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「アーサー王子ようこそ。イザベラ王女も来て頂きありがとうございます」
「やあアントニー」
アーサーとアントニーは同じ歳で学友である。今回友は人として招待した。マリー王子妃は今身重の為、末の王女が代わりに今ここにいる。
16歳になったばかりのイザベラは金色の長い髪は見事にカールをかかり、勝気な顔立ちをしている。公爵家一族を一瞥し、レオンの前にくる。
「この方がお相手なの?」
「イザベラ様お久しぶりです。こちらが私の結婚相手でクレアと申します」
「はじめまして。王女様にお会い出来て光栄で…」
「ふーん。この人がねー、ふーん」
クレアの言葉は聞いてない感じではあるが頭の先から足先まで隈無く見られる。
──なに?なんだか視線が怖い…
「ふーん」
レオンがふっと笑いクレアの耳元で囁く。
「クレア気に入られたぞ」
「え?」
ハミルトン公爵が招待客に向け挨拶をし音楽が奏でられて夜会はスタートする。
それぞれダンスをするためペアになってホール中央に集まり出す。
ベアトリスがクレアの側によってきて
「さあお披露目しないと!行ってらっしゃいクレア」
「ベアトリス様…皆様素晴らしいので私が踊らなくても…」
ここに来てもまだ避けれるものなら避けようと最後の藁をつかみに行ったが…ベアトリスの笑顔に逆らえなかった。
「クレア行こう。私もそんなに得意ではないから失敗は全部私のせいにすればいい」
「レオン様それでは失敗するのが前提ですよね?」
「いやそうではないが…」
「ちょっと誰が教えたと思ってる?自信もって行ってきて」
さあと押し出されレオンとクレアは踊り始める。レオンのリードもあるがウォルターの特訓のおかげか、なんとか足は踏まずに踊れている。
「クレア大丈夫だ」
「レオン様今話す余裕私ないです!」
クレアが必死に自分に合わせて踊っているのはとても可愛く、自然と笑顔になっていた。
「珍しい。レオンが笑ってる」
アントニーがびっくりしてエリザベッタを呼び見せている。
「クレアがいるとレオンも表情出るからね」
ウォルターも見ながら笑っていた。
1曲踊りきり戻ってきた所で、ベアトリスがクレアを呼びに来た。
「レオン少しクレア借りるわよ」
「母上どちらに…」
聞くより早くクレアの手を引いてひとつのテーブルまで連れていく。
そこにはベアトリスと同じ歳くらいの夫人が5人座っていて皆クレアを見ていた。
「紹介するわ。娘のクレアよ」
ベアトリスが誇らしげに紹介するので慌ててドレスの端を少し持ち上げ挨拶をする。
「はじめまして。クレア・ブランドンと申します」
「もうハミルトンになるけどね」
「ベアトリス、良かったわね。途中どうなるかと思ったけど概ね計画通りかしら」
「クレアさん私たちが今後なにかあれば力になるわ」
「よろしくね」
「夫人会のメンバーなのよ。アーバス公爵夫人、ケント公爵夫人、ランカスター伯爵夫人、シーモア侯爵夫人、ラッセル男爵夫人よ」
「よろしくお願いいたします」
すごいメンバーを紹介されどうしようかと思っていると
「ベアトリスがずっと気にしていたの。結婚決めてくれて私たちも嬉しいわ。今後もよろしくね」
「はい」
──ベアトリス様の人脈ってすごいわ。ベアトリス様がすごいのね
先程のリットン伯爵との繋がりも大切だが、この強力な夫人会メンバーが後ろについているとなると誰もクレアに手は出せない。ベアトリスが用意した包囲網はこれで完成する。
しばらく夫人会の皆さんと話をしていたら
「よろしいかしら?」
とイザベラがその中に入ってきた。
「イザベラ王女様こちらの席に…」
「結構よ。クレアさん?少しお話いいかしら?」
「はい」
「ではあちらにお席を用意します」
ベアトリスが急いでメイドたちに用意をさせる。ついでレオンをすぐに駆けつけれる位置に呼び寄せる。
「私、レオン様と婚約すると思ってましたの」
いきなりの核心にクレアはドキっとする。やはり当初はクレアではなく王女との婚約をベアトリスは考えていたのだと。どうしようと思っていると
「あっ安心なさって。私レオン様が好きとかはありませんので。ご結婚は祝福してよ」
「え?」
拍子抜けするほどはっきりと答えたイザベラはフーと息を吐き
「私結婚は政略的なものだと思ってましたわ。レオン様とクレアさんは違うのでしょ?」
「…はいそうですね」
「どうやってそうなったのか詳しく教えてくださらない?」
目をキラキラさせながらクレアを下から見上げ手を組んでお願いされた。
「えっと私は普通とは違うと思いますが…」
「もしかして小説のように事件でもあったのかしら?」
「事件と言うか…私はレオン様の屋敷でメイドとして…」
「キャー主人とメイドの禁断の恋なのね!それで?」
「いえそんな劇的なことではないですが…」
「劇的なことがなくてどうやって結婚まで?あーきっと色々あるのよね!」
イザベラはふふっと笑って
「いいですわね。私はそうはいかないでしょうから好きな方と結ばれるとか憧れますの」
「王女様…」
「今日はこれ以上クレアさんを独り占めはできないみたいだからまた話聞かせてもらえるかしら?」
イザベラは扇でクレアの後ろを指すので振り返るとレオンがソワソワしてこちらを伺っていた。イザベラがレオンを呼んでとメイドに伝えるとレオンはすぐに寄って来た。
「レオン様、クレアさんをお借りしてごめんなさいね。そんな怖い顔しないでくださいな」
「いやそんなことは…」
「そうだ!結婚後働く気はあります?私専属で王宮に仕えて…」
「申し訳ございませんがそれはお断りします!」
レオンが物凄い勢いで断るが、イザベラは引かず
「私本気なのでその気になったらいつでも来てね」
イザベラは笑って2人の前から去っていった。
「レオン様…王女様に良かったのですか?」
「クレアが王宮で働くとか…心配だから…その…」
顔を背けてボソッと言うレオンの顔を覗き込んでクレアは笑う。




