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父親が爵位と言うものに執着していたのは小さい頃からわかっていた。
何かある度本来継ぐのは自分であり、その後はニコルなんだとずっと言われて育ってきた。
母はそんな父に何も言えず我慢に我慢を重ねてニコルが6歳の時に病死した。
ニコル自身爵位に興味もなく、アドルフやヘンリーにも特別な感情はなくただ静かに暮らしたかった。
しばらくは動きもなく平和だったが、いつ頃からかヘンリーが病気になり父親が何か動いてるのは勘づいていた。ある日家に見知らぬ馬がいて不思議に思いながら家の中に入ると
フードを被った見たことない女が父親から何かを受け取っていた。
帰る時自分に顔を見られないようにコソコソしてるのが気になり父親に問いただす。
「あれは今ヘンリーについてるメイドだ」
「食事の世話をしているだけだ」
「ヘンリーがどんな様子なのか報告に来ただけ」
父親はペラペラと話をするが…何故ヘンリーのメイドが…?父に報告?と疑問が膨らんだ時
「ヘンリーの食事に毒を少しずつ入れさせている。やっと効き出してきたわ」
「毒?」
「ほんの少量だが長く摂れば身体に蓄積される。くくくっあれはもう長くはもたない」
「もうじき全ては私の物になるのだ。よろこべニコル」
狂気の父親に恐怖を感じ家を飛び出した。従者が馬車を用意しますと言っていたがそれを待たずフラフラと歩き出した。
おのれの欲望の為に人を殺そうとしてる父親を許せず、でも何もできない自分にも嫌気がさし、いっそこのまま死のうと。
自分がいれば父親の欲望はさらに強くなっていくのは目に見えていた。
駒にされるのは嫌だった。本当にこのまま…
「その時クレアさんに助けてもらった」
あのフラフラ歩いていた時にそんな事になっていたとは、当時を思い出し少し怖くなる。
「あんな状態で歩いていても、誰も声もかけてくれず、自分の存在はもういらないんだと死ぬしかないと…」
「だからあの時本当にクレアさんが天使に見えた。私を助けてくれるのだと」
椅子に座って前屈みになり顔は見えなかったが泣いているのかと思った。
「だから私はあのハンカチからあなたを探そうとしたんです。決して今回の騒動に巻き込む為ではなかった」
ハンカチの紋章がブランドン家のものだと分かり、グレースが関係していると分かった時は運命だと思ったと。王都に働きに出たことまでは突き止めて街中探し回って見つけた時の喜びと絶望を。
「ハミルトン公爵家なんて相手にできない…私は何も持っていない」
「ニコル様…?」
段々と声が変わるのを感じる。
「私はクレアに会うにも手続きが必要で?それも取り次いでもらえず…ただ公爵家に産まれたと言うだけで、あいつはいつもクレアの隣りにいる。当然のように手を取り、当然のように一緒に馬車に乗り、当然のように笑いかけられ…それがどれだけ腹立たしく許せないかクレアに分かるかい…」
ふらっと椅子から立ち上がりクレアの元にやってくる。
「ニコル様!!…」
クレアの持ってたペンを払い除け、両手を片手で掴み抑え込む。もう片方の手でクレアの頬を包み込み
「私とあいつの違いなんてないだろ?」
近づいてくる顔を必死によけ
「全然違います!!ご主人様は…レオン様は…」
「あいつの名前なんか呼ぶな!!」
「私はレオン様をお慕いしております!」
クレアは涙を溜めたひとみで睨みつける。
ニコルの顔が歪み掴んでた手を乱暴に離す。クレアに背中を見せ震える声で絞り出す。
「クレア…君を帰す訳には行かないんだ。このままここで私の側にいてもらうから」
バンっと扉を開けて部屋を出て行った。外からも鍵をかけれるようで完璧に閉じ込められた。
ベッドの隅で膝を抱えうずくまり溢れてくる涙を止めることができない。
「レオン…様…」
目を閉じ顔を思い出すも、どうしようもない不安からからその顔が滲んでしまう。




