女神の絶望
ハーメルンにマルチ投稿したところキャラクターのトイレ事情が気になるという感想をかなりいただいたので今回だけ少し汚い話をお許し下さい。
イリエステルにずっと一緒にいることを誓ってから今日で一週間ほど経った。
イリエステルへの誓い通りこの一週間『腐敗領域』の中で共に過ごしていた。
この現代人である事を一度経験した者にとっては苦痛であろうなんの娯楽もない空間でフフの実を食べ、排泄をし、小屋に設置してあるベッドで寝るというだけの生活サイクルが出来上がっていた。
そういえば排泄で思い出したのだが『腐敗領域』生活初日にこんな事があった。
「なぁイリエステル………ここってトイレとかあるのか?」
催したのでイリエステルにトイレが存在するのかを聴いた。
「といれ?」
「自分が食べた物を身体から排出するための場所………俺が宿屋でイリエステルについて来てもらったとこにあったあの椅子みたいなやつはこの森にあるか?」
もし無かったら俺はずっと外でしなければならなくなる。しかし自分聞いていてなんだがこの森の中にしっかりとしたトイレがあるとも思えなかった。
「ある」
「あるの!?」
「こっち………」
手を引かれて連れてこられたのは小屋の横に設置されていた電話ボックス二つ分ぐらいの大きさの木造の建築物だった。
「……これのこと?」
イリエステルがその建築物に付いている扉を開けるとそこには大量のフフの葉っぱと……木造の便器が存在していた。
木造!?腐ったりとか………いや、小屋に使われているフフの木だったら腐らないのか?
「イリエステル、なんでここにこんなものがあるんだ?」
トイレが存在していた事に安心するより先に、疑問の方が湧いて出てきた。
「ゴーレムが小屋を造った時これも一緒に造ってた」
「そ、そうなのか………じゃあちょっと使わせて貰うよ」
トイレの中に入ろうとするとイリエステルも付いてこようとした。
「イリエステル………今からトイレをしたいんだが………手を離してくれ」
「一緒に居るって約束した」
トイレ中も!?
「………トイレは一人で入らなきゃいけないって決まりがあるんだ」
無垢な彼女を騙すようで心苦しいが一人で落ち着いてトイレに入りたかった。
「でも王都では一緒に入った」
「あれは……特殊な状況だったんだ」
俺のトイレ問題で王都の人達が死んだなんて洒落にならないだろう。イリエステルを王都へ連れて行く時に俺の考えが足りなかったのだから仕方が無いと自分に言い聞かせてプライドとか羞恥心をかなぐり捨ててイリエステルにトイレまでついて来てもらった。
「イリエステルも自分がトイレする時に俺がついて来たら嫌だろう?」
自分が最低な発言をしている自覚はあった。しかしもう王都の中ではなく周りに生命が存在しない腐敗領域の中に居るのだから落ち着いてトイレをしたかった。
「私はトイレを使わない」
「ホアッ!?」
え………もしかして外で………
「女神は食べた物を体内で魔力に変換している」
「……………そうなのか」
王都に居る時に彼女はトイレに一度も行かなかった。疑問に思いはしたが流石に女の子を相手に聞けることでも無かったので串焼きしか食べていないからと無理矢理自分を納得させていた。しかしそんな答えだったとは思いもよらずに驚いた。
………驚いたが俺がトイレに一人で入るのとはなんの関係もない。
「すぐに出てくるから一人で入らせてくれ。頼む……!」
彼女の目をまっすぐ見て頼み込んだ。
「…………………分かった」
かなりの間があったがようやくイリエステルが手を離してくれたので無事にトイレに入る事が出来た。
トイレの中に入り、本当に使って大丈夫な物なのか確認するために便器の中を覗くと
そこには深淵があった。
便器の下に底が見えないほど深い穴が広がっていた。
不安はあったがイリエステルとのやり取りで限界が近づいていたためにその便器を使わせてもらった。
そんな感じの事があった。
話を今に戻すが、そんな生活が一週間続き、ある程度ここの生活に慣れてきたので色々と周りの事へ目を向ける余裕も出てきた。
「なあイリエステル、小屋の外に積み重なっているすごく綺麗な剣や鎧って一体なんなんだ?」
話題作りも兼ねてずっと気になっていた事を聞いてみた。
イリエステルから俺に話しかけてくる事はない。四六時中カルガモみたいにくっついてくるのに向こうから話しかけてくる事は無いのだ。
俺も別に誰かと話してないと落ち着かない性分とかではない。しかし物凄く近くに寄ってくるのに何も話してこないというのは些か……いや、かなり気まずかった。
なのでこの機会にずっと気になっていた武具の山について話題を振ってみた。
あれも魔王という奴がイリエステルに贈った物なのだろうか?
「私を討伐しようとこの森に入ってきた人達が付けていたもの」
俺の馬鹿!これ以上気まずくしてどうする!
