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研究と戦争?

時は少し遡り、ここは山向こうのベッカライ帝国領。

荘厳な城郭の中にある研究塔。

ここでは日夜『とあるもの』の研究が行われていた。


「ええい、まだできんのか」


「申し訳ありません。また失敗いたしまして、、、」


「愚か者!どれだけの時間を掛ければ完成するというのだ」


ひたすら申し訳ありませんと平身低頭に謝る研究員に対し、叱り付けるのはこの研究の責任者、マイスだった。

彼はこの研究が皇帝からの依頼であるという理由であると同時に、彼自身のプライドのため是が非でも成功させたかった。


「くそう、このままでは、、、」

なぜだ、とひたすら成功のために何が足りないのか、どうすればよいのかと考えていた。


「マイス様、大変です!このままでは材料が足りなくなってしまいます!」


「なんだと!やむをえん、皇帝陛下に上申して材料の確保を頼んでみるか、、、はぁ」

ため息を吐きながらマイスが研究室を後にする。

責任者のいなくなったその空間ではひと時の安堵と今後を心配する空気が漂い、混じっていた。

「どれだけやっても「見本」とはまるで違うものが出来てしまう」。

そんな徒労と無力さに彼らも疲弊し、果たしてうまく出来るのかと希望を見失っていたからだ。いっそこのまま、材料が手に入らなければ良いのに、彼らは研究者としてあるまじき考えに行き着くほどの疲弊っぷりだが、彼らの願いが叶うことは無かった。



「皇帝陛下!失礼致します。マイスです」


「入れ」


ドアの向こうからの返事とともにマイスは皇帝の執務室に入る。

入るなり、目に飛び込んだのは書類の山。またか、、、と思わず漏らしてしまう。

そう彼、現皇帝カイザー・ゼンメルは事務処理を全て自分で抱え込んでしまう気質の人間だった。他人にも仕事を振るが、最終的な責任から逆算すると自分で判断して決めたほうが早いという考えからだ。しかし時として、その考えとやり方は良くない結果をもたらすことを彼自身も理解している。だが持ち前の采配の才能で彼が即位してから一度も問題は起きずにいたので誰もそれを口にはしなかった。

書類とにらみながら、カイザーがマイスに問いかける。

「出来たのか?」


「申し訳ありません、いまだ成功にいたらず、、、。」


「どれだけの時間を掛ければできるのだ?時間は有限なのだぞ?」


「返す言葉もありません。」


「よいか、今回の研究はわれらにどれだけの成果をもたらすか、わかっているはずだ。

必ずや成功させるのだぞ?」


「はっ、、、そのことでお願いがございます。材料が、その、、足りなくなりまして、その手配をお願いしたく、、、。」

言いづらい雰囲気の中、何とか切り出す。

その言葉に皇帝も眉をしかめる。


「なんだと?まだ時間と労力、資源を投入しろというのか。

、、、どれだけ必要なのだ?」


「せめてあと、、、これだけあれば、、、」

おずおずと必要な量を提示する。


「、、仕方ない、われらの悲願のためだ。何とかするしかあるまい。

この研究にわれらの命運がかかっているのだからな。」


「ははっ!!」


「よいか、余も方々に手を尽くしなんとか材料の確保は約束しよう。

そのかわり、なんとしても完成させるのだ!

これは「戦争」なのだぞ!」


「戦争」

皇帝が放つ言葉をマイスは重く受け止め、成功を誓った。

そして皇帝は書類から目を離し、執務室の窓から自国の美しい夜景と星空を眺め、呪詛を唱えるような声でボソリと呟く。



「見ておれよイスト。なんとしても貴様にだけは負けはせんぞ、、。

貴様だけは、、、。」



その数日後、帝国は近隣諸国全てから小麦粉の輸出量の削減を決め、自国内での研究のための量を確保したのだった。そして研究室では一応の成果を出すことに成功したため、担当者一同は面目を保てたと歓喜した。

だがしかし、この行動が後に帝国にとって、建国以来最大の動乱の火種になるとはその時誰一人考えるものはいなかった、、、。



時は戻り、コムギとアンは今後について話を詰めていた。

小麦粉の流通量の回復、そのためには2つ。

現在の仕入れルートからの回復。

新しい仕入れルートの確立。

その両方を同時並行でやっていこうと決めたのだ。

だが、そのどちらも困難であることは予想できていた。

現在のルートではアンさんいわく、確実な手段はあるが「とある事情」で話が進めづらいとのこと。

もう一つの新規ルートの確立は、ルートは確立できても、量が確保できるかが不透明なこと。そしてそのアテが現在無いことだった。


まずは確実性の高いものから考えるとしよう。

「その「とある事情」とやらは除外できないんですか?」


「まず、それは出来ないでしょう、、、国の沽券にかかわりますから」


「沽券?どういう意味です??」


「今回の件は、ある意味「戦争」でもあり、イヤガラセでもあるのです。

ですので、うかつにそのカードを切ることは出来ません。」


「戦争、物騒な表現ですけど本当なんですか、、?」


「もちろん、血を流すようなものではありません。でもこのままの状態が続けばいずれは、、」


ゴクリ、、とつばを飲む。


「戦争」


話の中でしか聞いたことのない、まるで実感の湧かない単語に思わず背筋が凍ってしまう。まさかそんな事態になるなんてことはないよな、、?




いつもご愛読ありがとうございます。

気づけばpv30000を達成しておりました。

たくさんの方に見ていただいているようで嬉しいです。読みやすく、気軽に見て楽しんでいただけるように頑張って参りますのでこれからもよろしくお願いいたします。

まだまだ未熟ですが、感想、評価、ブックマークもお待ちしておりますのでよろしければお願いいたします。

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