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ウォルター・ハミルトンは23歳で普段は王宮で外交官として働きながら音楽にも精通し、王宮での公式式典での選曲などを宮廷楽団長とともに決めたりもするらしい。
ベアトリス似で背もレオンほど高くなく細身である。
「はじめましてクレア嬢」
「はじめまして。どうか呼び捨てでお願いいたします。お忙しいのに申し訳ございません。ウォルター様」
ふふっと笑うと本当にベアトリスそっくりだった。
そこから半日みっちりと音楽を聞いてリズムを身体に刻んだ。
昼食はベアトリスと3人で食べる事になり
「レオンのところでメイドしてる?本当に?」
「そうなのよ。うちの娘になりなさいって何度も言ってるんだけどね」
「働くのは好きなので…」
「レオンの屋敷は人少なかったよね。大変だったら僕のところに来ていいよ」
「ウォルター違うわ!私のところに娘としてくるのよ」
そっくりな2人がいい争ってるのをあははと聞くしか出来なかった。
──ご主人様の屋敷で働くのが楽しいのだけど…
「ベアトリス様今日1度屋敷に戻ってもいいですか?」
さすがにあまり長い期間休むのも申し訳ないがリットン家の事もあるので我儘も言えない…しかし掃除や洗濯も気になってしょうがない。
「旦那様に聞いてみるまで待ってくれる?」
リーフェンがすぐに動いて聞きに行った。まだドミニクが屋敷にいるらしい。
「行って帰ってくるなら僕ついて行くけど。今日は1日休みだしね」
「ウォルター様のお休みの日にそこまでは申し訳ないです」
それに婚約者の方に恨まれても困る。リーフェンが戻って来てベアトリスに伝える。
「えー本当にそう言ったの?今はクレアのことも公になっていないし帰っていいって。レオンが戻る頃には体制整えるそうよ」
「じゃあ僕が送っていくよ」
まだ拗ねて文句言ってるベアトリスにこの数日のお礼を言って帰る支度をする。買ってもらったドレスなどはハミルトン家で預かって貰うことにした。
メイド服に着替えて出ていくと
「本当にメイドなんだ」
「はい」
馬車の扉をリーフェンが開けてくれて乗り込む。すれ違う時、足すみませんでしたとこそっと伝える。
屋敷に向かう馬車の中向かい合って座ってるウォルターが
「レオンの事怖くない?」
といきなり聞いてくる。
「怖くないですけど?」
「へーそうなんだ」
なんだか笑われたが見なかった事にした。
「次会う時はダンス踊ってもらえるかな?僕の教えがどこまで役にたったか証明してね」
「あっ…はい」
──完全に忘れてました…
「レオンにでも教えてもらえばいい」
「ご主人様とそんな事…できませんよ」
ふーんと顔を見られたが逸らして窓の外を見る。
屋敷に近づいて来ると見慣れた景色になんだか安心する。屋敷前に馬車がとまったので先に降りてウォルターにお礼を言おうとすると、久々だから立ち寄ると言う。
扉を開けて中に入るとエドガーが階段から降りてきて
「おかえりなさい。早かったですね…ってウォルター様!!」
「エドガー久しぶり」
2人が話をしてるので荷物を置きに行く。そのまま調理場に行くとドナルドがいて夕食の準備中だった。
「クレア戻ったのか早かったな」
「ドナルドさん実家どうでした?」
「やっぱり長居するとダメだな。速攻で帰ってきた」
急に帰ってきたから無理かと思ったが1人増えても問題ないとドナルドが調整してくれた。
ホールに戻るとまだ2人が話してたので、応接間に案内しようとしたら
「今日は帰るよ。母に付き合うの大変だと思うけど、嬉しそうにしてるからよろしくね。またねクレア」
「本当にありがとうございました」
ベアトリスそっくりな笑顔を見せて馬車で帰っていった。
さて夕食までに掃除でもしようかと戻ろうとしたら
「ダンスは壊滅的にダメなんだって?」
「!!」
エドガーがニヤニヤしながら聞いてくる。
──ウォルター様ーーー!!
怒りと恥ずかしさで真っ赤になってエドガーを睨む。
「あっクレアさん、おかえりなさい。ってどうしたの真っ赤だけど」
「ジョン聞いておどろけ…」
「うわーーー!!エドガーさん!!」
ジョンが目をぱちぱちさせて驚いてる。