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第十四話

 週が明けて月曜日。いつも通り美紅と屋上で昼食を共にする。

 「この前のイベントはどうだったの?」

 「うん。問題なし」

 「吐いた?」

 「全く」

 そう聞くと、美紅は胸をなでおろした。

 「良かったぁ。塾の時もずっと心配だった。次は絶対行くからね」

 「ありがとう。っていうか、ちゃんとライブやってる動画も送ったじゃん」

 「貰ったけど、目の前で見ないと安心できないっていうか。今日の朝見た時、元気そうでほんとにほっとしたんだから」

 美紅はスマホを取り出し、私たちが一昨日のイベントで演奏している様子が映っている動画を再生した。

 「汀、かっこいいね。楽しそうに弾いてる」

 「そう?」

 「うん。なんだろ、いきいきしてるって感じ」

 「そっか……」

 美紅は私が首にかけているヘッドホンを見た。

 「嘘みたい。汀が音楽を聴いて、弾いても平気なんて」

 「ここ毎日私の練習見てるじゃん」

 「それでも。こんな大勢……まぁ大勢じゃないか。でも結構多いんじゃない? 十人くらい」

 「私たちみたいな組んだばっかの女二人ユニットにしちゃ上等だよ」

 「だよね。ほら、やっぱり始業式の時の衝撃がすごくて」

 斉唱の時のピアノで吐いたあれだ。

 「あの時はほんとご迷惑おかけして……」

 「いいのいいの。まぁほら、そういうとこ見ててさ。汀の部屋にCD一つも無かったりするの知ってるから余計に信じられなくて」

 「……うん。私も信じられない」

 美紅が弁当箱をつつく。今日は私が美紅に作ってきた自信作だ。

 「じゃあ、このまま毎週どこかでライブして七月の豊宗祭りに備えるって感じ?」

 「そのことなんだけどね……」

 八月三十日のコンテストに私たちが出るつもりだということを伝える。

 「続けるんだ、びゃくや」

 「うん」

 「……白峰さん、最近すごい調子が良いらしいの」

 美紅はそう言った後に「あ、一応守秘義務だから、誰にも言っちゃだめだよ」と付け加えた。私がうなずいたのを確認して続ける。

 「今音楽をやっているからかもねって、うちのお父さんが言ってた。妙な発作も異常な数値も出てないから、もしかしたら余命が伸びるかもって」

 「ほんとに?」

 「うん。聞いてないの?」

 私が驚きの声を上げると、美紅は逆に尋ねてきた。

 「全然……まぁ最近病院にも薬を受け取る以外には行ってないとは聞いてるけど……」

 「良い傾向だよ! このまま白峰さんと汀がバンド組んでれば、白峰さんもっともっと元気になるって!」

 「そうかな……」

 「そうだよ! 汀ナイス!」

 美紅は嬉しそうに声を上げた。

 「美紅は優しいね」

 「へ?」

 「そうやって他人のことで喜べるから」

 私がそう言うと、美紅は顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。

 「み、汀だって優しいよ。白峰さんのためにできることやってるもん。私にはできないことを」

 「私は……」

 私は空を見た。フェンスにヘッドホンが当たる音がする。

 「これは優しさなのかな」

 透き通るくらいの青色で虚しいくらい静謐さの中に、私の呟きはいとも容易く吸い込まれていった。


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