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朝起きていつものように調理場にむかい朝食の準備をして、ノラの手伝いの為庭へ行くと
「クレア私も怒ってるからね。もうなんの責任よ。来た客が勝手に暴れただけでしょ。次こんな事したら…」
まだまだ続きそうだったので謝って洗濯物を干していく。なんだかいつもより量が多い気がするのは…昨日の続きなんだろうか。
干し終わった頃、リーフェンが迎えに来ていると教えてもらった。
──まだだいぶ早いけど…?
「エドガーさんあの私…」
「聞いております。行ってらっしゃい」
と玄関を開けてくれた。外ではリーフェンが馬車の扉を開けて待っていて乗り込む前に、まだ早いですよね?とたずねてみたが、どうぞと案内されただけだった。
このあたりから気がついていたが、やはりハミルトン家に入っていく。
「さあクレア仕上げるわよ」
ものすごく楽しそうだ。
「ベアトリス様、私このままで大丈夫…」
「我が家の関係者と言ってるのにそのまま行かせないわよ。さて何着せようかしら」
メイドたちも張り切って色々用意してるみたいで、クレアは抵抗するのを諦めた。
仕上がったクレアは完璧に貴族のお嬢様になっていた。
──恐るべし公爵家のメイドさんたち!!
「完璧よ。グレースにも見せたかったわね」
「ありがとうございます」
「本当にずっとこれでいいのに…やっぱり我が家の娘に…」
奥様とリーフェンが声をかけ、時間も迫ってきていたので馬車に乗りリットン家へむかう。
ハミルトン公爵家も凄かったが、リットン家も街中にあるとは思えない立派な屋敷だった。
リーフェンにエスコートしてもらい馬車を降りると
「お待ちしておりました。クレア様」
あの時の従者が出迎えてくれた。後ろには黒のスーツを着た初老の執事が待っていて、どうぞと中に案内される。
応接間に案内されると中には人がいてクレアの元までやってくる。
「改めましてニコル・リットンと申します。この前はありがとうございましたクレア様」
「ニコル様やめてください。私はただの…」
リーフェンがゴホンと咳払いをする。
「当たり前の事をしただけですので…」
穏やかな笑顔を見せるニコルは、まずはお茶でもと席に案内してくれ、椅子を引いてクレアを座らせてくれた。
──こ…こんなお嬢様待遇はじめて…
それだけで恐縮してしまう。
しばらく何気ない会話をしていたが
、ニコルがこちらをと差し出したのはあの時のハンカチだった。
「こちらもお返ししなくてはと思ってまして…遅くなってすみません」
「いえ、もう捨てて頂いてよかったですのに」
と受け取った時、自分が刺したあまり上手くない刺繍が目についてすぐに引っ込める。
「その…」
「あっ刺繍はちょっと苦手で…あの…お恥ずかしい…」
真っ赤になりアタフタしだすと後ろからリーフェンの咳払いが聞こえる。
ニコルが優しく笑いながら
「その…家紋はどちらの?」
「え?ああこれは…」
「失礼致します。お嬢様は今ハミルトン家でお預かりしておりまして…」
本来執事が割り込むなどもってのほかだが伯爵家執事はクレアの言葉を遮って声を出した。
「…そうですか。ではそれは次の機会にお聞きしましょう。執事抜きで」
「あっはい」
思わず返事をしてしまったが…
──次?もうこんな疲れるの無理…
「そうだ忘れておりました。まだお礼をお渡しできてませんでしたね」
「本当にもう…充分過ぎるほど…」
断ろうとするも執事が持ってきた箱を目の前に置かれニコルが蓋を開ける。中には小さな可愛い花が詰まっていた。
「うわぁ可愛い」
思わず顔がほころんで声が出る。
「この花は水をあげなくてもしばらくこのまま保つそうなのでぜひ飾ってください」
「ほんのお礼です」
「では…有難く頂戴いたします」
ここまで言われて断るのも悪いので、これを最後にしてくださいとそのまま受け取った。
ではこれでと席をたち、帰ろうとしてリーフェンが先に馬車にむかった時、ニコルが後ろから小声で
「またお誘いします」
とにっこり微笑んだ。
──困るんですけど…
馬車の中、ぐったり疲れたクレアに
「何かあればハミルトン家まで言ってください」
「もう勘弁してほしいです。お嬢様なんて無理…」
子爵家ご令嬢のはずですが…とリーフェンは思ったが口にはしなかった。
帰りは何故かハミルトン家ではなく、レオンの屋敷前に馬車を停められた。
「いやいやこの格好で帰れませんよ!!」
「クレア様の服は先に届いているはずです」
「じゃなくてこのドレスとか靴とか…」
そのままお持ちくださいと強引に馬車を降ろされた。
──この格好で中に入れない!!
このまま入れば目立つし、かと言って入らないわけにはいかないし…玄関前で怪しくウロウロしてると後ろに人の気配がする。ばっと振り返ると
「ご…ご主人様…おかえりなさいませ…」
──これはやばいわよね…
「…クレア?」
何故か疑問形になっているが、見た事ない女性が自分の家の前でいるから何か用なのかと思っていたら、知ってる顔だったがいつもと違うから面食らっているレオンがいた。
「…何を?」
「ハミルトン家で着替えができずそのまま帰ってきたのですが…その…入りづらくて…」
「そのまま入ればいい」
と玄関を開け、手を出しクレアをエスコートしようとする。
「いえ!あの…自分で…」
手をブンブンと振って断ろうとしたが、何故手を取らない?とずっと待ってるレオンに負けてそっと手を置く。ものすごく優雅にエスコートされ家の中に入る。
──ご主人様さすが…慣れてらっしゃるのね…
ちょっとなんだか変な感じだったが
「おかえりな……は?クレアさん?」
エドガーの間抜けな声ではっと気が付き手を引いた。
「今日はそれであとも過ごせばいい」
「いえ!!すぐに着替えます!!」
そうかと階段を上がっていくレオンに頭を下げる。ついて行ったエドガーがチラチラ見てくるのがなんだか腹が立つ。
「うわぁ!!クレア…さん…綺麗」
ジョンがびっくりして固まっている。
「ありがとう。私も化けれるものよね。着替えてくるわ」
もったいない…とジョンが言っていたがこのままでは夕食の手伝い出来ないしねと急いで部屋に戻る。