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王都から馬で2日かけて来たデルタの街。続いた長雨の被害確認と不穏な動きありとの報告があった為そちらの調査も含めての視察だった。
水害は崖崩れ、家屋崩壊2軒など大きな被害は少なかったが、農作物などは長期に渡っての影響が出そうである。救援の申請などを済ませ予定より早めに帰れそうである。
別件で動いてた団長率いる数人が帰ってきて
「反逆とまではいかないが徒党を組んでる連中がいたけど、とりあえずひねっといた」
「団長、王都まで連行は?」
「必要ないな。後ろに誰かいる気配もないし、もう動かんだろ」
ということで早々に帰る準備に取り掛かる。途中立ち寄った街でジンが何か選んで買っていた。
「ジン、マメだねお前は。今度は何人に配るんだ」
団長がからかいながら聞くと
「違いますよ!1人にだけです。すぐには渡せないけど…」
「おっ!なんだちょっと話聞かせろよ」
ガシっと後ろから首を絞めるように腕をまわし聞き出そうとしている。ジンはバタバタと暴れ団長から逃げていた。
クレアにだろうか…とレオンは考えながらジンが買っていた店をチラっと見る。若い女性が好きそうなアクセサリーが並んでいる可愛らしい店で普段なら絶対に近寄らない店である。ふとひとつ気になった髪飾りを手に取り
──似合いそうだな…
「お土産にいかがですか?」
店主に声をかけられはっと気づき、いや別にと断ろうとするも戻しにくくなり包んでもらう。またはっと気づきもうひとつも頼む。
──土産だな
1人納得してみる。
母親からの頼みで預かった使用人、それだけの事だ。期待していなかったが出来はよく助かっている。元からいる使用人とも上手くやっている。あれぐらいの年頃の女性は自分を見て怖がるか、擦り寄ってくるかのどちらかだと思っていたが、全く違うタイプだった。
エドガーが体調悪かった時もいつも以上に動き、執務室でまとめてあった書類などは完璧だった。
人助けをしてお礼をされたりと少しお節介なのかもしれない。ドレス姿も良かったが、その後食堂での真っ赤になってぎこちない動きをしてたのもかわい…
──いや、違うだろ…今何考えた!!
自分で考えていたことを急いで否定する。この視察は疲れた…そう思いとりあえず早く帰って寝ようと馬に乗ろうとすると
「レオン…どうした?何か変なものでも食べたか?」
「は?」
「今俺は幻でも見たのか…なんかレオンが…」
「何言ってるんですか、帰りましょう」
◇◆◇
朝から洗濯物を片付けるために動いている。少しはやっていたみたいだが毎日してなかった分たまっている。
さてと腕まくりした時ノラが顔を出す。
「クレアもう戻ってきたのね。公爵家はどうだったの?」
「もう別世界ですね。数日で身体が訛っちゃいます」
笑いながら2人で片付けていく。
「そうだ。この前クレアが言ってたし息子に聞いたらさ2人ともいたのよ相手が!もう私に言いなさいよって話よね」
「よかったじゃないですか。もう会ったんですか?」
「それよ!ちょっとクレア付き合ってくれない?」
相手がどんな人か確認したいから働いてるという食堂に抜き打ちチェックするらしい。それに付き合ってくれと頼まれた。
「後で知られたら怒られませんか?」
「バレたらね、だからクレアと行くの」
──嫌な予感しかないけど…大丈夫かな
苦笑しながらもノラに、母親の気持ちにもなってと頼まれて断れなかった。母親の気持ち…ルイスに私の知らない相手が出来たら…うん、少しは理解できるかもと納得させた。
◇◆◇
「で、どの子なんですか?」
ノラと一緒に街中にある食堂に来ている。夕食は食べてくるとエドガーには伝えてあるので、メニューを見てしっかりと注文してある。
「多分…今運んでる子だと思う。目がくりっとして髪はまっすぐ長いって言ってたから」
なるほど、その容姿の女の子がお客さんに注文品を運んでいた。笑顔が可愛い女の子だ。
テキパキと動き、何より楽しそうに働いてる。
しばらくその子を見てたノラは視線を外し届いたご飯を食べ始めた。
「確認できたからもういいわね。クレアも食べて私が奢るから」
「お眼鏡にかないましたか?」
「まあまあかな」
「どちらの息子さんですか?」
「上の子よ。色々考えてるからとか言ってたしもうすぐ紹介されるのかしらね」
ふふっと笑いながらも嬉しそうなノラに良かったですねと声をかけ、注文した料理を食べる。量が多かったがとても美味しかった。
ノラとも仕事を離れ今まで話していなかったことや色々話もでき、楽しい一時を過ごせた。
「ごちそうさまでした」
「こちらこそありがとう。楽しかったわ」
ノラの家と屋敷はほぼ同じ方向なので一緒に歩いて帰る。途中見覚えのある場所を通った。
──ああここ、ニコル様が具合悪そうにしてたとこだわ
その時を思い出しながらこの先の椅子だったなとそちらをちらっと見ると、あの時と同じように誰か座っている。
──まさかね…こんな時間に…
そのまま帰ってもよかったが何か気になって、ノラに先に帰ってもらい確認だけしに戻った。
──確認したらすぐ帰るから…
店からの光が漏れているとは言え、暗いので近づかないと確認できない。違う別人だと思いながらも1歩ずつ近づく度に確信に変わってしまう。その人の前に立ち少し屈む。
「ニコル…様?また具合悪いんですか?」
俯いていた顔が跳ね上がるように上を向き声の主を確かめる。見た瞬間泣きそうなとろけるような顔をして名前を呼ぶ。
「クレア…さん」