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街中まで来ると馬車からおりベアトリスが向かったのは帽子屋。

前のドレスと合わせるためにズラッと並んだ帽子から何個か選びクレアに試着させる。

思いのほか選ぶのに時間がかかったが数点購入した。

その後手芸店に行きベアトリスが色々物色している。クレアは全くできないのでレオンと一緒に馬車の中で待つことになった。

2人きりになると落ち着かずずっと顔を背けていた。


「昨日は本当にいきなりすまなかった」


「え?」


真正面に座っていたので顔をあげるとレオンの顔がはっきりと見える。


「結局何も力になれず、帰って来るのを待つしかない状態で…」


苦しそうな表情で両手を握りしめ


「帰ってこなかったらと最悪な事を考えると怖かった」


「あっ…」


「帰って来てくれてありがとう」


顔をあげ真っ直ぐクレアを見て微笑んだ後、目を閉じ額の前で祈るようにクレアの手を取る。


「本当によかった…」


「ご主人様」


しばらくそのままだったがベアトリスが戻ってくる様子だったのでレオンが手を離す。


「あらクレア暑い?顔が赤いわよ」


「大丈夫です!!」




──どうしよう…嬉しいとか思ってしまった。


クレアは両手をパタパタと動かして火照りを無くそうとするもすぐには引かず顔を押さえる。




「お昼でも食べに行きましょう!」


馬車が動き出してベアトリスが指定した店まで向かう。テラスもあるレストランで、天気も良かったのでそちらの席を頼んだ。

3人で楽しく食べてる途中、レオンがふと通りに目を向ける。


「どうかしたの?レオン」


「…いえ」


ピリッとレオンの周りに緊張が走るが、2人に気づかれないように普通に振る舞う。

食後のお茶を飲んでくつろいでいると


「今日はそろそろ帰りましょう」


「えーまだ寄りたい店あるんだけど?」


「またいつでも行けますから」


とレオンがさっさと用意を始める。ベアトリスには乗ってきた馬車を案内し、レオンとクレアは別で呼んだ馬車に別れて帰ることになった。


「クレアまたね!」


先にベアトリスが出発するのを見送る。レオンがクレアを隠すように馬車までエスコートして先に乗せる。入口に手をかけ先程目を向けた方向を睨みつけ静かに乗り込む。そしてクレアの横の窓はカーテンを閉めた。


「ご主人様?」


「気にするな。帰ろう」


馬車がゆっくりと走り出す。レオンがさらに緊張を身にまとい1人の前を通り過ぎていく。






「何故…横にいるのが私じゃないのか…」


「クレア…」


愛しい人の名前を口にすればするほど遠くなっていく感覚に落ち込みながら、反対にレオンへの憎しみは増していく。


ニコルは向きをかえ、暗くなってる路地へ入っていく。




◇◆◇



屋敷まで戻ってきて、クレアはやってしまったと後悔する。


──また着替えず帰ってきてしまったわ…


玄関を開けて中に入るとちょうどドナルドとノラが喋っていた。


「おーすごいな。どこかのお嬢様みたいだ」


「クレア可愛いわ!着替えるのもったいないわよ」


「いえこれでは何もできないから…」


すぐに着替えるつもりでいたら


「そのまま執務室まで来てくれ」


とレオンに言われる。ドナルドとノラが何か言い合っていたが無視して階段を登る。





執務室に入ると座るように促されソファーに座る。レオンは机から小さな袋を出して来て、クレアの前に置いた。


「視察の時に土産として買ってたんだが…」


「開けてもよろしいですか?」


ああと言われそっと袋を開け中を取り出すと髪飾りが入っていた。


「…使ってくれたら嬉しい」


「ありがとうございます。大事にします」


綻んだ笑顔をするクレアをレオンは眩しそうに眺めている。





予定より早く戻ってきたので、いつも通り仕事をはじめる。もちろん着替えた。

夕食を作るには早かったので庭の掃除をジョンと一緒にすることにした。


「クレアさんはそちらからここまでお願いします」


「よーし。どっちが早いか競走ね」


ジョンと楽しみながら掃除をはじめる。



レオンはエドガーを執務室に呼び、今後の事を話していた。


「ケガももう問題ないし、明日は王宮に行く予定だ」


「かしこまりました」


「団長とも話して護衛の件も相談してくる」


「はい。もう大丈夫ですか?」


「大きな問題はないと思うが…それとこれを…」


書類をエドガーに渡し通常業務に戻っていく。




ドナルドは夕食の準備を始め、野菜を洗いはじめる。


護衛もちょうど入れ替えの時で引き継ぎをしている。



ノラが仕事を終えて玄関から出てきた。


「ノラさんまた明日お疲れ様です」


「また明日ね!詳しく色々聞くわよ~」


あははと笑って見送る。


「僕ゴミ捨ててくる」


ジョンがゴミを集め奥の焼却炉に持って行こうと屋敷の入口に向きを変えた。







一瞬だった。











誰もがほんの少し油断したその間にクレアが消えた。





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