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『悪滅の雷』

説明がわかりづらいとこは後日修正します。


 ギルドの外に騎士団に所属していたという男と共に追い出された。


 「いやぁ、まさか冒険者登録して早々に追い出されるとはな」


 「………」


 「まあちょうど良かった。とりあえず依頼書を見せてくれ…………………うわ」


 男に依頼書を見せて欲しいと頼まれ恐る恐る渡すと、男の端整な顔が初めて歪んだ。


 「繁殖したスライムの討伐依頼か………あの女性をかなり怒らせてしまったようだな」


 どうやら嫌な顔をした理由は依頼の内容がスライム討伐だからのようだった。だがスライムの何がそこまで嫌なのだろう。正直前の世界でやっていたゲームでは最弱モンスターの代名詞で有名だったんだが………この世界では違うのだろうか?



 「……………スライムって強いのか?」


 気になってしまって警戒しつつも男にスライムの何がそこまで嫌なのかを聞いてみた。


 「もしかして今までスライムを見たことがないのかい?」


 「ない」


 生まれた村は『腐敗領域』の近くにあるせいで魔物が寄り付かなかったし、ギルドに来て受けた依頼も盗賊の討伐依頼ぐらいだしスライムを見る機会なんて全く無かった。


 「そうなのか………でも今までスライムに遭わずに済んだのは運がいいことだと思う」


 「そんなに強いのか……」


 遭遇してないことが幸運って言われるほどのものなのか………


 そして今から俺はこの不審な男とそんな危険な魔物の群れを倒しに行かないといけないのか………


 「いや弱いよ。スライムは基本的に攻撃は大したことないし、よほど状態が酷い武器を使っているとかじゃない限り簡単に倒せる」


 「じゃあなんでそんなにこの依頼を受けるのが嫌なんだ?」


 「スライムは周りの魔力を取り込んで生きてるんだがその取り込む魔力が問題なんだ。取り込む魔力によってスライムが使ってくる魔法が違ってきて、周りにある魔力が炎の魔力だったら炎魔法を使ってくる炎スライムに、風の魔力だったら風魔法を使ってくる風スライムにって感じで変化するんだ。ただ……」


 「その魔法が強いとかか?」

 

 「いや、スライムは視線の位置が低いから致命傷になる位置に魔法は飛んでこないし魔力が低いから使ってくる魔法も小さなもので文字通り大したものじゃないんだ……………………岩魔法以外は」


 「岩魔法?」


 岩魔法が厄介ってことか?でもそんなに岩魔法が強いならゴーレム達は何故使わなかったのだろうか。


 「スライムの極僅かな魔力で放つ岩魔法だ。もちろん出来上がるのは小石程度の小さな石なんだが、その小さいっていうのが大変なんだ」


 小さければいいんじゃないのか?


 「岩魔法はその空間に直接岩を創る。それと小石程度の大きさ、スライムの視点の低さが合わさって最悪なことになるんだ」


 「………?」


 「岩スライムの岩魔法で足の関節に小石が発生したら風が吹いただけで激痛が走るようになるんだ。他の魔法と違って回復魔法をかけても小石は身体の中に残ったままで自分か仲間が身体を切り開いて取ってやるしかなくなる。俺も騎士団にいた頃に仲間がやられてしまったことがあった、運の悪いことにそいつの局部に小石が発生してしまって大変なことになったんだ。俺たちは急いでそいつから小石を摘出したんだが、小石を取り出すために局部を切られてる奴、仲間の局部を切って小石を取り出してる奴、最後に仲間の局部に回復魔法をかけた奴、全員が顔が死んでいた。……………それを見てああはなりたくないなって思った」


 痛風と尿路結石じゃねーか!怖いわ!……え?今から俺そんな奴らの群れを倒しに行くの?こんな得体の知れないやつと?『七つの厄災』よりそいつらの方がよっぽど厄災してるだろ!


 「なあ、ならその依頼受けるのやめにしないか?」


 俺としてもこの推定騎士団からの刺客と行かずに済むのなら願ったり叶ったりだ。


 「いや折角だから依頼の場所に向かおう。話したいこともあるしね」


 「ここで話して欲しいんだが」


 人通りのあるとこで要件を言って欲しい。


 「人の多いところじゃちょっと言いづらいかな」


 暗殺か?


 「まあ悪いことではないよ」


 暗殺なのか?


 もしも俺の命を狙ってきたら転移の指輪で『腐敗領域』に逃げ込もう。




 そして依頼書に書かれていたスライムが大量繁殖しているという森に着いた。


 「この辺でいいかな」


 俺は『転移の指輪』を構えた。男は神妙な面持ちで戸惑うように要件を伝えてきた。


 「エデル、君はどうやら貴族の誰かに狙われているようだ」


 ………………うん。


 「知ってる」


 「……なんだって?」


 「てっきりその刺客がお前だと思ってた」


 「そんなわけないだろう!妹の命を救ってくれた恩人を俺が殺すわけないじゃないか!むしろ逆だ!エデルを助けにきたんだ!」


 「そうなのか?」


 「そうだ、俺は妹が誘拐されても動いてくれなかった騎士団を辞めた。そして妹を救ってくれたエデルへ恩を返すために冒険者になったんだ」


 「それは………ありがとう。でも俺のことは気にしなくても大丈夫だ」


 セコムだったら既にイリエステル一人で過剰防衛気味になっているからな。


 「もちろん君のことを弱いなんて思っていない。盗賊団の頭領を倒したくらいだからね。………でも妹に聞いたよ…………人を殺すことに慣れてないんだってね」


 それは…………確かに一回経験したからって次から罪悪感なしで殺せます!とか出来そうにないし。イリエステルに変わりに殺して貰うなんてもっと駄目だ。でもだからって目の前の男に人殺しを担当して貰う理由にはならない。俺が狙われているのなら俺がやるしかないだろう。


