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王宮の地下牢にレスターとニコルは入れられていた。レスターは喚きちらすだけで自分のやった事を正当化し何一つ認めずにいたが、一緒に捕まった執事が全部話していた為極刑は免れない。

止めたくても止められず、ここまで主人を暴走させた罪は一緒に受けると言っている。ヘンリーへの毒も命令され自分が用意したが、まさか主人が娘にその役目をさせるとは思っておらず、娘まで巻き込んだ事にかなり悩んだが、もう戻ることは出来なかったと。

ニコルはクレア誘拐も合意のうえだったと言い、あのまま結婚する予定だったと罰せられる事は何ひとつないと言い張っている。

レオンが王宮につきその旨報告を受けてからニコルの牢へ向かう。

ニコルは膝を抱え座っていたが、足音がして顔をあげレオンだと認識すると顔を歪め睨みつける。


「合意など有り得ない。さっさと罪を認めろ」


「…有り得ない?何故?クレアは私を選んでくれた。お前じゃない」


くくくっと笑いふらっと立ち上がりレオンに近づく。


「クレアは私を選んだんだ!ざまあみろ!公爵家だとしてもどうしようもないな」


「…では何故クレアの意識を奪う?」


ニコルは答えない。


「産まれは公爵家だとしても今私がいるのは、自分で選んだ騎士団だ…何故お前は自分で選ばなかった?」


「!!」


「父親が嫌なら自分で道を選べは良かっただけだ。それもせず…爵位に執着したのはお前自身だ」


「そんなお前をクレアが選ぶはずがない!!」


子爵令嬢という立場を捨てメイドになり家族を助けようと自ら動いたクレアが、自分を悲劇の主人公のように嘆くだけの男を選ぶはずがない。レオンは強くそう思う。


「道すら選べない立場もあるとは思わないか?やはりお前は恵まれているな…私はクレアを選んだ!だからクレアも私を選んでくれたのだ…」


ブツブツと1人で何かを呟きレオンに背を向けたニコルは膝から崩れ座り込み肩を震わせていた。その姿を見てレオンは何も言わずその場から離れた。


騎士団詰所には朝から動いたメンバーが揃っていた。団長は最後の報告書を書き終え、疲れたと言って仮眠室で寝てしまった。続きの処理をし始めたレオンに


「副団長はクレアさんが好きなんですか?」


直球で聞いたのは少し神妙な顔をしたジンだった。先程の騒ぎでクレアを抱いていたレオンに違和感を感じ聞かずにはいれなくなっていた。レオンは手を止め顔をあげ、ジンを真っ直ぐに見る。しばらく腕を組み考えて


「…違うな」


ぱあとジンの顔が明るくなる。


「やっぱり違いましたか!よかった僕副団長にはさすがに勝てないし」

「そのような軽いものでは無い」


「は?」


「俺には勝てないならもう諦めて近づくな」


「え?何それ。ずるくないですか!!いやそんなの無理だし」


「なんだと」


「こっ…これに関しては上下関係なしですよね?まだ答えもらってないし!!」


ジンは言うだけ言ったら出ていった。クレアはしばらく公爵家にいるだろうから、ジンには手出しできない…レオンはそう考え今は無視することにした。


ある程度事後処理をして、王宮内執務室に書類など持って行くと父親が残っていた。簡単に報告をすませ、一緒に公爵家まで戻ることにした。





馬車が公爵家につき降りた時、見覚えのない馬がいたので嫌な予感がしていた。急ぎクレアが寝ている部屋まで行くとベアトリスとウォルターがいた。


「レオン戻ったのね」

「よう!久しぶり」


「…クレアはまだ目が覚めませんか?」


部屋に入っていき、少しでも近い所まで進む。


「お医者様は短時間の間に何回も薬をかがされたからとは言ってたけど…」


「レオンの家からだったんだよね?どうゆう事?警備してなかったの?」


「それは…」


「だから俺の屋敷においでって言ってたのに。うちに来てたらこんな怖い目に合わなくてすんだのに」


「ウォルターそれ以上言うなら俺もキレるぞ」

「お兄様つけろよ」

「なんだと」


1歳しか違わないこの兄弟は些細な事でよく揉める。しかし今はベアトリスが扇で2人の肩を叩き止める。


「今じゃなくていいでしょ!」


「「 !! 」」


「今日はこのまま俺がついてるから」


レオンが言う。ベアトリスが分かったわとウォルターと共に出て行く。レオンの横を通る時小声で


「着替えさせたメイドがどこにも傷などなかったと言っていたわ。乱暴はされてないわよ安心なさい」


レオンは一瞬目を見開いたが、母の背中を少し見てから向きをかえ、クレアの側に座り顔を見る。ニコルが花嫁と言っていたので気になっていないといえば嘘になるが、生きて今自分の目の前にいる。ただそれだけで幸せだった。


部屋の扉を閉めた後ウォルターは母親に尋ねる。


「あれってそうゆう事?」


「そうね…計画ではあなたとだったんだけどね」


「俺も候補入ってたの?そりゃ嬉しいな」


「クレアの気持ちが1番優先よ」


2人で部屋の前から歩き出す。お茶でも飲もうと応接間に移動して座っているとドミニクも入ってきて一緒にお茶を飲む。


「レオンは?」


「クレアの側にいます」


そうかとそれは特に問題にしてないが今回の件について少し説明し始めた。


「今回はレスターの暴走だ。斬首は免れんな。大元はリットン家の爵位相続からの話だが…ニコルはある意味被害者だったはずなんだかな」


「だからと言ってクレアを誘拐するのは間違ってるわ」


「同情は出来ないね」


「親子ともに刑が確定するのはまだ先だ。その間に何か変わってくれればいいがな」


3人はそれぞれ思いながらお茶を飲んだ。










「…」


怠さで身体は動かせなかったが、目は開ける事ができた。


「うっ…」


吐き気も襲ってきて思わず声が出る。


──なにこれ…気持ち悪い…


「クレア…?」


名前を呼ばれるがそちらに向くことが出来ない。1番聞きたかった人の声なのに、まだ夢の中なのだろうか、自然と涙が出てくる。

顔が見たいな…と思っているといきなり視界いっぱいレオンの顔になる。


──あー夢の中だと思い通りになるのね…


苦しさに顔は歪むがその顔を見て思わず呟く。


「レオン様…会いたかった…」


そのまままた意識を手放す。


「クレア!クレア」


レオンが声をかけても反応はない。だが目を開けてくれた。自分を見た嬉しさに目から涙が出る。まさか自分が泣くとは思わず急いで拭うがなおも涙は溢れる。

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