仲間割れ
魔族を見たという男から、魔族をどこで見たのか、どちらへ向かっていたのかの情報を聞き出してすぐにその場所に向かうことにした。
しかしその魔族が目撃された場所が王都からかなり遠く離れた場所で、食糧や野営に必要な道具の準備をしてからじゃないと向かえそうに無かった。
遠出の準備を終え、目撃情報のあった場所に一番近い村まで運んでくれる馬車に乗りいざ出発しようとしているとパーティメンバーである二人が馬車に乗り込んできた。
「一人で行くつもりか?」
「置いていかないでくださいよ」
「二人とも………なんでここに………」
二人にはパーティを一時離脱すると伝えておいた筈だ。
「言ったじゃないですか、私が魔族からエデルさんを護ると」
「もし魔族が居たとしてたった一人で挑むつもりだったのか?」
「でもこれは俺の個人的な事情で………」
「なら尚更ついて行かせてほしい。妹の命を救ってくれた恩をエデルに返せる時をずっと待っていたんだ」
「まあ私は無理矢理にでもエデルさんに付いて行きますけどね」
「ギル………アーシンさん…………」
「どうかアーシンと呼んでください」
そうして二人も付いてくることになった。
馬車に乗って移動していると二人から今回の事についていろいろ聞かれた。
「………どうしてエデルは魔族を見たって噂をそこまで気にしてるんだ?噂を聴いてからずっと思い詰めているような顔をしているけど………」
「それは私も気になってました。エデルさんがあの男の話を信じると言った以上私も魔族が居るものと考えて動きますけど………何か信じる理由があったんですか?」
二人が疑問に思うのも尤もだ。だがこの二人に話してもいいのだろうか?ギルのこともアーシンのことも信用しているがこの話を人に話すということは己の罪の告白に等しい。この話を聞いても尚二人は付いて来てくれるのだろうか?
…………いや、むしろこの二人だからこそ危険な目に合わせたくない。この話を聞いてこの馬車から降りてくれた方がいいのではないだろうか?俺の事を嫌いになってもらっても構わない。パーティから追放されても構わない。一時の間でも仲間になってくれた彼らを死ぬかもしれない場所に連れて行きたくはなかった。
俺は二人に本当の事を話すことにした。この二人が俺の話を聴いて馬車から降りてくれる事を願って。
「最近魔族がこちら側に来れる機会があった事を知ってるんだ」
「魔族がこっちに………?『腐敗領域』があるのにかい?」
「………俺が『腐敗の女神』を少しの間外に連れ出していたんだ」
「「………え?」」
「俺が『腐敗の女神』を外に連れ出していたんだ」
「………ちょ、ちょっと待ってくれないか?『腐敗の女神』ってあの『腐敗の女神』のことか?」
「……多分その『腐敗の女神』で合ってる」
「そんな馬鹿な!『腐敗の女神』に会うどころか『腐敗領域』に近づいただけで全身が腐ってしまうんだぞ!?」
「実は俺にはどんな状態異常も効かないんだ」
「状態異常が………?」
「…………あ!!だから……」
「何か心当たりがあるのか?」
「え゛!?えーっと………き、気にしないでください」
「………話を戻すけど俺が手を繋いでる間は『腐敗の女神』の腐敗の力を無効化する事が出来た。だから外の世界を見せてやりたくて『腐敗領域』の外に連れ出したんだ」
「………その間ずっと手を繋いでいたんですか?」
「それは勿論。絶対に手を離さないようにしていた」
もし手を離していたら大量殺戮者になっていた。
「…………うらやましい」ボソッ
「?もう一回言ってくれないか」
「いえ、気にしないでください。それでエデルさんはその間に魔族がこっちに渡って来たと思ったんですか?」
「そうだ………だからもし本当に魔族がこちらに来ているのなら俺が責任を持って解決しないといけない」
たとえこの後俺一人になってでも。
この話を聴いて二人はどう思ったのだろう?やっぱり王都の人々の命を危険に晒した俺を軽蔑して離れていくのだろうか。
「そうか…………ありがとう話してくれて。ただそんな理由なら被害が出る前にどうにかしないとな」
「え?」
「そうですねエデルさんをそこまで苦しめてるのならその魔族には死んでもらいましょう」
「え?…………二人ともこの話を聴いても付いてくるつもりなのか?」
「当然だよ。エデルの危機は相棒である俺の危機だからね」
「ええ、業腹ながら私もこの人と同じ意見です」
そんな………二人とも付いてくるつもりなのか
「それに………実は私も秘密にしていたことがあります。エデルさんが打ち明けてくれたなら私も話すのが筋でしょう」
「秘密?」
「実は私………エデルさんの暗殺を依頼された暗殺者だったんです。まあ、もう殺す気なんて欠片も無いんですけど」
そこまでアーシンが言った途端ギルがアーシンに剣を突き付けた。
「ギル!?」
「やっぱり君は暗殺者だったか!いったい何が狙いで仲間としてエデルに近づいた!」
「ええ、貴方が怒るのも当然ですね。私も逆の立場だったら殺してました。でも信じてください今はエデルさんを暗殺しようなんて気は全くありません」
「………信用出来るわけがないだろう。暗殺者風情の言葉を」
「落ち着いてくれギル!……俺はアーシンの事を信用するから!」
「信用出来るわけがない!こいつは騎士団に圧力をかけて妹を見捨てさせた奴が放った刺客だ!」
「ギル………」
「殺す前に聴く。いったい誰に雇われた?」
殺す!?
「ちょっと待ってくれギル!………アーシン本当に今は俺を殺すつもりは無いんだよな?」
俺はギルとアーシンさんの間に割って入った。元々は俺が二人から責められる覚悟をしていたのに今何故二人の仲裁をしているのだろうか?
「はい勿論です!エデルさんに誓います!」
暗殺対象に誓われても…………
「どいてくれエデル。僕にはそいつが信用できない」
「………ならギル、俺の事を信用してほしい」
「勿論エデルのことは信用してるよ」
「アーシンのことを信じた俺を信じてほしい。頼む」
「…………………分かった、ただ最後に一つ聞かせてくれ君に暗殺の指令を出したのは誰だ」
ようやくギルは剣を納めてくれた。
「アーシンももうその悪い奴からの命令は受けてないんだよな?」
「はい。私に暗殺の依頼をしてきたのはこの国の大臣、アゾーケントです」
「アゾーケントだって!?なんでそんな大物が!?ならエデルはずっと狙われっぱなしじゃないか!」
「いえ、私がそうはさせません。………エデルさん、この調査が終わった後、今の名前を捨ててください。エデル・クレイルを死んだ事にします」
「名前を……?」
「はい、それか私に大臣の暗殺を依頼して下さい。依頼料はタダで構いません」
「…………俺が名前を捨てればもう大臣は俺の命を狙ってこないのか?」
「はい、私が必ずそうします」
「なら、それだけ頼んでもいいか?」
「……分かりました」
この小説を読んでいただいて誠にありがとうございます。皆様のおかげでこの小説のブックマーク登録件数が100人になりました。これからもどうかこの小説をよろしくお願いします。