 「妹が凄く気に病んでいたよ。殺されそうになった妹を守る為にエデルが咄嗟にレオンフィールの心臓を剣で刺して、その後堪えきれず吐いていたって」


 アレを見られていたのか。

 

 「妹さんに気にしないでくれって伝えて欲しい。そしてアンタも俺のことは気にせず折角助かった妹さんを守ってやってくれ。俺にばっかり関わっていたら妹さんもまた狙われるんじゃないか?」


 「それは安心して欲しい。妹は実家の領地に帰ってもらったから誰も手出しは出来ない。………でもやっぱりエデルは俺の予想通り凄くいい奴だ。妹の恩人とか関係無かったとしても一緒にパーティを組んで欲しい。あと僕のことは気軽にギルと呼んでくれ」


 ……いい奴?俺が?ありえない。



 「あーー、じゃあ取り敢えずスライム討伐の依頼を終わらせよう」


 今は取り敢えずギルが刺客じゃないと分かっただけ良しとしよう。


 そして俺たちはスライムの群れを問題なく討伐した。


 スライムの群れの中に岩スライムは居なかった。


 「いやぁ初めての任務だったから無事に達成できて良かったよ」


 「そういえばずっと気になってたことがあるんだが」


 「なんでも聞いてくれ」


 「ギルドに登録するときにカードの裏側を見ないのって普通なのか?」


 確かギルは登録するときにカードを確認されることもなく渡されることに疑問を抱いてないようだった。


 「ああ、それは…………前にギルドの受付嬢が登録のときに知った冒険者の情報を他の冒険者に喋ってしまったことがあったんだ。あの人は魔力の値がとても高かったってね。そしたらその登録したばかりの新人冒険者は次の日に死体となって発見されたんだ」


 「一体なにがあったんだ?」


 「エデルは『七つの厄災』の一つ『悪滅の雷』って知ってるか?」


 「ああ、知ってる」


 この世界で一番知名度がある厄災だと思う。


 




 『悪滅の雷』


 遠い昔あるところに大賢者と呼ばれる魔法を極めた人間がいた。魔力、魔法の知識共に他を圧倒する程の男だった。ただその男は魔法に傾倒するあまり家族のことを疎かにしてしまった。

 ある日男が魔法の研究所から家に帰ると妻が、娘が無惨に殺されていた。男が研究所に寝泊まりしている間に家に盗賊が押し入っていたのだ。

 男は既に生き絶えた妻と娘の亡骸を胸に抱きこの世の悪を恨んだ。家族全てを殺された男が恨んだのは盗賊ではなくこの世に存在する全ての悪人だった。

 その後、男は自身の持つ全ての魔力、全ての知識を使って一冊の魔導書を創り上げた。

 その魔導書の名前は『悪滅の雷』。悪事を働いた人間の元に現れその者を所持者とする呪われた魔導書だった。

 その魔導書の所持者は身体が麻痺して動けなくなる。そしてじわじわと魔導書に魔力を吸い取られ恐怖の中で死んでいくのだ。そこには大賢者のこの世全ての悪への怨嗟が詰まっていた。

 その魔導書は数え切れないほどの悪人の命を奪った。だが悪人たちの魔力を吸い取る内に魔導書に変化が起きた。

 魔力とは魂そのもの、つまり悪人達の魂が魔導書の中にどんどんと蓄積されていったのだ。

 その悪意の塊は魔導書のシステムを書き換えられる程に大きくなってしまっていた。

 そして悪意は自分達だけが死ぬのは不公平だと魔導書を全く別のものへと変異させた。

 まずは魔導書の次の所持者になる者の条件を悪人ではなく魔力の高い者に変えた。そしてとうとう本という器を捨てその者の魂に直接寄生する形で現れるようになった。

 そして寄生された者は麻痺して動けない中で魔力を吸われ死んでいき、その者の魔力を死ぬまで吸い取った『悪滅の雷』はその魔力を使って自分自身を召喚するようになった。

 召喚された『悪滅の雷』と呼ばれる巨大な化物はその魔力が尽きるまで周りを破壊した。

 その化け物は元が魔導書なだけあって魔法が効かず、近づいて攻撃しようにも周りに特殊な電磁波を張っていて近づいたら麻痺状態になり身体が動かなくなってしまう。

 そんな化け物が急に魔力が高い者の身体から出てきてしまうようになったのだ。



 「そのせいで魔力の高い者は迫害されてしまってね。でも冒険者ギルドとしては魔法が使える人材は貴重だから冒険者のステータスや使用魔法を見ないことにしたんだ。仮に『悪滅の雷』に寄生された人が居たとしても寄生してすぐに現れるわけじゃないし寄生されてる人は身体の麻痺っていう分かりやすい特徴も出てくるし。その間に寄生された人を王都から遠く離れた人の居ない場所に移動させれば被害は一人しか出ないからな」


 「『悪滅の雷』って魔力が人間より高い龍種や魔族の元に現れてるから人間の土地での被害はほとんどないって聴いたけど」


 「ああ、だけど絶対じゃない。みんな怖いんだ。急に近くに『悪滅の雷』が現れて自分を、自分の親しい者を殺すんじゃないかって」


 「なるほど」




 『悪滅の雷』か………出来ることなら出逢いたくはないな。



この小説を読んでいただき誠にありがとうございます。皆様のおかげでブックマーク登録者数が45を超え総合評価が200を超えることができました。本当にありがとうございます。

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