最高のチームワーク
名前を変える事になった。しかしそれでもう刺客に怯えなくて済むのなら安いものだろう。
暗殺を警戒していたせいでレフィアちゃんやレグス君達の行方もイリエステルの呪いについても満足に調べられずにいた。
あと残る心配事は………今調べに行こうとしている魔族の目撃情報についてだ。
前回、ゼンとセイと一緒に魔族を自称していた盗賊を倒したが、結局あの男は人間だった。
しかし今回は、目撃情報を信じるとすれば角や翼のついた人型だったらしい。本当に魔族である可能性が高いだろう。
その魔族が人を殺していたら………俺はどうやって責任を取れば良いのだろうか。
もしも、一つの村が、町が、都市が破壊されていたら俺はどうすれば良いのだろうか。
そんな考えが頭の中をぐるぐると回っていた。
そうこうしてるうちに馬車が目的地としていた村に着いたようだった。
しかし魔族が目撃された場所はその村から更に徒歩で長い距離を移動しなければならない場所だった。
「………あの男性に魔族を目撃した場所と向かっていった方向に印と矢印を地図に書いて貰ったのはいいんですけどこの印の書かれた場所ってさっきの村からかなり遠いですね」
「ああ、でも地図を見る限り一番近い村がここのようだ。印のついたとこの周りにも何もないし移動していったっていう矢印の方向にも特に何かがある訳じゃない……………その二体の魔族はいったい何が目的なんだろうな?」
そう、地図を見ると魔族が向かっていたという方向には人の居住区は無い。その事実何あるからまだ取り乱さずにいられた。
印をつけられた場所の付近に着いた。
「とりあえず印の場所まで来たけど何もないな」
「ここから………矢印は向こうの方を向いてますね」
「この方向に進んでも何も無い筈だよ。わざわざ人間の土地に来てまで海に自殺しに向かったって訳じゃ無いだろうし。本当にこっちに進むのか?」
「…………矢印の通りに進もう」
男の証言を信じる、というよりも人のいない方向に進んでいてくれて欲しいという俺の個人的な願いがその判断には混じっていたかもしれない。
矢印の方向にずっと進んでいくとポツンと一軒のボロ小屋が建っていた。
「随分と古いけど小屋があるな。エデルどうする?もう夕刻だけどこの小屋で一晩過ごすか?」
「確かにここまで随分急ぎ足で進んできたから休憩をとった方がいいかもしれませんね」
「………分かった。今日はここで夜営しよう」
本当は今すぐにでも先に進みたかったがここまで俺の急ぎ足に付いて来てくれた二人を休ませなければならなかったし、なにより自分自身も心身共に疲弊していた。このままではもしも魔族と戦いになった時に影響してしまうだろうと夜営の判断をした。
魔族は素のスペックが人間より遥かに高い。男の証言を聴く限りその人間より遥かに高い魔力に身体能力を持つ魔族が少なくとも二体はいるようで極力万全の状態で挑みたかった。
だが運命は俺達に休む暇を与えてくれなかった。
小屋の中に入ってすぐの場所に大きな木箱が置かれていた。
「これは………あの男性の証言にあった木箱と似た特徴ですね」
「だけど魔族はいないみたいだね。開けてみるかい?」
「………開けてみよう」
俺達は意を決して木箱を開けた。
中には青い肌に頭から角を生やし背中から翼を生やした魔族が横たわっていた。
その魔族は眠ってる訳ではなく、こちらの方をこの世全てに絶望したかのような目で見つめて来た。
「魔族…………!!」
「どうやらあの男の証言は間違って無かったようだね」
「しかもこの魔族………体を動かさないのにこちらのことを目で追って来てますね……この症状はまるで…………」
「麻痺しているかのようだ………か?」
誰かが俺達の後ろから会話に割って入って来た。
後ろを振り向くと木箱の中にいる者と同じような特徴をした魔族が二体小屋の外に立っていた。
「まだ居たんですか!?気配が全くしませんでした!」
アーシンの表情には焦りが見えた。
「私これでも暗殺者業界の中じゃかなり上澄みの方に居たんですけど…………私に気配を悟らせないなんて…………………」
「フッいくら人間達の中で上の方の実力者であろうと魔王軍の中でも隠密を生業とする我ら兄弟には敵わないだろう」
「その木箱を開けずに立ち去っていたのなら見逃しても良かったのだがな」
「………何故こっち側に魔族が居るんだ?」
ギルが強張った表情で魔族に質問した。
「冥土の土産に教えてやろう。ある日急に魔族の領土と人間の領土を分断している『腐敗領域』がその力を失っていた」
やはり俺が原因だったのか………!
「魔王様は『腐敗領域』に『腐敗の女神』が不在であることを知るや否や真っ先にその者を人間の土地側に運ぶことを我らに御命じになられた」
「何故こっちに運んでくる必要が…………って聞くまでも無いか」
「そうだ、貴様らの想像通りその者は『悪滅の雷』に寄生されている。そして人間に気付かれてまた『悪滅の雷』が魔族領の方に運び戻されることにならぬようにこうして人間の生命オーラを周りに感じなかったここにその者を隠したのだ」
「人間に気付かれてはいけない…………ということは貴方達は人間を殺したりはしてないんですか?」
「貴様達が最初になるな」
「そうですか、それは良かった」
ザクッ
片方の魔族の更に後ろに何者かが立っていた。
「なっ!?弟よ!何故だ!何の気配も生命オーラも感じなかった!」
倒れた魔族の後ろには短剣を持ったアーシンが立っていた。
「えっ?アーシン?でも………えっ?」
俺の横にもアーシンが居た。
「分身魔法ですよ。小屋の近くで透明魔法を使っている者の気配があったので分身を小屋の外に透明魔法を使って隠しておいたのですよ」
「な、なるほど………」
「引き出せるだけ情報を引き出した後殺そうと思ってたんですけど肝心な人間を殺していないって情報を聞き出せたからもういいかな……って」
確かに俺もそこが一番気になっていたけど………
「弟よ!どうした!こんな人間の使うような短剣が刺さったぐらいで我ら魔族が死ぬ訳ないだろう!」
刺されていない方の魔族はもう一体の魔族が起き上がってこないことに戸惑っているようだった。
アーシンの分身に刺された魔族は泡を吹いて死んでいた。
「魔族に毒が効くか分からなかったんで私が造り出せる中で一番強い毒を短剣に塗ってたんですよ。効いて良かったです」
「………もしかしてギルも落ち着いていたみたいだけどアーシンのやろうとしていたことが分かっていたのか?」
もしかして気付いてなかったのって俺だけかよ!
「いや………その女のやろうとしていたことは知らなかったよ」
「じゃあ何でギルもあんなに冷静だったんだ?」
「実は僕も仕掛けて置いたんだ。夜営中に小屋の外から襲われてもいいようにね」
【悲報】パーティーメンバーが有能すぎて肩身が狭い
「だけどまさかその女もそっちを狙っていたなんて………」
「え?」
小屋の外を見ると倒れた魔族の上から人二人分程の巨大な剣が落ちて来た。
倒れてる魔族に向かって
瞬間、巨大な衝突音が聴こえてきた。
「弟ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「………ちょうどそっちの魔族がいた所に設置していたんだ」
チ、チームワークが…………
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