ドイツパンと帝国の思惑
ドイツパン。
いろいろな種類があるが、大きな特徴はライ麦を使用して作られていること。
米粉と同じく、グルテンができないので、膨らまないのだ。そのため小麦粉を混ぜた配合が美味しく膨らみやすいが、ライ麦の風味が薄れるのでそこは好みという感じだ。
素朴な素材、ライ麦の風味が特徴的な美味しさを味わえるのがドイツパンの魅力だ。
そして目の前にある黒いメロンパンのようなパンは、バイツェンミッシュブロートという種類のパン。網目や形は似せてはいるが、質からして全くの別物なのだ。
「なぜ、これをバカイザーは送ってきたんですかね??」
王様に問いかける。
「わからん。
だが、わざわざ送りつけてきたのだからなにか理由があるにちがいない。恐らくはこちらのメロンパンへの対抗意識だとは思うが、、」
「じゃとりあえず食べてみていいですか?」
うむ、と王様から許可をもらう。
とりあえずナイフを用意してもらい切り分け、
王様、セバスもご相伴に預かる。
切り分けた断面からライ麦とドイツパンならではの製法、サワー種を使った匂いがする。
「うーん、久しぶりのドイツパンの香りだ。」
残念ながらライ麦パンはうちの店では扱っていない。あまり馴染みがないので、お客さんからの受けが微妙だからだ。経営者としてはやむを得ずという形だが、修行時代はよく扱っていたので懐かしい。
香りは少しツンッとした酸味と小麦粉パンのふわっとした香りがする。
断面もキレイだ。
均一に空気が入っていて整っている。
さて味は、、
「ほう、しっとりとして噛みごたえが少しあるがまた違った美味さがあるな。
香りが強い分、白いパンよりも生地の主張があってこれはこれでありだな」
うん、それがドイツパンの魅力だ。
保存性にも優れ、栄養価もかなり高い。
しかし、安定しづらく扱いも特殊、ライ麦の供給確保という不安な点を除けば非常に食物として優れているのだ。
「うん、美味い!」
この世界にきて初めてのドイツパンだが美味しい!きっと、うでの良い職人が作ったんだろうな。
しかし、メロンパンと比べるのは違いすぎる、まるで「真逆」じゃないか。
一方、その頃帝国では。
「ふはははは!
そろそろあの黒メロンパンが届いた頃だろう!
これであの国王にこちらが負けていないということがわかったろう!
技術力において我ら帝国がヤツらに負けるわけがないのだからな!」
「はっ!苦労しました。
我らのパンがヤツらより素材の素朴な美味さを引き出しているという、技術力の高さを見せつけてやれたと思います。」
側に控えるマイスが自信たっぷりに相槌を打つ。
ははは、とカイザーゼンメルはご満悦だ。
「小麦粉に頼ったパンなぞで、さらにあんなに美味しいだとは許せん。砂糖の甘さで人をたぶらかすなど邪道よ!
素材の美味さを活かして始めての味でなくてはな!!」
「仰るとおりです」
「そして、あの甘美な美味さの虜となっていたヤツらは小麦粉が手に入らなくなり、味と食に餓える。かならずヤツらはこちらにすり寄るようになってくるはずだ。
ふ、、その交換条件でアンジェリーナ殿との婚姻を提示するとは、、余はずるく酷い男だ。
ますます彼女に嫌われてしまうだろうな、、。
だが民には申し訳ないが、こうまでしないと、イストにも国民にもこちらの姿勢が伝わらないだろう。
どう考えても、諦めも格好が悪すぎる男だ。
だがもう引き下がれん。
この意地っ張りの考えに皆を巻き込んですまないな。」
いえ、とマイスは頭を振る。
たしかに意地っ張りだ、格好悪い程に。
だが、この皇帝を我ら家臣や国民が裏切ったり嫌うことはない。
常に民の事を大切にし、国の保安のために考えているこの人だからこそ、みな今回の小麦粉の荷止めに賛同したのだから。
そう。
自らはピエロに成り下がり、他国への評判を犠牲にし「我が国の事情」を隠すために、、。
いつもご愛読ありがとうございます。
ドイツパンはなかなか見掛けませんが、専門店が少しずつ増えてきました。
食べると少しずつやみつきになる美味しさが魅力なので皆様どうぞお試しください。
評価、感想もお待ちしておりますのでどうぞよろしくお願いいたします。