禁止カード
今回はキリがいいので話が短めです。
問い詰めたところどうやらイリエステルは遠くの場所を映すことができる水晶玉を持っているようだった。
なんでもかつて『腐敗領域』の中にいたイリエステルの目の前に一人の人間が転移してきたそうだ。その人間の男は目の前にいたイリエステルに一言、二言話しかけた後、腐敗に抗えず死んでしまったそうだが、その死んだ男の手持ちの道具の中に件の水晶玉があったらしい。
その水晶玉を手に入れた当初は外の世界を見て楽しんでいたのだが冷たい水晶玉が映し出す人間達の営みを見ているうちに孤独な自分が酷く惨めになり、そのうちだんだんと水晶玉を使わなくなっていったそうだ。
だが俺を見送った後に、その水晶玉の存在を思い出し村に着いた頃から俺を映して見ていたということだった。
俺のプライバシーは?
とりあえず今はイリエステルに人前では急に出てこないように言い含めるだけにした。魔物じゃなく女の子を召喚しているところを他の誰かに見られたら俺が社会的に死んでしまう。
そして今度イリエステルのもとを訪ねた時にその水晶玉をどうにかしようと決意した。
その後イリエステルに《転移の指輪》の使い方を教えてもらい指輪の力で王都の近くに転移し無事に王都まで辿り着いた。王都に着いてイリエステルの呪いのことを調べたりもしたかったが、何よりもまず王都での生活基盤を整えなければならないのでレグス君に会える可能性もある冒険者ギルドに先に向かうことにした。
冒険者ギルドの中に入り、まずは受付カウンターの向こう側に座っていたお姉さんに冒険者登録の仕方を聞こうと思いカウンターの前に向かった。
「冒険者登録をしたいんですけど」
「冒険者登録の申請ですね!お名前を教えてください………」
受付のお姉さんの質問に次々と答えていき全ての質問が終わると同時に一枚のカードを渡された。
そのカードには先程聞かれた俺の名前や出身地等が記載されていた。カードを手に取り眺めていると急にカードに文字や数字が追加されていった。
「!?」
「フフッ、皆さんも最初は驚かれるんですよ。今からご説明いたしますね。その冒険者カードは持ち主の方の魔力を測定して常にその方の現在の状況を更新し続けます。魔力とはその方の魂そのものと言っても良いですからね。魔力から全てのことが分かります。そのカードは依頼を受ける時に必要なので出来るだけ失くさないようにしてください。もし紛失された場合は再度発行の手続きを致しますので早めに報告して下さい」
………確かに驚いた。
だが俺が驚いたのは急に文字が出てきたとか……俺のステータスがどうこうといったものが理由ではなかった。カードの裏面に書かれている使用魔法の欄にとんでもない文字が浮き出てきたのだ。
・使用魔法
《転移魔法》
《召喚魔法》
対象:『腐敗の女神 イリエステル=スカーレット』
………………ま、まずい。
表示されていては本当にまずい文字の羅列が並んでいた。
これを誰かに見られたら確実に処刑ルートだろう。
この後カードの確認をされたら一発で終わる………冒険者生活が、どころではない。人生が終わる。
「ではこれで冒険者登録は終了しました」
「………え?もう終わりですか?」
「はい、今後ともよろしくお願いします」
これで終わりなのか?ギルドは冒険者の詳細を把握しなくて大丈夫なのか?分からないことだらけだったが、下手にそのことを追求してカードを見られたら困るのは此方なので大人しく引き下がった。
そして早速自分でも受けられるような依頼を探すためにギルド内の掲示板のところまで行こうとしたが二人組の男に話しかけられた。
「お前はっ!?………今日はあの嬢ちゃんと一緒じゃないのか?」
「冒険者になられたのですね、これからは同僚としてよろしくお願いします」
………………誰だ?
見た目は知っている。前にイリエステルとギルドの前まで来た時に絡んできた二人組だ。だが片方はこんな紳士的な話し方をするような奴ではなかった筈だ。
「……ん?ああ、この口調ですか。あの時は貴方達をこの冒険者ギルドの区域内から追い出さなければならないと一芝居打たせてもらいました」
「追い出す?」
「ええ、あの時はあなた方をここに迷い込んだ普通の恋人同士の男女だと思ったんですよ。なんでここに集まるような血気盛んな男達に絡まれて本当に怖い思いをする前にちょっと怖がらせて追い出そうとしたんです。でもそれも必要なかったですね。まさかあのお嬢さんがあそこまで強いとは」
「おう!すっげぇ痛かったぞ!」
「………はは」
………じゃあ何か?俺たちは善意で近づいてきた人たちに大怪我をさせて逃げたってことか?そ、そんなの分かるわけがねぇじゃん!
「あの後謝りに行こうと思ったんですが相棒の治療が終わった頃には貴方達の姿が見えなくなっていて気に病んでいたんですよ。あ!後壊れていたギルドの壁の修理費は既に支払っておいたので安心してください」
ざ、罪悪感……!!
「せ……せめて治療費は払わせてください」
俺はその場で土下座した。
「ちょ、ちょっとやめてください!あれは貴方達の力量を見極めきれなかったこちらに非があります!早く立って下さい。何故だかその体勢を取られると申し訳ない気分になってくるので!」
「お願いします」
俺はその場から動くつもりは無かった。自分がイリエステルを王都まで、冒険者ギルドまで連れてこなければ彼の相棒はあの時死にかけたりしなかったのだ。
しつこく頭を下げているうちにとうとう向こうが音を上げた。
「わ、分かりました!なら今から依頼を受けるところだったんでそれを手伝ってください!それでお互いチャラにしましょう!」
この小説を読んでいただいてありがとうございます。今回はキリがいいところで話を切ったので短めです。申し訳ございません。多分次の話で1章は終わると思います。あとこの小説を読んでくださる皆様のおかげでブックマーク件数が25を超えることが出来ました。本当にありがとうございます。




