか」


 なんの話!?


 「………俺はこの世界で誰とも恋仲になった事はないが」


 「なら問題なく『腐敗の女神』を突き離せますね」


 なんでララはそこまでイリエステルを目の敵にしてるんだ?


 「ララはイ、『腐敗の女神』の事が嫌いなのか?」


 「この世界で一番大っ嫌いッス!ララの欲しかったものを見せびらかして来たあの女とだけは仲良く出来ないッス!」


 欲しかった物を見せびらかす?イリエステルが?そんなことをするタイプには思えないが……何を見せびらかしたんだ?もしかして聖剣デュランダルの事か?ならもう俺のせいでイリエステルの元から離れたから問題ないんじゃないか?


 「それは多分誤解だ………イリエステルはそんな事をするタイプじゃない………それに俺は二人なら仲良く出来ると思っていたんだが」


 強力すぎる力に振り回されて孤独になってしまっていたところとかお互いに共感できるんじゃ無いだろうか。


 「………………分かったッス。アニキがそう言うならララが直接話をつけ……話をしてみるッス」












 『転移の指輪』で『腐敗領域』の小屋まで転移した。


 俺はララを召喚し腐敗しないように手を握った後、小屋の扉を開けた。


 扉を開けると、イリエステルは俺の顔と自らの目の前にある水晶を交互に確認して酷く驚いていた様子だった。


 「エデル………!?どうして………」


 「あ、そういえばその女には幻惑魔法の映像を見せたままでした」


 「エデル…………ソレは?」


 「ちーッス!私ぃ、エデルの中に住まわせて貰っているララって言いまース。あ、ララって名前はエデルに付けて貰いました!これからはずっとララがエデルを護るんで貴女はもう此方の事は気にしなくて大丈夫ッスよ!さっきも貴女に幻惑魔法で創った映像を見せてる間にエデルが陥った危機をララが助けました!」


 「…………………………は?」


 イリエステル、キレた!!



この小説を読んでいただいて誠にありがとうございます。この小説の話数もこの話で30話となりました。ここまで来れたのも皆様のおかげです。本当に感謝しています。


 そのうち試験的にタイトルを変えてみたりするかもしれませんが、どうか今後ともよろしくお願いします。

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