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公爵令嬢

本日は一挙2話更新です。

「公麗騎士」


彼女、アンジェリーナ・フォン・デューのあだ名だ。


王族に連なり、現国王のイストとは従妹いとこの関係にあり、父オイルは公爵としてまた重役として経済や流通の管理をしている。


そんな彼女は文武両道、容姿端麗ではあったが、思考と嗜好が通常の貴族の娘とは掛け離れ、好奇心と知識欲に貪欲だった。

そして貴族の窮屈な世界より、広い世界への憧れが強かった。


幼少期より、父の商談や仕事に連れて行かれる機会が多く、外国や未知の物、騎士や商人など彼女から見れば身分は下だが、彼らとの交流を心から楽しみ、いつしかその世界へ飛び込んでみたいと望んでいたからだ。

そして、その想いはいつしか彼女の心に、小さくも強い意志の炎を灯していた。


「もっと」

という情熱の炎は誰に求められない。


彼女は日に日に、ドレスよりも鎧、お茶会より商談・武芸の稽古に熱を上げ、周りの人間は「公爵の後継は大丈夫か?」と常に心配していたのである。



そして、その心配が現実のものになる。

彼女が15歳の成人を迎えるにあたり



「お父様。

 私公爵の娘としてではなく、一人の人間として独立した生き方をしたいと思っております。まずは武芸を磨き、いつかは世界の広さを自分の目で見てみたいと存じます。

さしあたって、まずは街の警備兵になることに決めましたのでよろしくお願いします。」


「へっ!?」


確かにたくましく、強く育った彼女は貴族の令嬢としての魅力は普通くらいだ。

正直、公爵令嬢なのにマナーや礼儀も最低限というレベルだ。


だが、王族というバックボーンがあり、また学校を優秀な成績で卒業した彼女ならば

引き手あまただから今後は安泰だろうと思い、好き勝手にさせていた公爵は反省した。


度肝を抜かれたとはいえ、こうなってしまった以上は仕方がない。

何年かすれば、娘もおとなしくなるだろう、公爵令嬢らしくなるような生活を望むだろう、そのときには自分の仕事を手伝ってもらおうと期待していたのだが、、




そんなことにはまったくならなかった。



むしろ事態は悪化したと言ってもいい。

警備兵になったらなった後、ごろつきや酔っ払いだけでなく、強盗の検挙など危険な仕事をする中で、心身ともに鍛えられてしまい、気づけば国一番の騎士と同格の強さになっていたのだから。


そしてその美貌と強さ、平民との距離の近さから鰻登りで人気が出てしまい、彼女が公爵令嬢として生まれたことを忘れてしまう程にまでなった。

強く麗しい公爵令嬢の騎士と冠する、「公麗騎士」というあだ名もついたらしい。



「まさかこうなるとは、、、。」



困った公爵は、、、諦めた。



「もう好きに生きさせよう。

狭い貴族の世界で生きるよりも広い世界で生きる方が彼女には幸せなのだろう。」



親の願いは、子供の幸せ。



そう考えると、「ふっ」と公爵自身もその狭い世界の考えに縛られていたのではないかと考えを改めたのだった。



だが、そんなある日。

残酷にもアンジェリーナへ平穏を終わらせる知らせが届く。

ベッカライ帝国皇帝からの縁談申し込みだ。

幼少期から付き合いのある皇太子が若くして皇帝に即位し、今まで避けていた度重なる私的なアプローチを、国の代表としての申し込みという形を取られてはよほどのことが無ければ断ることができない。



そこで彼女は公爵令嬢ではなく最低位でも爵位を個人で手に入れることにより、自分の価値を貶め、それを理由に断ろうとしたのだ。

並みの貴族令嬢ならのどから手が出るほどほしい縁談話でとる行動とは真逆の行動。



彼女らしい突飛な発想と行動に、意外にも父は賛同した。

「公爵」とすればベッカライ皇帝との縁はこの上ない縁談話だが、イスト国王の互いをライバル視する感情と彼女の今後を考えると安易に賛同できないという「父」としての判断だ。



娘が爵位を得るためにはどうすればいいかを考えた。

最近では平民がたまたま発見した魔石を献上して爵位を得た、という情報を得て「それだ!」と喜んだがわかっている魔石の所在は極寒の雪山の中。

しかもドラゴンが住まうという危険地帯。

いくらなんでも難易度が高すぎる。

しかし、それ以外は時間が掛かるであろう事業の成功などでしか爵位を得たという話がない以上、その魔石の確保というに彼女たちはすがるしかなかった。


そんななかで、彼女は「彼」と出会った。

街の空き地にいきなり出現した見たことのない、なんともいえない良い香りのする綺麗な店の主人と。

そして、彼のおかげで未知の味「あんぱん」と出会い、危険な雪山で命を助けられ、魔石を手に入れることが出来たのだ。

一緒にいる時間は短かったけれど、たくさんの初めてが彼女には忘れられなかった。



そしてその後も間接的に彼女は父ともども、彼に助けられた。

彼女は、そのたびに彼に感謝と関心を抱くようになっていた。

同時に彼の心身の強さと人柄に助けられたという、今まで誰にも芽生えることが無かった「女」としての想いも。



だがその「想い」に彼女はまだ名前があることを知らない。




「このまま、ベッカライ帝国でお嫁さんになるのか、、。

 彼、悪い人じゃないんだけど、、。」



国や父のことを考えると、自分が犠牲になることで済むという決断に彼女の心は揺れていた。

思わずため息をつきながら窓の外を眺める。



「外の世界にこんな形で出るなんて。

でもその外の世界に「先」はないんだろうな、、、」



コン、コン、、、。



夜空と同じ闇色のような暗い気持ちで星を眺めていると誰かがドアをノックする。



誰だろう?


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