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王都からだいぶ離れた緑多い土地がブランドン子爵家の領地だ。そこは今大変な窮地に陥っていた。
当主のマシュー子爵は人はいいが領地経営の才能は全くなくオロオロするだけの人で、子爵家の経済状況は緊迫していた。
夫人がなくなってから長女のクレアが最低限の使用人と一緒に頑張ってきたがそろそろ限界がみえていた。
「もう…もう節約するところがない…」
「お嬢様泣かないでーー」
最後に残ってくれたメイドのリサが一緒に泣く。
──あーもう本当にどうしよう。ルイスはまだ9歳だしお父様は頼りないし…こうなったら
「やっぱり私が出るしかないわね」
王都に行く!私が働く、それしかない!クレアはもう腹をくくる!
そうと決まればなるべく早く準備を進めないと。
──お母様…使いたくなかったけどもうダメです。あのコネ使わせてもらいます。
亡くなった母親…グレースの知り合いに働かせてくれる所を紹介して欲しいと手紙を書く。貴族の娘がプライドも何もあったものでは無いがそんなことを言ってる余裕はない。
──家のことはずっとやってきたしなんとかなるわ!
ばんっと扉があいて、泣きまくってボロボロの顔の可愛い弟のルイスが入ってくる。
「お姉様ー!僕をおいて出ていくって本当ですか…」
「ルイス。ダメよお行儀悪いでしょ。扉は静かにって…ノックもしてないわよ」
「そんなのどうでもいいよ!僕…嫌だよ。お姉様と離れるの。僕も一緒に行く!!」
「あなたはここで、ギリギリだけどこの家と領地のみんなを守ってもらわないと。ついでにお父様のお守りも」
泣いてる弟を抱きしめ顔をのぞいて、ね?となだめ納得させる。
「でも…お姉様どこで働かれるのですか?」
「このお手紙次第ね」
手に持ってる封筒を眺めながら答える。これ出してくるわねとルイスと一緒に部屋を出てそのまま手紙を出しに行く。
◇◆◇
ルイスに最低限の引き継ぎをして、今できる指示をして家を出る準備ができたのが手紙を出して3日後。まだ相手先から返事はないが待ってる時間ももったいないとグレースは王都に向かって出発することにした。
小さなトランクひとつ持ち、自分の部屋を見る。
──もう戻ってくることはないかな…さてと。
階段をおり玄関に向かうとみんなが待っていた。
「クレア…すまない私が頼りないから」
「お父様。大丈夫です私頑張りますから」
「お姉様行ってらっしゃい。必ずお手紙書いてくださいね。身体にも気をつけて。後、あと…僕…泣かないでお見送り…したい…のに」
泣くのを我慢しているが目にいっぱい涙をためている弟の頭をなでて頬にキスをする。
「リサたちも後よろしくね」
「お嬢様…」
「みんな元気でね」
見送りはここでいいからと1人玄関を出る。門の外に待ってる馬車に乗り込む前、最後に生まれ育った家を見る。
まだみんな手を振ってくれている。
──いってきます。
馬車に乗り込み自分で扉を閉める。ふーと長く息をはき、椅子に身体を預けるように座る。
そして、王都に向かって馬車は動きはじめた。