まだ
衝撃のお誘い発言により、アンさんに連れられてきたのは豪邸。
まるでお伽噺に出てくるような西洋風な屋敷だ。
「ご馳走させてください」とディナーのお誘いを受けるはいいのだが、アンさんの客人として中に通されるも、使用人の人達からじろじろと品定めをされるような視線を向けられて正直あまり居心地はよくない。
そりゃそうだよな、年頃の女性とはいえ、大事な令嬢が素性のしれない男を連れてきたのだから。
「どうぞ、こちらです」
と執事さんに客間まで通される。
しばしおまちくださいと言ってその空間にはオレと一人になる。心細い、、。
部屋の調度品やら装飾品やらをじろじろ見て時間がくるのを今か今かと待つ。
「お待たせしました、どうぞ」
とさっきの執事さんに連れられてきたのは長いテーブルのある部屋だった。
ここで食事をするらしい。
「アンさんはまだかな?」
と思っていたら、簡素だが品のある家用のドレスでアンさんが現れた。
良かった、まさか一人で食べることになるのかと思ってしまったからな。
「ゆっくりしていってくださいね?
叙勲されたのもコムギさんのおかげですし、いろいろな話を聞いてみたいですから」
歓迎はされているようだ、アンさんがふんすと鼻息を荒くして張り切っているようだから。
次々に料理が運ばれてくる。
コース料理でいわゆる内容的にはフレンチだ。
味付けも上品で素材を活かしたメニューばかりで一つ一つに趣向がこらしてある。
うん、美味しい!
よく考えたらこちらにきて初めてのコース料理だ。
あれ、付け合わせのパンがないのか。やはり小麦粉が不足しているからかな。
ソースを付けて食べてみたかったが残念、、。
デザートまで食べ終わり、いまは食後に紅茶を飲んで歓談の時間だ。これまでのことをお互いに話した。
中でも驚いたのが、彼女は叙勲された後、あちらこちらの国に出向き、流通について商談や調査をしていたらしい。危険な地域や国にも身体1つで向かうということで行動力を王様からも称賛されているらしいが、周りは心配のようだ。
「いかがでしたか?お口に合いましたか?」
「はい、美味しかったですよ。
わざわざ本当にありがとうございます。」
「いいんです、これくらいはしないとバチが当たりますから。叶うことはないと思っていた叙勲を手に入れられた感謝の気持ちです。」
「なぜ、叶わないんですか?」
「女性が爵位を得るには余程のことがなければ得られないのです。そのためには目に見える結果が必要でした。そこで魔石が必要なコムギさんに出会い、利害が一致したというわけです。
ズルい女と思われても仕方ありません。
最終的にはコムギさんがいてくれたから叶えられたのです、なんと申し上げたら、、。」
またしんみりする、苦手なんだよなこうゆう雰囲気。
「気にしないでよ。
オレもアンさんを危険にさらしちゃったし、2人で協力したから手に出来たんだよ。
半分はたしかにオレかもしれない。
でも残り半分はアンさんの実力だよ。
アンさんが頑張ったから出来たんだよ。
だからもっと自信持って?」
そう、アンさんはどこか自信がないようだった。
慢心や過信はよくないが、自信が無さすぎるのもよくない。
「相談があるならオレに出来ることなら協力するから。魔石の時よりは力を使えるしさ」
「、、はい。ありがとうございます。」
少し声をつまらせながらアンさんが答える。
「では、、お言葉に甘えて、、」と彼女は現在抱えている問題を吐露する。
それらを聞いたオレは協力を約束する。
どれだけできるかわからないが、アンさんをしっかりと手伝ってあげたい、彼女が困っているなら助けてあげたい、オレなりの恩返しをしたい気持ちで一杯だった。
そう、その時はそれ以外の感情に「まだ」自覚はなかったのだ。
いつもご愛読ありがとうございます。
すこし丁寧に描きすぎたかもしれません、まだまだ勉強中です。更新も少しずつ頑張っていきますので、評価、感想、ブックマークもよろしければお願いいたします。