tekiーBen ~独白~ 食事中及び苦手な方は閲覧注意 本文中に何度も警告します
作者名で察してください。
若干そういうテイストです。
嫌な方はすぐにお引き取りください。
「人妻」
この漢字の二文字には、通常の二字熟語以上の魔力が込められていると思う。
例えるなら、
僕の勤務する薬局の門前にあるクリニックの看護師は、全て女性で既婚者である。
という表現を、
僕の勤務する薬局の門前にあるクリニックの看護師は、全て人妻である。
という表現に変えると、事実は全く変わらないのに、突如として淫靡な響きを持ち始める。
まるでそのクリニックの奥には、のれんをくぐって入室する秘密の部屋があるのではないかと想像してしまう。
こんなことを考えてしまう僕は、いつも危惧してしまう。
看護師=人妻に変換してしまうと、
自分の信じる医療という世界を、
根幹から覆してしまう現象が起きるのではないかと。
僕の恐れている事態を、聞いてもらえるだろうか。
引き返すのなら今だ。
僕の話は決してきれいな話ではない。
僕のような犠牲者をいたずらに増やしたいわけじゃない。
ただ、もし、僕のこの気持ちを理解してくれる仲間ができたのなら、僕の憂慮は少し軽減するのではないか。
そんな淡い期待を込めて、ここで思いの丈を吐き出させてほしい。
大切なことだから、もう一度言いたい。
引き返してもらって構わないと。
知ったら、二度と元の世界には戻れないかもしれない。
いいんだね。
便秘症で苦しむ老紳士が、毎日僕のいる薬局を訪れるんだ。
便が出ない。
便が出ない。助けてくれ。
便が出ない。出ないんだよぉぉおぉぉ!
ホラーだと思うかい?
一般的に女性の方が若い頃から便秘症を起こす傾向があり、慣れもあるのか割と淡々としている。
そこまで激しく便秘で困っているご婦人はお見かけしない。
だがしかし、男性は違う。
高齢になって腸が弛緩し、若いころに不自由がなかった便通が滞りだした男性の、排便への執念はすさまじいものがある。
冗談ではなく、便の霊に憑りつかれているのではと思うくらい病的だ。
毎日薬局を訪れる彼にも、同様の兆候が見られた。
一日中、便のことばかり考えて過ごす。
つまり残りの人生のほとんどを便のことを考え過ごすというわけだ。
その晩年の人生が、決して幸福ではないことは誰にとっても明らかだと思う。
失礼。便について熱く語りすぎて脱線してしまったね。
人妻の話に戻ろうか。いや、しかし便の話も出て来てしまうんだ……。
もちろん、引き返してくれて構わない。
しつこいようだけれど、僕は巻き込みたいわけではないのだから。
その老紳士が、例によって報告に来てくれた。
しかしいつもより顔が明るかったし、声にも元気があった。
どうしましたか、と僕は彼を出迎えた。
僕の薬局の女性職員は彼のことを、あまり好ましく思ってはいなかったけれど、僕は同じ男として、無意識に将来の自分と重ねていたのかもしれない。
決して彼のことを疎ましく思ったことはなかった。
例え延々と排便の話を聞かされ、仕事の手を止められてしまったのだとしても。
「看護師さんに摘便してくれって頼みこんでようやく出すことができたんだ」
僕は彼の話を、いつもの微笑みを浮かべた傾聴スタイルで耳にしたまま固まった。
漫画のコマ割りで表現するなら、ベタフラバックに、驚愕の表情で、更にはモノローグの吹き出しは激しくトゲのついたもので、『て…摘便だとぉ…っ!?』と書かれていたに違いない。
摘便とは何かご存じだろうか。
摘便:肛門から指を入れ、便を摘出する医療行為である。
令和2年度における診療報酬点数は100点となっている。
1点が10円なので、1000円となり、3割負担なら300円、1割負担なら100円だ。
どう思う。
大の男が、若い人妻にバックから(いやバックではなくて測位か? 僕は未経験だから想像でしか語れない)指を挿れられて掻き出される。
実際、そういう店に行ってそういうサービスを頼むといくらになるのだろう。(それも僕は未経験だから想像でしか語れない)
そりゃあ、定年間際のベテラン熟女に掻き出されるより、若い人妻に掻き出される方がいいに決まっている。
ああ失礼、もしかしたらそっちの方が好きな人もいるかもしれない。
つまり何が起きたのかと言えば、
この老人はこれからの人生を、便が出ないことを考え続ける人生から、若い人妻に掻き出してもらった過去を反芻しながら生きる人生へとスイッチバックすることに成功したのだ。
僕は心配になる。
もう少し診療報酬点数を上げた方がよいのではないか。
味を占めて通ってしまう男が出てきてしまうのではないか。
ともすれば、僕がこのことに気づくより遥か以前からそんな人種がすでに存在しているのではないか。
僕の不安はどうしたら解消するのだろう。
誰か、考えすぎだと僕を叱って欲しい。
職場の女性職員には、絶対に相談できないんだ。
この苦しさ、分かってもらえるだろうか。
この不安を抱えながら、僕は明日も下剤を患者に渡す日々を送るんだ。
最後まで読んでしまったのですか。
どうぞこんな僕を叱ってください。