再会の味
コムギとショーニが二人で話している頃。
別行動のウルはというと、とある屋敷の近くに立っていた。屋敷の前には門番が居り、視界にはいるとまずいからだ。
だがここは勘当されていても、なお、彼が足を運ばねばならない場所。大きくはない、だが伝統を感じさせ、重厚な雰囲気を漂わせる和風建築の屋敷。
ウルはためらいながらも意を決し、門番と相対する。
「なんだ、貴様は?今日は来客の予定はないはずだが。」
「、、、私はこの家に縁のあるものだ。
奥方様にお目通りを願いたい」
「ダメだ。
約束がなければ何人たりとも通すわけにはいかぬ、ここは殿様の屋敷ぞ?
不心得者とあれば即座に処断するまでよ。
さ、立ち去れ。」
やはりな、今の自分では入る資格すらないのだ、当然の報いだからな、と自嘲気味に笑い、屋敷を後にする。
さてこれからどうするか、、。
ふらりふらりと足任せに歩く。
気付けば懐かしい、商店が建ち並ぶ通りに出る。
昔はこの商店通りで買い物をし、博徒や破落戸とケンカ、時には盗みもした。
あの時から店の中身が少しずつ変わってはいたりするが、雰囲気は変わらない。
活気と喧騒と笑顔が溢れる、故郷の街だ。
ふと「そうだ」と昔通っていた菓子店を思い出す。そこの小倉餡の饅頭が彼は大好物だった。少ない小遣いでこっそり買うのが、幼少の頃から厳しくされていた彼の密かな楽しみと自分なりのご褒美の味だった。
あった、あの店だ。
昔より綺麗になっているが変わらない。
あの饅頭を買おう、変わってないといいのだが、と心配するが、杞憂だった。
皮はもっちりと、しかしほろほろと口の中で溶け崩れ、小倉餡はつぶをしっかり主張しているのに優しい甘さと食感で皮と一体になりながらのどをサラリと流れていく。あちこち食べ歩いたがこの店の饅頭が一番だとウルは確信している。
そんな懐かしい、ホッとする味に思わず頬が緩む。
そんな懐かしい味の余韻に浸っている彼に
「、、ウルさま?」
と不意打ちの声が襲う。
「へえっ?」
不意に声を掛けられ、思わず変な声が出てしまった。
声の主の方を向くとそこには見目麗しい美女が立っていた。誰だ?
今の自分に気がつくとは、昔からの知り合いだろうが心当たりがない。
「ウルさま、ウルさまですよね?
、、良かった、もう会えないものかと。
お会い出来て喜ばしく思います。」
近い、ぐいぐいっ、と目に涙を少し浮かべながら美女が距離を詰める。
「え、えっと、、あなたは、、」
わからん、本当にだれだ?この人は確信しているようだが全くこちらはわからんのだ、混乱してしまう。
「もしかして、お忘れですか?
それともおわかりになりませんか?
、、ひどいです、許嫁の事を忘れるなんて」
いつもご愛読ありがとうございます。パンではありませんが、日本人ならではの味、小倉餡の饅頭登場です。饅頭もパンとは切っても切れない深い歴史のつながりがあるんです。絡めて描けるかわかりませんが、これからも頑張って更新してまいります。よろしければ評価、感想、ブックマークもお願いいたします。