「そ、その……大丈夫だったか?」
「ここに辿り着く前にあれを残して死んでいった」
「この話題はやめよう!」
「……うん」
「………ちょっとトイレに行ってくるよ」
一旦場の雰囲気をリセットしたかった。
「ついていく」
「トイレは一人で「入り口まで………」」
「…………分かった」
トイレの前に着き、今日一日ずっと繋いでいた手が離された。
そしていつも通りに排泄を済ませ、横に置かれてるフフの葉っぱで尻を拭き、次に別の葉っぱで手を拭こうとしている時にトイレのドアが勢い良く開けられた。
「そんな急いでどうしたんだ?おっと、いま汚いから手は繋がない方がいいぞ」
「ちょっと来て」
彼女は俺が葉っぱで手を拭こうとするより先に俺の手首を握り小屋の近くの、かつて『腐敗領域』に挑んだ者達が付けていた武器や鎧が積まれている場所まで引っ張ってきた。
そしてあれよあれよという間に体の全てを隠すような鎧であるプレートアーマーを着せられた。かなり重く身動きが取れない。
「汚いって言ったって全身にこんなものつける必要ないから!!汚れてるのは手だけだから!!」
こんなゴツいもの付けてまで遮断するようなものじゃないから!どんだけ汚いと思われてるの!?
「これ使って」
俺に全身鎧を着せてきた彼女は次は神々しい輝きを放つ剣を渡してきた。
「これを使って……ってどういうことだ?」
……これで汚い手を切れということだろうか。いや、まさかイリエステルがそんなこと言うわけが無い。
「ここで待ってて」
イリエステルはそう言うと森の中に走っていった。
え?このまま放置するの?なんの説明もされてないんだけど……
待つこと三十分、イリエステルが走っていった方向から足音が聴こえてきた。
ただその足音は華奢なはずの彼女にしては随分重さを感じる音だったし、足音という表現ではなく地響きという表現の方が正しかったし、なんなら複数聴こえてきた。
ここにきて俺は今が只事ではない事態だということに気がついた。
「ようやく見つけたぞ!」
森から出てきたのはかつてここで俺を殺そうとしたゴーレムより二回り程小さい岩で作られた体を持つ魔物が四体出て来た。
「こいつです!隊長の記憶にあった人間は!」
「貴様のせいで隊長が……ここで殺す!」
唐突!
急な展開についていけずに無防備に隙を晒していた俺にゴーレム達の魔法が襲いかかった!
「炎よ!『ファイヤーボール』!」
「水よ!『ウォーターカッター』!」
「風よ!『ウインドカッター』!」
「炎よ!『ファイヤーボール』!」
ゴーレムなら岩の魔法を使えよ!
しかしそんなツッコミを悠長にしている場合ではない。脅威がすぐそこまで来ているのだ。
くそっ!ここまでなのか………っ!
魔法への対処など知るはずもなくその場で剣こそ構えたがそのまま動かなかった俺に四体のゴーレムが放ったそれぞれの魔法が直撃した。
だがイリエステルに着せられていた鎧に魔法が当たった瞬間それらの魔法は俺にダメージを与えることなく霧散して消えてしまった。
死を覚悟してたが少し時間を置いて漸く自分が助かったことを理解した。
「なんで魔法が効かないんだ!」
「雨垂れ石を穿つという言葉を支えに岩属性以外の適性外の魔法をずっと練習してきたのに!」
ゴーレムがそのことわざを支えにしちゃダメだろ。
………!?ことわざ!?なんでこの世界に!?
「奴の鎧は魔法を無効化するようだ!近づいて物理攻撃で戦うぞ!」
「「応!」」
俺の混乱など関係なしにゴーレム達は次の行動に移っていた。
相手は次は物理攻撃を仕掛けてくるみたいだがこの鎧は物理攻撃には耐えてくれるんだろうか?そしてゴーレムみたいな岩でできた魔物に今持っている剣の攻撃って効くんだろうか?
疑問は尽きなかったが先程相手の攻撃が効かなかった事もあり、死ぬ覚悟ではなく敵に向かう覚悟をすることが出来た。それに逃げようにも鎧が重くて走れそうに無いし。
退路はもう無い!
俺は鎧で重たくなった体を無理矢理動かし一番近くに居たゴーレムに切り掛かった。
「フハハハハ!我らゴーレムに斬撃が効くわけないだろう!」
……どうやら剣での攻撃はまずいようだった。だが既に勢いの乗った俺の体は鎧の重さもあり今更攻撃を中止できそうになかった。そして運の悪い事に俺が斬りかかろうとしたゴーレムは岩でできたその剛腕を後ろに引き絞りカウンターの姿勢を取っていた。
「貴様の剣を弾いた後その体を粉々に砕いてやるわ!………な!?」
だがここにいる誰もの予想に反して岩の体はバターのように切れた。
どうやらイリエステルは鎧だけでなく剣も初心者が持つにはオーバースペックなものを渡してきていたようだ。でも今はその過保護に救われていた。
そして俺は驚きでまだ動けていないゴーレムを倒そうと剣を構え他のゴーレムの方に向かおうとした。
だがその時俺の身体にナニカが入ってきた。入ってきたものは透明で形を持っていなかったが、確かに俺の体よりも大きなナニカが体の中に入ってきた。そして身体中に痛みが走り全身からどんどん力が抜けていった。
「………え?」
声のした方へ顔を向けるとこちらを見ているイリエステルがいた。彼女が戻ってきてくれたのなら協力して残りのゴーレムを倒したかったのだが、俺の身体は俺の意思に反して地面に向かって倒れていった。
そして呆然とこちらを見ているイリエステルの顔を最後に俺の意識は無くなった。
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