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エデルに宿った最強

 


 『悪滅の雷』を討伐した後、疲れ果てている体に鞭を打ち一番近くの村まで移動した。


 イリエステルはこのまま抱えて飛ぼうかと提案してくれたが村の人に見られる可能性があったので断らせて貰った。


 村に着くとすぐにギルとアーシンが駆け寄って来た。


 「エデル!!無事か!?怪我は無いか!?」


 「エデルさん!!無事ですか!?あの女に何かされませんでしたか!?」


 ………同時に詰め寄られて二人がなんと言ってるのか分からなかった。だが心配して貰っているという事だけは伝わって来た。


 「ギルもアーシンさんも待っていてくれたのか………大丈夫だ。怪我もしていない………………だからアーシン、わざわざ服の中に手を入れてまで確認をしなくても大丈夫だ」


 「怪我も跡も付けられてないみたいですね。本当に良かったです。じゃあエデルさんも帰って来た事ですし帰りの馬車を確保して来ますね」


 「………あの女の事は置いておくとして、『悪滅の雷』はどうなったんだ?エデルがここに戻って来たって事は解決したって事でいいのか?」


 「『悪滅の雷』は無事に倒す事が出来た…………と言っても殆どイリ…………彼女の力なんだけどな」


 「そんなの当たり前じゃないか。『七つの厄災』は僕たち人間じゃどうすることも出来ない存在達なんだ。それと戦うなんて同じ『七つの厄災』に任せておけばいいんだ…………でもさっきの言い方だとまるで戦いに参加したみたいな言い方だったな…………もしかしてエデル…」


 「………勿論逃げたに決まってるじゃないか」


 「そうか、それは良かった。別れ際にあれだけ女神様の召喚を済ませたら逃げろと言い含めておいたのに戦いに参加していたらどうしようかと思っていたよ」


 「………ハハ」


 「いや僕はてっきりエデルのことだから自分のしでかした事の責任は自分で取らなければ、なんて考えて『悪滅の雷』と戦おうとするんじゃないかって思っていたよ」


 「………」


 「………やっぱり戦いに参加したんだね」


 「……すまない」


 「ハァ………言いたい事はいろいろあるけど、エデルが無事で本当に良かったよ」


 「ありがとう、ギル」


 かなり心配をかけてしまっていたみたいだ。


 「エデルも戦ったのなら疲れただろう?まずは王都に帰ろう」


 


 そうして村から王都に向かう馬車に乗った。


 心身共にかなり疲弊していたのだろう。帰りの馬車に乗ってすぐに眠ってしまった。









 王都まで到着し、宿屋で改めて眠りについて目が覚めた時には既に次の日の朝だった。


 俺は改めて二人に心配をかけた事と俺個人の事情に付き合って貰った事を謝るためにギルドに向かった。


 



 ギルドに向かう俺の背中には例の神々しいオーラを放つ剣が背負われていた。


 イリエステルがとうとうこの名も知らぬ『七つの厄災』にさえ通用するほどの名剣を譲ってくれたのだ。俺の好きにしてくれと。



 この剣にはこれまで何度も救われて来た。この人類の脅威となる存在達が跋扈している世界で、心の底から頼りに出来る強い武器があるならそれに越した事は無いだろう。


 これからもこの剣を大事にしようと


 「あっ!お兄様!あの剣、ご先祖様の日記に書かれていた『聖剣デュランダル』にそっくりだよ!」


 兄に連れられた小さな男の子がこちらを指差して叫んでいた。


 「あの剣があれば家の没落も防げるかも」


 「やめろ!!デュランダルはご先祖様が『腐敗領域』に持っていってしまったままなんだ!もう………二度とバルスブルグ家の武の威光は戻ってこない!諦めるしか無いんだ!」


 「でも………このままじゃお母様もお姉様も別の所に行ってしまうんでしょ!あの剣があればお父様の部下だった人達も戻って来てくれるかも」


 「無理なんだ………バルスブルグ家の象徴を失い、それでもバルスブルグ家を支えてくれていた父上を失い、もうどうしようもないんだ。………ごめん、ごめんよぉ、お兄ちゃんに父上亡き後の家を支えるだけの力が有れば母上も姉上も身売りをせずに済んだのに、デュランダル無きバルスブルグ家を繋いできたご先祖様達にも申し訳が立たない!全部お兄ちゃんのせいだ!」


 「お兄様………ご、ごめんなさい。僕そんなつもりは……」


 路上で小さな兄弟が抱き合って泣いていた。




 ……なんでさ









 

 「そ、その………ありがとうございます!この恩はいつか必ずお返しいたします!ほら……お前もこの方に礼を言うんだ」


 「……ありがとうございます」


 「………気にしないでくれ」


 「いえ、貴方のおかげで家族全員が救われました。是非御名前を教えて下さい」


 「気にしないでくれ」


 どうして『腐敗領域』の中にあるはずの物を持っているのかを突っ込まれたら困る。


 「で、では何か困った事があれば是非我が家をお訪ね下さい」


 「行けたら行く」


 「良かったです。では我々はこれで」


 兄弟は去って行った。


 ………イリエステルになんて言おう。




 「………良かったのかい?あの剣を譲ってしまって」


 黄昏ていたらいつの間にかギルとアーシンが横に立っていた。


 「…………もしかして見てたのか」


 「すまない、下の子に苦労を掛ける兄を前にすると醜態を晒してしまいそうで、あの兄弟の前に出るのは控えてたんだ」


 ギルには妹がいると知ってはいるが兄貴としてのプライドというものがあるのだろうか?


