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ドナルドは調理場に戻り、ノラもジョンも仕事に戻った。

外に出る訳にも行かないので、そのままジンと向き合う。


「お花や手紙ありがとうございました」


「クレアさんの心に届いていなかったら意味がないけど…」


ふっと笑いながらクレアが出した手紙を胸元から出してきた。


「それは…」


「僕も遊びのつもりじゃなかったけど、すぐに信じてもらうには、これまでの行いがダメすぎた」


「もう1度、チャンスをくれませんか?」


「え?」


さっと手を握られ


「本気でやり直すので、成長した僕に返事をください!!」



──どっどうしよう…!!



オロオロと返事に困るクレアを見て


「今のはずるい言い方でしたね、すみません。…僕が変わって自信がついたらまたあなたの前に来ます。その時は真剣に考えてくれますか?」


「あっ…あの…」


ジンの瞳が真剣でごまかせなかった。


「はい。分かりました」




にこっと笑って、あいつがまた邪魔しに来たらすぐ片付けに来ますから!!と帰って行った。






その後、仕事に戻るにもレオンやヨハンの事が気になって仕方がないので、執務室に近いところで待っていた。

すぐにエドガーが執務室から出てきて、クレアと目が合うとこちらへと呼んでくれた。


「失礼します」


中に入ると奥にレオンが座り、手前のソファにヨハンが小さく座っていた。


「ヨハン…」


居心地悪そうにいるヨハンは呼ばれても少し顔を上げ目を合わせた後下を向いてしまう。


「子爵の嫡男がそんな態度でどうする」


レオンがため息混じりに呆れると

カッと顔が赤くなるヨハンだが、少し間を空けてクレアを見つめる。


「お前…クレアは俺と結婚する気は本当にないか?一緒に帰る事も…」


「ないです」


即答である。申し訳ないと思う事なくヨハンとは無理な話だ。


「…そうか…分かった」


「では、先程の予定通り本日はここから近い宿に泊まって頂いて、明日戻られますか?」


「そうさせてもらう」


「私は宿の手配をして参ります」


エドガーが出て行ってしまったので気まづい雰囲気になるが、クレアがレオンの前まですすみ出て言う。


「お騒がせして申し訳ございません。この責任は私が取らせていただきます」


「その必要はない」


「しかし…」


「この話はこれで終わりだ。もう戻っていい」


…失礼しますと部屋から出るしかなかった。




しばらくしてエドガーが戻り、ヨハンを宿まで案内するためにすぐに出ていった。玄関から出る時ヨハンは振り返ったが、そこにクレアの姿はなかった。








次の日の朝早く、馬車で帰ると言うヨハンを影から見送るつもりでクレアは屋敷を出る。

馬車が宿から出発してクレアの前を通る時軽く頭を下げる。窓から外を見てたヨハンはクレアを見つけるが馬車は止まることなく進んでいるので一瞬の出来事であった。


──まあ一応最後の挨拶みたいでよかったかな。


宿を教えてくれたエドガーに感謝する。



そこからレオンの屋敷には戻らず、小さな自分の荷物を持ってハミルトン家に向かう。

ハミルトン家の門番にベアトリス夫人への手紙を渡し街馬車の乗り場まで急ぐ。


──最後もこんな形で迷惑ばっかりだな…


昨日は全く寝れず、色々考えて、あんな騒ぎをおこしてしまってあのまま何もなかったようにできないと、この家を出た方がいいと結論づけた。

そこからベアトリス夫人と、レオンに手紙を書き、荷物をまとめて準備した。

夜の間にカバンを外に出して置いたので朝普通に出た後持って出るだけだった。屋根裏部屋に手紙を置いてきたので、見つかるまでには時間がかかるだろう。その間に王都を出ればいいと思っている。


馬車の時間には少し時間があったので近くのベンチに座って待つことにした。

何も考えず座っていると泣きそうになってブンブンと頭を振る。


──弱気になっちゃダメ!ダメ!!


ふーと息を吐きパンと自分の頬を両手で軽く叩く。その時、お嬢さんと声をかけられ顔をあげると…


「ああ!やっぱりあの時の方です!」


「??」


どこかで見たことある?と記憶を遡っていると


「助けていただいたお礼がしたいと我が主が探しておりました。ぜひ屋敷に来てください」


ああ!あの時倒れそうになっていた貴族様の従者さんだと思い出した。


「当たり前の事をしただけなので気にしないでとお伝えください」


「いえ、あの時もお引き留めしなかった事を叱られましたので、今日はぜひ」


「あの私この後馬車で…」


「我が屋敷に来ていただいた後お送りします!!」


全然引いてくれないどうしようと、どう断ろうかと迷っていると、さらに近づいて来る人が見えた。


「失礼、こちらはハミルトン家ゆかりの方です。用はこちらで聞きます」




公爵家の執事はその場でやり取りし、この後の予定まで取り付け、有無を言わせずクレアをハミルトン家まで連れてきた。


──さすが公爵家執事!とか感心してる場合じゃないわね…


応接室で待っているとベアトリス夫人が入ってくる。


「クレア、この手紙1枚でいなくなるとか無責任じゃなくて?」


「申し訳ございません。しかし…」


「母としても悲しいわ」


「…本当にすみません」





「事情は分かったわ。ヘレフォード子爵には私から連絡しておくわね。ご子息とは幼なじみだったの?レオンにも連絡するわよ。あの子が辞めろって言ったのかしら?」


「いえ!ご主人様は何も…私が勝手に出てきたんです」


「そう、それはまあいいんだけど、問題は…」


何か他にあったかな?とクレアが考えていると


「さっきあなたが話していたのはリットン伯爵家の使用人なのよ」


クレアは聞いた事ない伯爵家だが、何かある家なのか…


「あなたのお母さん……グレースに関係ある家なのよね…」


ベアトリスはうーんと困ったように考え込む。


「あちらはそれには気づいてないと思うけど…でもね…私ひとつクレアに謝らないといけない事があるの」


執事がやれやれと言う顔で夫人を見ている。


「あなたが来たのが嬉しすぎて、お茶会で喋っちゃったのよね。グレースの娘が私の娘になったって」


本当に仲のいい人にしか言ってないけどと慌ててる夫人はなんだか可愛い。

娘にはなっていないけど、それが何か問題になるのか、クレアには分からなかった。


「今回クレアが関わったのは末席のご子息だから大丈夫だとは思うけど…ね」


後日リットン伯爵家へ行くことは約束してしまったので、行く時はハミルトン家執事であるリーフェンが一緒に行くことになった。


「さあお茶を用意するから私に付き合ってね」


私今そんな呑気にしてる場合では…と断れるはずもなく夫人のおもちゃになっていると、リーフェンが呼びにきた。

呼ばれた部屋に行くとエドガーがいた。


「エドガーさん…」


「ご主人様がお待ちです。帰りましょうか」


顔は笑ってるが声が怖い…。


「エドガー、私の娘にそんな怖い顔をしないで。私からも叱っておいたからレオンに言っといてね」


「かしこまりました」


ベアトリスにお礼と挨拶をし、そのまま馬車に案内されレオンの屋敷に戻ることになった。


「あっあのエドガーさん」


「とりあえず帰ってからです」


やっぱり怖い…はぁと小さくため息を吐くクレアだった。

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