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朝起きていつものように調理場へ行く。
おはようございますと中に入り、朝食の準備にとりかかる。スープを作り卵を割っているとドナルドが入ってきた。
「おはよう。早いなクレア」
「おはようございます。卵お願いしてもいいですか?」
「今日出かけるとか聞いてたけどいいのか?」
「出かけるからこそ普段通りにしたいんです」
笑いながら洗濯場に移動する。いつも以上に丁寧に洗い、ひとつひとつしっかりと伸ばして干していく。まだ早いのでノラは来ていない。
──挨拶しときたかったな…
さすがに掃除する時間はなかった。モップを持っているとエドガーが呼びに来た。
「なぜ今日も掃除してるんですか?あなたは…」
「ちょっと父親と出かけるってだけですよ?何か特別な日でもないですし」
「で、そのままで行くんですか?」
「はい。これが私ですから」
父親が待っているホールまで歩いて行くとジョンが花束を持って立っていた。
「頼まれてたこれ…本当に庭の花でよかったの?」
「うんありがとう」
花束を受け取って玄関へ行くとレオンがマシューと話をしていた。顔を向けクレアと目が合うと優しく微笑む。そして自ら扉を開けてくれた。
「行ってきます」
「…ああ」
会えなくなる訳では無い。ちょっと出かけて帰ってくるだけだ。クレアは笑顔で外に出る。
父親と馬車に乗り込み出発する。後ろを騎士2人がついていく。
見送った後エドガーはレオンの顔を見る。
「大丈夫ですか?」
無言で屋敷の中に入り、執務室に1人早足で向かった。その後誰が呼びに行っても中から返事はなかった。
◇◆◇
アドルフ・リットン、母グレースの父親なので
クレアの祖父にあたる。幼少期にグレースがおかしたたった1つの失敗を許さず、マシューの元に嫁ぐまで娘として扱わず冷遇していた。
アドルフ自身愛人の子供だったので、爵位や身分には執着した。
弟のレスターが15歳離れて夫人から生まれた時は自分が爵位を継げるよう画策し今の地位を確立した。
息子のヘンリーが病に倒れて焦りだした。このままでは勝ち取った爵位がレスターに奪われる。何か何か策はないかと考えた時切り捨てた娘グレースのことを思い出す。
確か子供がいたはずだ!息子がダメなら娘を引き取り婿を取らせれば…自身の血族が生き残る!!急ぎマシューに手紙を送った。
「お父様…今回リットン伯爵様から何を言われるか分かってるんですか?」
「…クレアはいるだけでいいよ。お父さんに任せてくれればね」
いつも通りの頼りない笑顔だった。
馬車はリットン伯爵家につく。先にマシューが降りクレアに手を伸ばし馬車から降ろす。
すぐさま執事らしき人が出てきて2人は屋敷中に案内される。護衛はここまでと止められてしまった。重々しい雰囲気の屋敷でクレアは足が重くなる。
応接間に通され待たされる。ソファーに座って待っていると、伯爵が入ってきた。
「よく来てくれた。ブランドン子爵とクレアか」
クレアを見たアドルフは少し見開き驚く。
「グレースによく似ているな」
執事がお茶を入れて持ってきたので少し緊張が緩んだがすぐに本題に入ってしまった。
「手紙にも書いたがこのまま預からせてもらって構わないな。部屋は用意してある。その後は…」
「お待ち頂けますか?」
マシューがゆっくりと話し始める。
「こちらの返事に書かせてもらった条件は守って頂けるのでしょうか」
「は?ああ、グレースにしたことを悔い改めて謝れとか書いてあったな」
「はい」
「はっ今更だろ、既にいない者に何をしろと」
アドルフは歪んだ顔で笑う。
「そうですか…ではヘンリー殿がいなくなって爵位も無くせばよろしい。こんなところに大事な娘を預けるなんてできない」
「なんだと」
マシューが強く、はっきりと睨みながら言い放つ。クレアに立つように促し外に出ようとする。
「まっ…待て!」
アドルフがクレアの手を掴もうとするが、マシューが手を払う。
「グレースは亡くなる時でも両親の事、弟の事を悪く言わなかった。自分が悪かったのだと。それなのに…」
マシューがアドルフの首元の服をつかみ締め上げる。
「お父様!おやめください!!」
「歳を重ねても何も変わらないな!」
「お父様!!」
クレアがマシューの手を離そうとするがすごい力で全く動かない。
──どうしよう…お父様やめて!!




