音楽について
音楽はずるい。
音楽は着れないし、音楽は食べれないし、音楽は雨風を凌げない。音楽は生きるのに絶対に必要なものではない。しかし音楽は人と共にある。聞く所によれば、人間がまだ洞窟の中で暮らして狩猟をしていた頃から音楽はあったらしい。この世界の文化全てに共通することは音楽を有することらしい。
ならどうして音楽は存在するのか。聴くと楽しいから。感情を揺さぶられるから。人の心を癒すから。そうかもしれない。しかしそうではないとも思う。
私は、音楽という表現方法でしか自分を表せられない異端者が居るからだと思う。音楽でしか自分の中にある激情を、揺さぶられたものを、こんなことあってたまるかという哀しみを、この世のものとは思えないくらい輝かしいものを、日常の中にあるふとした気づきを、電車に揺られてる時に車窓から見えた夕陽の沈む住宅街の美しさを、眠れない夜のわくわくを、そして抱いた憎しみを───そういうものを音楽でしか表せられないかわいそうなやつらがいるから、音楽は存在するんだと思う。私がそうだからこう思うのかもしれない。
私は音楽をやっていた。それでお金を得ていた。子供には相応しくないくらいのお金だった。お金のためにやっていたわけじゃない。音楽でしか私は私を認められなかったから。音楽でしか私はものを言えなかったから。音楽でしか救われない気がしたから。そんな自分を傍から見てバカだとは思っても、決して愚かだとは思わなかった。
他人の評価を気にしてはダメだ。相対じゃない、絶対だ。そんなこと分かってる。そんなこと分かってる。そんなことは分かってるけど、公に出したものは否応なく他人に評価される。
すごい、良い曲、これすき、俺は嫌い、ガキのくせに、歌詞が嫌い。調子に乗るな。
そんなもの、と鼻で笑い飛ばしたかったけれど、私には音楽だけだったから。否定されると私まで否定される気がした。
どうして音楽だけなんて思ったんだろう。私にはお父さんとお母さんがいて、二人とも私を愛してくれて、学校にも通わせてもらって、帰れる家があって、三食のご飯にありつけない日は無かった。私には音楽だけじゃなかった。私は色々なものに生かされていた。じゃあどうして音楽だけ? 音楽なんて絶対必要なものじゃないのに。
分からない。
分からなかったから、その答えを探すために音楽をやった。けれどその答えに到達する前に私が壊れた。
だから、私は音楽を捨てた。
このままやってたら音楽に殺されると思ったから。もうかわいそうなやつでいるのはやめた。普通に、安寧に生きる。音楽なんかで自分を表現しなくていいじゃないか。表現するべき自分なんてどこにある。私は私なのに。
だから、私は過去に囚われてなんかいない。可燃ゴミの袋の中に入れて跡形も無く燃やし尽くした。
あれはいらないものだ。
私にとって必要ない。
必要ない。
必要ないから、考える必要もない。
考える必要がないから、考えないでおこう。
過去のことは捨てたんだ。私は一からやり直しているのだから。普通に、幸せに生きたい。贅沢な望みだとは思わない。
だから、お願いだから。過去は過去のまま、沈んでいて欲しい。