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魔族


 ギルド内は人間領で魔族を見たという話題で持ちきりだった。


 ただそれは魔族の存在を恐れて、というよりは笑い話として話題に出されている様だった。


 誰も本当に魔族が人間の土地に侵入してきているなんて思ってはいないんだろう。


 何せ『腐敗領域』と呼ばれる場所が出来てからというもの長い歴史の中で人間の領土に魔族が入ってきたことは一度も無いからだ。海を渡ってこようにもまた別の危険が存在し人間の土地と魔族の土地は完全に分断されていた。


 誰もが見間違いだと笑っていた。『腐敗領域』がある限り魔族がこちら側に来るわけないと信じきっていた。


 俺以外は………






 

 ・何故見間違いだと思わないのですか?


 最近魔族が『腐敗領域』を渡れる機会があった事を知っているからです。


 ・その機会とは一体どんな時ですか?


 人間と魔族がお互いの土地へ渡れない原因である『腐敗の女神』が『腐敗領域』に居なかった時です。


 ・何故『腐敗の女神』が『腐敗領域』に居なかったのですか?


 俺が外に連れ出していたからです。


 ・ではもし魔族が人間の領土に来ていた場合悪いのは誰ですか?


 ………俺です。


 ・人間の領土に来た魔族が誰かに被害をもたらした場合責任があるのは誰ですか?


 …………………俺です。






 「最近どうしたんだい?ずっと心ここに在らずって感じみたいだけど。今日は依頼を受けるのは辞めておくか?」


 冒険者ギルド内にある椅子に座り心の中で自問自答をしているとギルが話しかけてきた。


 「………ギルとアーシンさんは今みんなが話してる噂に関してどう思う?本当だと思うか?」


 「噂って魔族を見たってやつのことかな?エデルはその噂の事をずっと気にしてたのか?」


 「魔族なんて見間違いに決まってますよ!まあもし仮に魔族がいたとしてもエデルさんのことは私が護るので安心してください!」


 「もちろん俺だって力になるよ!」


 「……二人はこの噂が何処から広まり始めたか知らないか?」


 実際に見た、と言ってる人に話を聞けたらいいんだが………


 「ごめん、俺も最近噂を聴いたばっかりで力になれそうにないな。噂の出どころを今から探そうにもここまで広まっているとかなり時間がかかりそうだよ……」


 最近ずっと一緒に行動していたから俺が知らないならギルが知らなくても当然か。


 「…………あの……明日まで待ってもらえませんか?」


 おずおずと言った様子でアーシンさんが申し出てきた。


 「何か心当たりがあるんですか!?」


 何か知ってる事があればなんでもいいから教えてほしい


 「いえ………そこまでエデルさんが気にしているなら探りを入れてみようかなと………」


 「………君が一人でかい?」


 「何か俺に手伝える事はないですか?」


 完全に自分の都合なのにアーシンさんにだけ動いて貰うというのは申し訳ない。


 「いえ、大丈夫です。明日までに情報が集まらなかったらその時はお願いします。エデルさん達は依頼の方へ向かってください」


 「それは………ありがとうございます」


 そこまで話し、アーシンさんはギルドから出て行った。









 その日はギルと二人で依頼を受けた。


 「………なぁエデル、アーシンのことをあまり信用しない方がいい」


 「なんでだ?今回だって完全に俺の都合なのに噂の出どころを探しに行ってくれたんだぞ?アーシンさんにはなんの得も無いのに……」


 なんでギルは突然そんな事を言い出し始めたんだ?


 「弓矢、投げナイフ、毒、そして今回の情報収集活動、全部暗殺者の得意とすることばかりだ」


 「………たまたまじゃ無いのか?」


 「ああ、僕もさっきまでたまたま彼女の得意分野が暗殺者のよく使う手段と被っているだけだと思っていた。エデルに対しての害意を全然感じなかったからね」


 「じゃあなんで今になって………」


 「エデルが彼女と初めて会ったのは彼女が夜に男達に襲われそうになっていたところをエデルが自分の部屋に匿ったから。だったよね?」


 「ああ、服も破かれていたし嘘じゃないと思う………」


 「じゃあ何故男達に襲われるという経験をした彼女は男しかいなかったこのパーティに入ろうと思ったんだい?」


 「それは………」


 たしかに彼女の中で男性が恐怖の対象になっていてもおかしくはないが……


 「まあでもそこは俺も納得してたんだ。なにせこのパーティには彼女を助けたエデルがいるからね。僕に対する当たりが強かったのもまだエデル以外を信用出来ないからなのかと思っていたよ」


 「………」


 「でも今回噂の出どころを一人で探ってくると彼女が言った時に疑問に思ってしまった。果たして男達に襲われたという彼女が一人で情報収集に赴けるものだろうか?とね」













 そして次の日アーシンさんに調査の結果を聞いた。


 「どうやら一人の男が酒場で話していた魔族を見たって話が噂の発端のようですね」


 「その人が何処の誰なのか分かりませんか?」


 話が本当のことなのか直接聞きたい。


 「ええ、既にその男の名前や家の住所も分かっています」


 「すごい……!本当にありがとうございます!」


 昨日のギルの話が頭をよぎりながらも彼女何調べてくれた調査結果を信じたかった。


 「いえ、エデルさんのお役に立てたのなら幸いです」


 そして俺たち三人は魔族を見たと言っていたという男性の元へと向かった。


 






 そしてアーシンさんが調べたという男性の家を訪ねた。


 「………誰だ」


 「あの……突然すいません。貴方が魔族を見たっていうのは本当ですか?」


 「………お前達も俺の話を笑いにきたのか?」


 「いえ、魔族を見たって話が気になって………出来ればその時の話を聴かせてくれませんか?」


 「………俺は本当に見たんだ。嘘じゃねぇ!ありゃあ間違いなく魔族だった。夜も遅くて肌の色までは分からなかったが頭から生えた角、背中から生えていた翼、言い伝えで聴いた魔族の特徴通りだった」


 「では何故貴方は魔族に会ったのに傷一つなく無事なんですか?」


 ギルはこの話を疑っているようだった。アーシンさんが用意した役者だと思っているのかも知れない。


 「ああ………俺も自分がなんで生きているのか分からねぇ…………俺が見た魔族は二体いたんだが二体で人一人分入るくらいの木箱を抱えて俺には目もくれず急いでどこかに向かっているようだった。お前達も信じてくれねぇとは思うが……」


 「いやその話を信じます。魔族をどこで見てどっちの方向に向かって行ったのか教えてください」




 そうして魔族を目撃したと言っている男から情報を聞き出した。




この小説を読んでいただいてありがとうございます。お陰様でこの小説のブックマーク登録件数が90人を超える事が出来ました。これからも更に楽しく読んでいただけるように精進するのでどうか今後もよろしくお願いします。

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