召喚士エデル
目を覚ますと俺は夜空の下でイリエステルに膝枕をされていた。
いったい何事か事態は飲み込めなかったが膝枕をされていることが気恥ずかしくて飛び起きようとした。
だが起きあがろうとした俺を強烈な吐き気と身体の痛みが襲ってきた。
うっ………き、気持ち悪い……………
たしか…………そうだゴーレムを倒した後体の中に何かが入ってきたんだ。
それがあまりにも気持ち悪くそして身体の内側からの爆発しそうなほどの痛みに耐えきれなくて意識を失ったんだ。
「良かった」
イリエステルは心底安心したという表情でこちらを見ていた。
「イリエステル……俺どれくらい寝てたんだ?後ここにいたゴーレム達はどうなったんだ?」
まだ三体ぐらい居た筈だ。イリエステルがここにいるってことは少なくとも彼女は無事のようだが………
「エデルが倒れた後、日が二回沈んだ。ゴーレムは(土に)還った」
「そんなに気を失っていたのか!?」
二回太陽が沈んだってことは今は次の日の夜か。
それとゴーレム達は俺の事を恨んでいるような言い方をしていたようだったし奴らの仲間を一人倒してしまったと思うのだが目の前で気絶した仲間の仇である俺を放置して本当に帰ったのだろうか?
「イリエステルはゴーレムに何もされなかったか?」
「大丈夫」
「なんで俺が倒れたかイリエステルは分かるか?」
ゴーレムに何かされたのだろうか?
「エデルの中にゴーレムの魂が入った」
「魂?」
「エデルに倒されたゴーレムの魂の格がエデルの魂に継ぎ足された。でもゴーレムの魂がエデルの今の魂の器より大きかったから無理に入ってきた魂に耐えきれず気絶した」
「ゴーレムの魂が俺の中に入ってきたのなら俺はどうなるんだ」
……ゴーレムに身体を乗っ取られるとかないよな?
「エデルが強くなった」
「強く?」
「貴方が倒したゴーレムの分強くなった」
それってもしかして
「……レベルアップ?」
「れべるあっぷ?」
「いやすまない。気にしないでくれ」
ということは俺は強くなったということだろうか?
イリエステルに聞きたいことを聞いてる間にある程度身体の気持ち悪さも消え、改めて起き上がることにした。
が、イリエステルが無理矢理俺の頭を押さえつけてきた。
「………何をしてるんだ?」
「まだ寝てて」
「いや………大丈夫だから……っ、手を離してくれ………っ」
「まだ寝てて」
起き上がるために頭を押さえつけている手を両手でどかそうとしたがびくともしなかった。
………本当に俺は強くなっているのだろうか……?
ぐぅ〜〜
レベルアップして強くなるという認識が間違っているのか疑問に思っていると、急に空腹を感じた。一日以上眠っていて何も食べてないうえに先程彼女の手をどかそうと全身の力を込めたことで身体がエネルギー不足を訴えたのだろう。
「あー丸一日何も食べてないなー。お腹すいたなー。でも起き上がれないと何も食べられないなー」
「あと五日くらい我慢して欲しい」
「死ぬわっ!」
空腹である事を伝えるとイリエステルは渋々ながら手を離してくれた。
そして俺は漸く起き上がることが出来た。
「なっ………!なんじゃこりゃあ!!??」
起き上がり周りの景色を見て俺は空腹も忘れ驚きの声をあげてしまった。
自分がゴーレムと戦ったこの場所から一定の方向に向かって大地は裂け木々はへし折れ向こう側の景色がポッカリと見えていた。
「い、いったい何があったんだ!?イリエステルは何があったのか知ってるか!?くそッ!貴重な食糧がどれだけ無駄になってしまったんだ!」
「わた………………魔族がやった」
「なにッ!魔族が!?」
魔族って奴ら最低だな!!
そしてよく見ると小屋の横にあったトイレも粉々に消し飛んでいた。
「ト、トイレが!」
「魔族がやった」
くそー!魔族め!
「これから俺はどこでトイレをすればいいんだ!」
「…………そのことで話がある」
先程まで何故か目を合わせてくれなかったイリエステルが急に真っ直ぐと見つめてきた。
「…………………ここから出ていって欲しい」
なっ!?
