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準備①白身魚のタルタルソースサンド

前回に続き、バーガーサンド第2弾です。

 襲撃騒動から1ヶ月が経ち、復興工事が急ピッチで進められ少しずつ帝都には活気が戻りつつある。

大体の家が外装はともかく片付けや清掃が終わり、避難生活から元の暮らしへと移るが心配がない訳ではない。


強固な結界に守られ、安全だと思っていた帝都への魔物の襲来。

平和に慣れた者達に植え付けられた死ぬかもしれないという恐怖。その心の傷痕は深く、立ち直るにはまだ時間がかかりそうだ。


トンテンカンと響く工事の音の中、復興する街を歩くと気になるのはあちこちで掲げられている仮店舗や出店の看板。


『元祖!チキン南蛮サンド』

『皇帝陛下お墨付き!』

『英雄考案!』


微妙に書かれている文言や表現は違うが、流行ブームの商品名がズラリと並んでいる。

復興の活力となっている、コムギが作り、皇帝が手渡したサンド。

残念ながらナンバードの肉は無くなったので、代替として入手しやすいチキンバードという魔物の肉で調理している。

味は劣るがずっしりと食べ応えがあり大きいため、若い身体を動かす働き盛りの世代に特に人気を博している。


「いやぁ、ハンターとしちゃチキンバードでも扱い量が増えるのは嬉しいねぇ。最近不景気でどう稼ぐか悩んでたからな」


さらに予期せぬ波及効果として、手軽に食べられる利便性や好きな組み合わせで食べられる楽しみから『パンに何かを挟んで食べる』という食べ方が帝都民に広まっている。復興の資材等を運ぶ御者からも片手で食べられる手軽さが好評らしく、内外を行き来する彼らによって、さらに広まる事だろう。    


「味も美味いし、思いがけず仕事も手に入ったしチキン南蛮サンド様々だ!」

「なんでも皇帝陛下が復興支援を手厚く出来るのも、コムギ様が持ち帰った魔石のおかげらしいわ」

「少量でも魔石がまとまった量で競売に出る事なんて今までなかったらしいから、売る側買う側両方ビックリの凄い額になったんだってさ」

「しかしそんな高い魔石《《誰が買ったんだろうな》》?」


◇◇◇


サンドが人気との事で再びバーガーサンドを作ってみた。

調理中、厨房中の料理人が手を止め、作る様子をじいっと観察していたのが気になり集中しづらかった。


 特にクックさんは責任者であるにも関わらず、食い入るように最初から最後まで見て、貪欲に学ぼうとする姿勢が印象的だった。

今日の昼現在、中央食堂の特別区画には皇帝以下いつもの面々と、仕切りの向こうには訓練を終えた騎士団の兵士らがいる。

オレが用意できたのは皇帝らの分だけ。

兵士らの分はクックさんらが用意する定食スタイルの料理だ。


 ――さて、待ちきれない皆が食べたそうにしているから紹介しようかな。


「お待たせしました。

今日作ったこれは『白身魚フライのタルタルサンドイッチ』です」


「「「「えっ……――魚!?」」」」


まるで魚みたいに目を丸くする一同。

 なぜなら、これまで帝国では魚を食べるなら『焼く』しかなく、『揚げる』という調理法を初めて見たからだ。


「どこに魚が!?

 ――もしかして、この茶色いのがそうか!?」

「魚も揚げて大丈夫なんですか……?」

「予想通りというか、裏切らないというか、またも不思議なパンがでてきましたね……」


 本当に食べられるのか困惑しているが、食べればわかるだろう。


 ――魚フライとタルタルソースの真価が!!


「さ、どうぞガブリといっちゃってください!」


「「「「で、では――いただきます」」」」


 ――パリッ……フワ……

 ――サク……フワ……

 ――サク……ジュワッ……!!


