19
エドガーが部屋に入ってくる。
「大丈夫ですか?熱はもうないようですね」
「ああ、すまん」
「少し報告してもよろしいですか?」
「大丈夫だ」
レオンが眠りについた後、公爵家に向かうつもりだったがクレアがレオンが目覚めるまでは待って欲しいと願い出て出発を遅らせた。王宮を出る時に公爵家にも使いを出していた為、屋敷にリーフェンが来て、レオンがケガして動けないとなると屋敷の仕事も増えるだろうと、すぐに代わりの使用人も無理なのでクレアはしばらくそのままと言うことになった。
「公爵家から護衛として何人かよこしてくれるそうです」
「分かった」
「よかったですね」
「ああそう……は?」
エドガーがニヤと笑いながら部屋を出て行った。
◇◆◇
「利き腕ケガしてるなら片手で食べやすい方がいいか?」
「そうですね…それかエドガーさんが食べさせてあげるとか」
「そうですね…じゃないでしょ。嫌ですよ!って言うかその場合私じゃなくてクレアさんでしょ」
「わっ私は無理です!絶対無理です!!」
──そんなの恥ずかしすぎる!!
「ってことで僕が持ってきました」
ジョンが押し付けられた仕事に納得いってない顔をして食事をレオンに届けた。
「僕が…食べさせ」
「大丈夫だ!!利き手じゃなくても食べることぐらいできる」
変な気遣いは無用だとジョンに伝え、さがらせる。利き手も折れている訳ではない。打撲と軽い切傷で全く使えない訳ではないので、食事くらいは自分でできる。
ふーと息を吐き今後の事を考える。
護衛がつくとはいえ公爵家と比べるとここは安全な場所とは言えない。
──状況が悪化すればここではまずいな
逆に言えば悪化するまではここにいても大丈夫なのでは?それなら本人の希望にも添えると。後は母を説得出来ればと考えていると扉をノックする音がする。
「失礼します。飲み物を持ってまいりました」
クレアがお茶を入れて持ってきた。食事のトレイを片付け代わりにティーカップをサイドテーブルに置く。
「何かご要望ありますか?お食事1人で大丈夫だったんですね」
食べ終わった食器を見ながら少し照れたように笑うので
「では、お茶は飲ませてくれないか?」
と食事に関してみなに遊ばれたように感じていたので、嫌味っぽく言ったら…
目の前のクレアがみるみる赤くなり
「ごっ…ご命令なら…」
と下を向く。レオンも自分が言った意味を考え固まり
「冗談…だ」
と自由に使える手で口元を隠しクレアと反対の方角を見る。
フルフルと小さく震えながらレオンを上目遣いで睨み
「ご主人様は慣れてらっしゃるかもしれませんが、からかうのはやめてください!!」
と若干涙目になり食事のトレイを持って急ぎ部屋を出ていく。
──無理無理無理ーーーー!!
早足で廊下を歩き階段の1段目を降りる時、クレアはレオンの部屋の方を見る。
ひとつ大きなため息をはき、トレイを持つ手に力を込めゆっくりと降りてゆく。
しばらくクレアが出ていった扉を呆然と見ていたが
──俺はなぜあんな事を?
やらかした自分にショックを受けてはいるが、それ以上に慣れてると思われてる事実に胸が痛む。
──なんだこれは?
胸に手をあて考えてみるが何も分からないのでそのまま寝てしまった。
◇◆◇
「何か用ですか?父上」
「私に隠してる事はないか」
一瞬動揺が目に出てしまったが椅子に座っている父には見えなかっただろうと思い落ち着いて声を出す。
「何もありませんが」
「あくまで自分は関係ないと言いたいのか?」
「何をどうしても計画ははじまっているし、お前がどう思うとも、中心に居てもらわないと困るからな」
ニコルの父親であるレスターは笑いながらニコルを見る。
「駒も揃った」
「どう…言う意味…ですか?」
ニヤリと笑う父親を見て背中に冷たい汗が流れる。
「分からないフリをするならそうしてろ。関係のない公爵家に邪魔はさせん。あるべき所に戻すだけだ」
「…」
「先に産まれただけで、外の者が忌々しい。引きずりおろし正統な血筋に爵位は返してもらう」
「父上、これ以上の物を望んでは…」
ニコルはこの話になる度父親の説得を試みたがどうやらやはり無理なようだ。
椅子から立ち上がり息子に目もくれず部屋から出ていった。
残されたニコルは立ちすくむしかなかった。