俺はまず自分の耳を疑った。
「すまん聞こえなかった。もう一回言ってくれないか?」
「ここから出ていって欲しい」
どうやら俺の耳は正常だったようだ。
「俺………イリエステルに嫌われる事をしてしまったのか……?」
「ちがう………私がエデルを嫌うことは絶対にない」
「なら……どうして」
俺に泣いて脅しをかけてまで一緒にいて欲しいと頼んできた彼女が急にそんな事を言うなんて………
俺だって恩人であるイリエステルが望む限り一緒にいようと覚悟を決めていた。たとえそれがどんなに人間の生活に適さない場所だったとしても一緒にいる覚悟だ。
「………魔族が…………侵攻してきたから」
「それとこの話となんの関係が………」
「私がエデルに触れている間はどんな魔族も人間も入ってこれる、触れてなくても一部の魔物は入ってこれる…………私は大丈夫………負けることはないから。だけどエデルは違う。エデルは弱いから魔族と戦ったら殺される」
「それはそうかもしれないけど…………イリエステルはそれで納得しているのか?また一人になってしまうんだぞ?」
「納得なんて出来るわけない!!」
俺はイリエステルが初めて声を荒らげたことに驚いた。
「本当は魔族を全て滅ぼしたい!………けどきっとエデルはそれを望まない。エデルに嫌われたくない!エデルがそばに居てくれなくなるのは怖い!」
「なら!」
「でも孤独より怖いことがある」
「それは一体………」
死という概念がない女神である彼女にとって孤独以上に恐怖することなんてあるのか。
「エデルが死ぬこと」
「え」
「私はまた孤独の中に戻ってもいい。エデルが死なないのなら」
「…………でも一人になる事をあんなに嫌がっていたじゃないか」
「最初はまた一人に戻りたくなくて、私の近くにいても腐敗しない人間を側に置きたかった。でもエデルは私の呪いの力ではなく私を見てくれた」
「それは…………」
俺はただ……二度と間違えたくなくて………
「エデルがどう思ってようと関係ない。私は初めて私自身のことを見てもらえて救われた」
「…………」
「だからここから出ていって欲しい………明日」
「明日」
「あと多くは望まないから三日に一回はここに来て欲しい」
「三日に一回」
…………イリエステルは本当に孤独に耐え切れるのだろうか。
そして次の日の朝を迎え、
「エデル、行く前に渡したいものがある」
「なんだ?」
「これ」
「これは…………指輪?」
「これは《召喚の指輪》、魔力を流すと召喚の契約をした存在を呼べる…………こんなふうに」
イリエステルがそう言うと指輪が光り、目の前に大きなカエルの魔物が召喚された。
だがカエルは召喚されてすぐ腐敗し崩れ落ちていった。
「餞別」
「こ、これが?」
なんで出発前にこんなグロい光景を見せられたんだろう。
「これで空になった」
「え、良かったのか……その………カエルを殺して……」
「さっきのはこの指輪の前の持ち主の契約相手」
「前の持ち主?」
「私に挑もうとした人間」
「………」
なんも言えねぇ。
「そして私が既にエデルと契約してる」
「お、おう」
俺の意志は?
「必要な魔力は契約した召喚相手が決めるけど私の召喚に必要な魔力は極僅かだからピンチになったら呼んで欲しい」
俺に核のスイッチを押せと?
「ありがとう………あー、イリエステル……俺がゴーレムと戦った時に装備してた剣とか鎧って良かったら貰えたりしないか?」
面の皮の厚いお願いだが、例の剣と鎧があればこの異世界生活がかなりイージーモードになると思う。
「あれは駄目、あれがあるとピンチにならない」
「なんでだよ!」
ピンチにならないならそれに越したことはないだろ。
「そしたら私が呼ばれない」
「…………まぁいい、俺……イリエステルの呪いのことや魔族のことがどうにかならないか探してみるよ」
この世界に転生させられて特に目標なんてなかったが今初めて出来た。
イリエステルの呪いをどうにか出来る方法を探し、そして『腐敗領域』とか関係なく魔族の住む土地との間に境界線を作る方法をこの世界で探すという目標だ。
「じゃあなイリエステル」
「うん」
「元気でいてくれよな」
「うん」
「もう行くからな」
「じゃあまた三日後」
「え?………………お、おう」
……あれ本気だったのか、《転移の指輪》ってやつを使えばいけるのか?
そして俺は『腐敗領域』を出た。
まずは王都に行けばいろんな情報が入ってくるとは思うが、その前にリフィアちゃん達の事が気がかりだったので武具や道具の確保も兼ねて先に村に寄ることにした。
この小説を読んでいただき誠にありがとうございます。またブックマークや評価をして下さった方々にもとても感謝しております。できればこれからもこの小説のことをよろしくお願いします。
 