 「エデルさんは優しすぎます!王国が建国されてからというもの似たような理由で没落していく家なんて沢山ありました。良くある悲劇なんです。それを見て見ぬふりをするどころか剣を無償で渡してしまうなんて………………でも私はそんな優しいエデルさんが「よしっ!じゃあお兄ちゃんが新しい剣を買ってあげるよ!」


 「急にどうしたんだ!?」


 「おっとすまない、どうやらさっきの兄弟に触発されてしまったみたいだ。エデルが妹と同い年だからついお兄ちゃんをしてしまったよ」


 お兄ちゃんをするって何!?


 「…………コロス」


 「………アーシン?」


 アーシンさんは無言で太ももに巻いた皮のベルトからナイフを取り出しギルに襲い掛かろうとした。


 「ちょっ!?アーシン!?いきなりどうしたんだ!?」


 自分の話を遮られた事がよっぽど腹に据えかねたのだろうか。


 俺は急いでアーシンさんを背後から羽交締めにし止めた。


 「落ち着いてくれ!ほらギル!早く話を遮ってしまった事を謝るんだ!」


 「えーっと、すまない?」


 「◎△$♪×¥●&%#?!」


 アーシンさんの殺意が更に激しくなった。


 結局アーシンが落ち着くまで三十分かかった。


 「………取り乱してしまってすみません」


 「全くだ、なあエデル、やっぱりこの女をパーティに入れるのはやめないか?さっきの行動なんて危険人物そのものじゃないか」


 「貴方がそれを言いますか!エデルさん!この男こそパーティから外すべきです!この男、人の気持ちを察する能力が完全に死んでます!パーティの人間関係に亀裂が入る前に追い出すべきです!」


 「何を言ってるんだい?まるで僕が人の気持ちを察する事のできない男みたいに言って」


 「確かにギルはそういうとこがあるよな」


 俺はギルと初めて会った時のことを思い出していた。


 ギルを警戒して一緒に行きたくないと遠回しに伝えていたが一切こちらの心情を察してくれなかった。


 まあ今では信頼できる仲間だと思っているが。


 「エデルまで!?」


 「ほら見たことですか。やっぱり貴方は人の心が分からないんですよ!」


 「まさか……ちょっと待ってくれ。さっき君が暴れた理由を考えるから………………………………そうか分かったよ!君はエデルに告は」


 「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 バシーン!


 アーシンがギルの口に凄い勢いで手を当てた。ほぼビンタみたいなものだった。


 「剣を買いに行きましょうか!!」


 アーシンさんのギルの口を押さえたまま放った鶴の一声によって剣を買いに行くことになった。









 三人で色々なものを見て回っているうちに日も落ちてきた。空もオレンジ色になっていた。


 「ありがとう」


 ギルが少し前に言っていた通りに剣を見繕って買ってくれた。


 「気にしないでくれ、別に鍛冶屋の中で一番高いものって訳でも無いんだ。まあ、剣が強くない分は僕を頼ってくれ」


 思考がうちの女神様と同じなんだよなぁ


 「いや、剣のことだけじゃない。二人とも俺の事情に付き合ってくれて、あんなに遠い所にまで付き合ってくれて、魔族と戦うような羽目になってしまったのに一緒に戦ってくれて感謝してるんだ。心から」


 「気にしないでくれ、妹の命を救って貰った恩が少しでも返せたのなら良かったよ。でも僕の方も最後まで一緒に戦えなかった事が悔しいんだ。恩なんて感じないでくれ」


 「そうです!私も最後までエデルさんと一緒に居れなかった事を後悔してるんです。でも次こそは私も『七つの厄災』相手でも戦えるようにしておきますね!」


 もう二度と『七つの厄災』を相手に戦うなんて経験したくないんだが。





 


 今日はもう二人と別れ宿屋に帰る事にした。


 その日の夜、宿屋のベッドで寝ている筈の俺の横に人の気配を感じた。


 またイリエステルだろうか?そう思い寝ぼけたまま目を開くとぼんやりと黒髪が見えた。


 「……………?………………………………………!?うわぁ!」


 脳が、知らない人物がベッドの中にいる。という事実を認識するのと同時に飛び起きてその侵入者から距離を取った。


 いったいなんなんだ!?まさか俺の命を狙いに来た暗殺者か!?


 「い、一体誰だ!?どうしてこの部屋の中に居る!言っておくが俺は強いぞ!」


 あまり人間とは戦いたくない。もしかしたらビビって帰ってくれるかもと思い、ハッタリを仕掛けてみた。


 「『悪滅の雷』を倒すくらい………っスか?」


 女の子の声!?しかも黄色のメッシュのようなものこそ入っているが黒髪黒目で、まるで日本人のような………


 いや、それよりももっと気にしなければならない事がある!


 「どうしてその事を!?」


 「それは………私がその『悪滅の雷』だからっス」





 ……………………ほわい?




 

この小説をここまで読んでいただいて誠にありがとうございます。『悪滅の雷』ちゃんはこの後キャラとしての名前をちゃんとつける予定です。口調の方は、悪人達(八割盗賊)の魔力から生まれた怪物なんでアウトロー漫画に出てくる舎弟キャラみたいな感じにしました。

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