騎士団
2章開始
2章は3章までの繋ぎみたいな面もあるので軽い気持ちで読んでいただけるとありがたいです
盗賊を討伐する任務に着いて行った日から一週間程経った。
任務が終わってから三日程は初めて人を殺めたことがショックで何をするでもなくただただ『腐敗領域』に居座り続けた。
レフィアちゃん達を王都で探すべきだとは思ったが今の人を殺してしまった俺が彼女達の前に出て行ってもいいものかずっと悩んでいた。
そしてその三日間、消沈している俺をイリエステルは甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
でもだからこそそんな世話になっている彼女の為に呪いをどうにかしてやりたいと思い俺は王都に戻る決心をした。
だが当の彼女は、俺が彼女の呪いについての手がかりを探すために王都に戻る決心をしたことに何故か否定的だった。
王都に戻ってまずはギルドに向かった。
まずは連絡もなしに三日も顔を出さず心配させたことをゼンとセイに謝ろうと思ったからだ。
だがギルドの中に二人は居らず代わりにギルドの受付嬢をやっている女の人から手紙を預かった。
『エデルさんへ
君がこの手紙を読んでいる頃には私たちは既に遠く離れた場所に雲隠れしていることでしょう。もちろん私たちが悪事を働いたと言うわけでは無いですよ?前に貴方と受けた任務で盗賊団の首領が言っていたことを覚えていますか?どうやら彼らの背後には騎士団の活動に口出しできる程の何者かが居たようです。つまり私たちはそれほどの権力を握っている人物の邪魔をして恨まれている可能性があります。依頼書には私の名前を書いているのでエデルさんにまでその者の魔手が届くか分かりませんが是非暗殺等には気を付けてください。特に、特に!!その者は騎士団との繋がりがあるようなので騎士団の連中には近づかないようにしてください。
ではまたほとぼりが冷めた頃に ゼン セイ』
…………なんていい人達なんだ。依頼書にサインをしたのは二人の方で、自分達が一番危険なのにたった一回一緒に依頼を受けただけの仲の俺の為に手紙を残しておいてくれるなんて。
俺は二人の善意を決して無駄にしないように騎士団とは絶対に関わらないようにしようと決めた。
「君が不動盗賊団の首領を倒したって言うエデル・クレイルかい?」
受付の前で手紙を読んでいると背後から声をかけられ肩に手を置かれた。
振り向くと驚くほど顔の整った男が立っていた。
「俺の名前はイーギル・ナイトエイジ。今日はここに冒険者登録をしに来たんだ」
「あ、すまない今退くよ」
俺はてっきり受付の前で手紙を読んでいて邪魔だったから声をかけられたのだと思った。
「ああ、ありがとう。だけど退いてほしくて話しかけた訳じゃ無いんだ。でもせっかく君が道を開けてくれたから先に登録を済ませるとするよ。だからその後少し話に付き合ってくれないか?」
「あ、ああ、構わないが」
初対面のくせに妙に馴れ馴れしいというか、グイグイくるなこの人。
イーギルと名乗った男は受付で渡されたカードを受け取るとすぐにこちらに来た。
「すまない、こちらから話しかけたのに待たせるようなことをして。ところで話は最初に戻るけど君が不動盗賊団の首領を倒したっていうエデル・クレイルかい?」
………これは、どう答えるのが正解なんだ?ゼンとこセイからの手紙を読む限りあまりあの盗賊団の男を倒したことを吹聴しない方がいいように思える。だが相手は俺が倒した事だけではなく俺の名前まで知っているようだった。
ゼンとセイが喋ったのか?…………いや手紙を読む限り二人がそんなことするとは思えない。
クソッ!あの依頼の日にギルドに戻ってきてすぐに『腐敗領域』に転移したことが仇になった。あの後ギルドでどんな話の流れになったのか把握できてないのが早速響いてきた。
「……ん?どうしたんだ?……もしかして人違いだったか?」
「……いや俺がエデル・クレイルで合ってる」
誤魔化そうかとも思ったが名前を知られてる限り逃げ場がないだろうと諦め、本名を名乗った。
「ああ!やっぱり君が!いやぁ、妹に聞いていた通りの見た目だからすぐにわかったよ!」
「妹?」
「実は俺の妹は君が盗賊団の首領を倒してくれたあの時に誘拐されていてね………君が奴を倒してくれなかったら妹がどんな酷い目にあっていたか………だから是非君にお礼を言いたかったんだ」
「なるほど」
だから俺の見た目を知っていたのか。あの場に彼の妹が居たのならそれも頷ける。
「ああ、だから改めて……妹を助けていただいたことに最上の感謝を」
イーギルはその場で膝をつき妹が助けられた事への感謝の言葉を述べてきた。
「わ、分かったから立ってくれ!」
ギルドの中で男に跪かれ周りの目が気になって居心地が悪かった。なので手を貸しすぐに立ち上がらせた。
「すまないつい騎士団にいた頃の癖で」
「いや癖なら仕方が………」
騎士団?
その言葉を脳が理解すると同時に俺は即座にその場から逃げようとした。だが先程彼を立ち上がらせる時に出した手がまだ握られたままだった。
俺は必死でその手を離そうとブンブンと手を上下に振ってみたが相手の方は手を離す気がないようで逃げることが出来なかった。
「…………手を離してくれないか?」
「俺とパーティを組まないか?」
「は?」
嫌に決まってるだろッ!
「俺とパーティを組んでこれから依頼を受けないか?」
嫌だ!暗殺する気だろ!手紙に書かれてたみたいに!
「…………これから用事があるんだ」
「じゃあそれが終わってからどうだ?」
「今日中には終わらない」
「そんなにかかるのか……一体どんな用事なんだ?」
何も考えてなかった。でも用事があると言ってこの人目のあるギルドから外に出たらそれこそ暗殺のチャンスを作ることになってしまう。俺はこいつが諦めるまでギルドの人目につく場所にいた方がいいのだろう。でもギルドに一日中居続ける理由って何かあるか?まだ四回しかギルドに来たことないから何も思いつかない。
あれこれ悩んでいると今自分が持っている手紙が目に付いた。
「………きょ、今日一日受付嬢さんの横で手紙の返信作業をしないと駄目なんだ」
自分で言っててなんだが、なんだこの理由。
「……え、あの、迷惑です」
ほら受付嬢さんドン引きしてるじゃん。
「彼女は嫌がってるみたいだが?」
でも俺にとっての安全区域はここだけなんだ。
「お願いします!受付嬢さんの隣で書くことが出来ないと死んでしまうんです!」
もうなりふり構ってられなかった。俺は受付嬢さんに向かって必死に頼み込んだ。
「ほら受付嬢さんも嫌がってるじゃないか。嫌がっている人に無理矢理迫るのは良くないぞ?諦めて俺と一緒に依頼を受けよう!」
じゃあお前も嫌がってる俺を誘うのをやめろよ!
「断る!」
こいつも自分で言ったんだから嫌だと言ってる俺を無理矢理連れて行くなんてことしないよな…?
「なんでそんなに嫌がるんだ?足を引っ張るようなことはしないぞ?これでも騎士団に所属していたからな」
騎士団に所属していたからだよ。
「あの………」
ここで受付嬢さんが会話に入ってくれた。きっと俺の助けて欲しいという必死の願いが彼女に届いたんだろう。
「じゃあお二方でこの依頼を受けてきて下さい。………そこで騒がれると邪魔です」
とどめを刺された。
そして俺たちは二人揃ってギルドから追い出された。
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