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メリッサ、猫を探す。つまり猫を探すということ。

「起きてください、マスター。所定の時刻になりました。つまり今は8時30分00秒だということです。」

「ん、おはようメリッサ、今日も完璧な目覚めをありがとう。」

私はカインズ・ボードウェイ、この街で探偵業を営んでいる。

「おはようございます、マスター。本日のご予約は0件、つまりは無名の探偵事務所ということです。」

「耳が痛いね。どうもありがとう。」

彼女はメリッサ・ボードウェイ、私の養子...ということになっているが、その実は先日何者かから送られてきたアンドロイドである。つまりはAIということだ。

(私まで影響されてどうする...)

私は朝だというのにため息を抑えられなかった。

「どうかなさいましたか?マスター。そのお悩み、私がセクシーに解決して差し上げましょうか?」

そう言って彼女は胸元のボタンに手を伸ばす。

「や、大丈夫。大丈夫だから。」

「承知致しました。マスター。朝食の準備が整っております。」

「では朝食にしようか。」

彼女は少々抜けている所があるが、仕事は完璧にこなしている。あとは事件の一つでも解決出来れば、助手としてはこの上ないと言えるだろう。

「報告です。今朝何かを探しているらしいご婦人が玄関前のチラシを持って行ったのを確認しています。」

「それは都合が良いね。もしかすれば、君に丁度いい依頼が届くかもしれない。準備をしておきなさい、メリッサ。」

「承知致しました。マスター。」

私の予感は程なくして的中することとなる。

「紅茶のおかわりはなさいますか?」

「あぁ、頼むよ。」



昼下がり、朝方メリッサが見掛けたという婦人が事務所を尋ねてきた。

「あの、こちらに探偵事務所があると聞きまして...」

「ええ、こちらがボードウェイ探偵事務所ですよ。本日はどういったご用件で?」

話を進めようと思った時、メリッサがお盆を持ってやって来た。やはり彼女は仕事がはやい。

「こちら、紅茶になります。マスター、依頼主様、私も同席させて頂いて構いませんか?」

「あぁ、構わないよ。構いませんよね?」

「えぇ、構いませんよ。」

二人の承諾を得て、メリッサは私の横に座った。

「改めて、私は三番通りに住んでいるエリー・スーザンヌと申します。私はマリーという猫を飼っているんですが、あの子がもう三日も帰って来ていなくて...」

「それで今朝から探しておられたのですね。」

メリッサが尋ねると、エリーは驚いたような顔をした。まあ当然だろう。

「え、えぇ。中々見付からないものですから、探偵さんのお力を借りようと思いまして。」

「なるほど。メリッサ、出来そうかい?」

「イエス。マスター。エリー様は猫を探していらっしゃる。つまり猫を捜索しているということですね。捜索プロトコルを呼び出し。プロセスを構築します。」

エリーが怪訝そうな表情を見せる。

「心配なさらないでください、エリーさん、彼女はこうやって情報を整理しているんです。」

「は、はぁ...」

尚も怪訝そうな彼女にメリッサが問いかける。

「彼女、マリー様が普段どのように過ごされていたかご存知ですか?」

意表を突かれたのか、少しの沈黙の後エリーが答える。

「私も猫の後をつける程暇ではないから...だけど、そうね、そういえば、息子が五番通りに遊びに行った時に見掛けたとよく言っていたわね。」

「息子さんが五番通りで見掛けた、ということは五番通りに行けば見掛ける可能性が高い、ということですね。マリー様は普段はどういった物を食べていらっしゃるのですか?」

「あの子かにかまが好きなのよ。ただの餌では興味がなさそうなのだけれど、かにかまは缶を開けるだけで寄って来るのよ、よっぽど好きなのね。」

本当にマリーのことが好きなのだろう、マリーの話をするエリーさんは楽しそうだ。

私には五番通りと聞いて思い出すことがあった

「そういえば、五番通りには蟹を扱う店がありましたね。」

「ええ、マスター。五番通りのロブ☆ムーンは甲殻類を主に扱っています。昨晩のエビフライもこの店で買った海老を使っています。」

「じゃあ、マリーちゃんはそこに!」

エリーさんが今にも走り出したそうな様子でメリッサに問う。

「そうと断定は出来ませんが、私にも推論があります。マスター、実地調査フェイズへの移行許可を申請します。」

どうやらメリッサにも見当がついたらしい。

「ああ、構わないよ、メリッサ。私も着いていって構わないかい?」

「勿論です。マスター。」

こうして私たちは、四番通りの事務所を後にした。

メリッサを先頭に、私たちは小さな通りを一本過ぎ、二本過ぎ、三本目の大通り、五番通りにさしかかったが、メリッサに止まる気配はない。

「あの、メリッサさん?五番通りはここではありませんか?」

エリーさんは心配そうだ。

「何か考えがあるのかい?」

私が尋ねると

「勿論です。マスター。私の推論によれば、マリー様はこの先にいらっしゃいます。」

「あの、どういうことでしょう...?」

エリーさんが尋ねる。

「まあ、着いていけば分かりますよ。いなかったら戻れば良いんです。そうでしょう?」

「ま、まあそうですが、私は...」

不満そうなエリーさんにメリッサが自信満々に告げる。

「私に着いてくることが恐らくは最適解、つまり最も早くマリー様に会う方法ということです。」

「わかりました。」

渋々といった様子でエリーさんも歩き始めた。

(一体メリッサは何を考えているのか、私も興味がある、着いてきてよかった。)

そんなことを考えていると、メリッサは六番通りに入っていく。

「五番通りではなく六番通りですか...ここに何かあるのでしょうか?」

エリーさんがメリッサに問いかける。

「この六番通りには、Cフードという、魚を取り扱っている店があります。」

メリッサが前を向いたまま話し始める。

「これは意外と知られていないケースがあるんですが、かにかまの原料はかにではないのです。」

「どういうことでしょうか...?」

エリーさんは首を傾げる。

「なるほど。そういうことかい、メリッサ。」

「そういうことです、マスター。」

私はメリッサの真意を理解した。どうやら彼女は探偵としても一人前と言えそうだ。

「エリーさん、着きましたよ。あの子ではありませんか?」

メリッサが指差す先には、魚屋Cフードの店主の足元に近付く猫が一匹。

「マリー!」

エリーさんが駆け寄って行く。どうやらメリッサの推理は当たっていたらしい。


「マリーちゃんが無事で本当によかったわ。それじゃあ。」

「ご利用頂き誠にありがとうございました。」

完璧なお辞儀でエリーさんを見送った後、メリッサは私の元に報告に来た。

「マスター。猫捜索依頼、終了しました。」

「お疲れ様メリッサ、依頼達成だね。しかし、あれだけの情報からよくあの場所がわかったね。」

「はい、マスター。日々の買い物の成果ですよ。」

満面の笑みである。

「楽しそうだね。」

「はい、マスター。全てのタスクはクールに楽しくセクシーに解決するようプログラムされています。」

「またそれか。まあいいさ、今夜は少し豪華な食卓にしようか。」

「イエス。マスター。」

今日も日が暮れる。次の依頼が届くのは一体いつになるのだろうか。


初めましての方は初めまして。そうでない方は続けてお読み頂きありがとうございます、たそがれとうやです。今回の作品はTwitter上にて拝見したツイートに着想を得て書き上げました。好評でしたら続編も考えております。是非是非評価感想残して頂ければ幸いです。大いに励みになります。では、ご縁がありましたらまたどこかでお会い出来ることを祈っております。

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