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馬車に揺られていると


「先に寄りたい所があるんだ。一緒に来てもらえるかな?」


マシューがいつもりより真剣な顔で2人に言う。


「クレアは行きたくないかもしれないけど…」


どこに行くのかだいたい想像できたが敢えて聞いた。


「何処に行くのですか?」


「リットン伯爵の屋敷だよ」


「それって…お爺様って事?」


そうだよと笑ってマシューはしばらく黙った。

クレアは父親と2人で訪ねてから交流はなかったが、マシューは手紙でのやり取りをしていた。

弟のレスターが息子を殺そうとしていた事などもあり、すっかり弱られたらしい。


「君たちは会っておくべきだと思う」


そう父親に言われたら嫌とは言えず、馬車はリットン伯爵家を目指した。





既に連絡をしていたのか、門では執事が待っていて馬車から降りるとすぐに案内してくれた。


応接間で待っているとまずヘンリーが従者に支えられながら歩いてきた。


「こんな格好ですまない」


「ヘンリー殿、無理はいけません。こちらから部屋まで行きますのに…」


「いえ、大丈夫ですよ」


笑顔で答えているが、前より痩せているとクレアには見えたが以前より生気は増してる気がする。


「クレア…叔父が失礼な事を…すまなかった」


「いえ、ヘンリー様に謝っていただく事ではありません」


「ありがとう、叔父も可哀想な人だったね、ニコルもね…君がルイスかな」


クレアの横で座っているルイスと目を合わせ微笑むヘンリー。


「はい。ルイス・ブランドンと申します」


「ああ、こうしてグレース姉様を思い出させてくれて嬉しいよ。会えてよかった」


トントンと音がしてアドルフが杖をつき執事に支えられて入ってきた。以前の面影はどこに?と思うほど小さく歳をとった感じになっていた。


「父上、マシュー殿たちですよ。会いたいと仰ってましたよね」


「おお…顔をよく見せてくれ…」


マシューが2人の背中を押しアドルフの前まで行く。クレアがしゃがみこんでアドルフの顔を見る。


「…お爺様お加減いかがですか?」


クレアの顔を見て震える手を差し出した。クレアが手を握ると


「すまなかった…私は大事にするものを間違えておったな…」


クレアの顔を見て言った後横にいるルイスを見た。


「お前がルイスか…立派な顔をしておる」


「はじめまして。家族にした仕打ちは忘れないけどもう流してあげるよ。お爺様」


「ルイス!」


「構わんよ…そこまで言えるとは先が楽しみだな」


出してくれたお茶を飲みながら少し話をしたが、ヘンリーに負担になってはと早めに切り上げる事にした。


「クレア、結婚するんだってね。おめでとう。招待頂いたけどこの状態なのですぐ返事できずすまない」


「ヘンリー様私のために無理はしないでください」


「結婚!!私は聞いてないぞ、相手は誰だ」


アドルフが叫ぶが


「何度も言いましたよ。ハミルトン公爵家のご子息とですよ」


「ハミルトン公爵か…まあそれなら…」


「すみません、この頃何度言っても忘れる事か多くなって…」


「構いません。お二人ともお身体大事にしてください」


とマシューが代表して挨拶をし、リットン伯爵家を後にした。

馬車の中でルイスは


「思ってたのと違うけど…色々あったから?」


「そうだね…伯爵自身考えることもあったんじゃないかな」


ふーんともう興味がなさそうにルイスは

窓の外を見ていた。


「何か見たい物ある?」


空気を変えようとクレアが尋ねると


「お土産買いたいな。今1人で頑張ってるリサに」


「そうね。じゃあまず雑貨屋さんかな」


街の中心で下ろしてもらい馬車は後で来てもらうことにした。雑貨屋でリサへのお土産を物色してる時、ふと今もつけてるレオンからもらった髪飾りを触る。


──レオン様もこんなお店で選んでくれたのかしら…


大きな身体で普段買わないようなお店に入り選んでる姿を想像して思わず口元が緩む。


「お姉様何笑ってるの?ちゃんと選んでよ」


「ごめんね。リサは何が好きかな」


最終的に可愛い置物とブローチを買って渡すことにした。いい買い物できてよかったと店を出たら、そこには見知った顔が待っていた。


「ジン様、今日はお休みですか?」


「急にすみません。クレアさん今少し話出来ますか?」


ルイスがクレアの前に立ちジンをにらむ。そのルイスをマシューに押し付けるとブツブツ文句を言っていたが諦めたのでカフェで待ってもらうことにした。


「すみませんジン様お待たせしました」


「こちらこそすみません。公爵家で街にいらっしゃると聞いて…」


ジンは下を向いてなかなか話初めなかったが、顔を上げクレアと目を合わせる。


「もう、時間もなく今日くらいしかないと思うので…レオン副団長とご結婚されるのは本当ですか?」


「え?あっ…はい」


「…僕が今から入り込む隙間はないでしょうか?」


「え?」


「クレアさんが好きです。もし副団長との結婚が嫌とかでしたら…」


「申し訳ございません。私がジン様のお心にお答えするのは…無理です」


「…どうしても…ですよね?」


「はい」





「あーやっぱりね」


ジンは両手で顔を覆い上を向いた。そしてそのまま髪の毛をとかすように手を通し元に戻った。


「おめでとうございます。あーでも悔しいな。僕の方が先だったのに」


「ジン様…」


「嫌な事あれば言ってくださいね。すぐ駆けつけますから」


少しおどけた言い方をするジンにどうしようと思っていると、にこっと微笑んでルイスが手をだしてきた。


「そんな顔しないでください。今の僕がいるのはクレアさんのおかげです。本当に…幸せになってくださいね」


「はい。ありがとうございます」


ジンと握手をしてクレアは答えた。ではと1番の笑顔を見せてジンは去っていった。カフェのテラス席で何となく見てたルイスは、またかと姉を眺め、頬杖をつきながら息を吐く。

クレアも合流してそのままランチを食べ迎えに来た馬車に乗って公爵家まで戻った。



「あらもう戻ったの?」


「はい」


──あれ以上ウロウロすると余計な買い物しちゃうし


「じゃあ時間余ったのね。クレアちょっといい?」


ベアトリスがにこっと笑い、嫌な予感…と思ったらメイドがズラっと並び有無を言わさず連れて行かれる。

ルイスとマシューはあまりの早業にびっくりするが、行ってらっしゃいと手を振っていた。ベアトリスにここからは内緒と言われ部屋に追いやられた。

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