 噛み締めると口の中にみるみる広がる味の五重奏。

 歯応えのある硬さと柔らかさが交互に味わえ、食材それぞれの旨みが順に顔を出す。


 最初は、パンの皮と身。

 次に、白身魚フライの衣と身。

 最後にタルタルソースのみた衣。


 パンは、昼食用に用意されていた物を、さらに追加で焼き上げ、外はパリッと、中はふんわりとメリハリのある食感が生まれるように。


 白身フライは、丁寧に下処理してもらい臭みが取り除かれた淡白な白身をフライすることで、魚の旨みを逃さず、外はサクサク、中はホクホクの異なる食感と香ばしさを。


 それらをまとめるのがタルタルソース。

味と味、風味と食感をマイルドに繋ぎ合わせている。

そして今回それらを包み受け止めるパンはちょっと変わり種でトゥモロゥコシのパン。

コーンに似た黄色い粒が特徴で粉にしても使えるとの事で素朴な味わいのパンを作ってみた。


 紀元前、世界初のパンはエジプト辺りの地域でトウモロコシの粉から作られていた。

当然、小麦を混ぜているこのパンの方が美味いだろうが、もしかしたら多少なりとも似ているかもしれない。


素朴な、素材の味を活かした鉄板ともいえる組み合わせのサンドイッチは食べ応えもあり、チキン南蛮サンドに引き続き非常に好評の様だ。


「美味しいです!ちょっと甘くて酸味とコクが白身魚とあって」

「初めての味ですがパン、素材、互いの良さが際立ってます!」

「うまうま。やっぱりご主人のサンドイッチは美味しいっピ。――はぐはぐ……!!」

「あはん♪コムギちゃんのパン、スゴい美味しいわ!

 薄いモノと濃いモノの組み合わせ(カップリング)、相性バッチリね♪」


 クックさん曰く、今日は運良く仕入れられた魚料理を出す予定だったらしい。せっかくなので仕入れた魚の中で使いづらい小さいのを拝借し作ってみたが、どうやら受け入れてもらえたようで良かった。


 あっという間に完食した男性陣は物足りないと文句を言うので、念のため用意しておいた残り分を配る。

 ――多めに作っといて良かった……!


「タルタルソースは色々使えますね、チキン南蛮サンドも良かったですが、魚みたく淡白な味の食材の方が特に美味しく感じますね」


 なるほど、たしかにそうだと頷きながら、もしゃもしゃとかぶり付く一同。


「魚がこんなに美味く食べられるなら、水資源が豊かな国との国交を真剣に検討すべきかもしれないな」

 

何か思うところがあるのか、ポツリと皇帝がつぶやく。

なんだか意味有りげな含みを持つ一言が気に掛かる。

「それはどういう……ん?」

 

 ――ジーッ……

 ――じゅるり……

 ――ゴクッ……


「なんだか背中に視線を感じ……るうぅっ!?」


 物欲しそうに、しかし恐れ多いと思いながらも好奇心に抗えず、覗く数多の瞳。

 ある者は仕切りによじ登り、ある者は家政婦よろしく半身を仕切りに隠し、じっとこちらを見つめている。


「あれが英雄殿のパン……」

「見ろよ、よくわからないが美味そうだぞ……」

「俺達も偉くなったら食べられるのかな…」

「手柄を立てるしかない……」


 兵士達がにわかにやる気を出している。

 食事を邪魔され、なかば呆れながら見ていた皇帝はふと不敵に笑みを浮かべる。

企む様なあの顔、何か思い付いたようだ。


「「「「――ん?」」」」


 すっ、と立ち上がり兵士達に向け、何かを宣言するように右手を伸ばす――手にタルタルサンドを握りしめながら。


「よいか!

 我等が口にしているこれは英雄コムギ殿から、神獣様をお連れし魔石を見事持ち帰ったリーンとパシェリへの褒美の品である。

 我等は相伴しているに過ぎん。


 屈強にして栄誉ある帝国兵士らよ。

口にしたくば結果を、手柄を立てるのだ!

我やコムギ殿は必ずやその成果に応えると約束しよう!!」


「「「「「おおおおっ!!!!!!」」」」」


静かだったはずの食堂一杯に響き渡る歓喜の声。そして皇帝の宣言を受け、我先にと訓練に向かう兵士達。


「よし!訓練だ訓練!!」

「待て、抜け駆けは許さんぞ!?」

「皇帝陛下、コムギ殿見ててください、必ずや手柄を立てますから!」


「っしゃあ!!やるぞ、お前らぁぁ!!」

「「「「しゃあああぁぁ!!!」」」」


「あ――……はい」


ドタドタと走り去る彼らの目は血走り、鼻息は荒い。

――もし今、魔物退治の命令があれば間違いなく彼らは標的目掛けて一斉に襲いかかるだろう。

きっと標的を狩り尽くすまで。

それくらいヤル気に満ちた熱と殺気を彼らは纏っていた。


「……いいんですか?

 あんな事言っちゃって……」


「構わんさ、少しでもやる気や士気が上がるならな。

 実際、我らを含めてコムギのパンを食べたいと思う者は多い。あながち彼らが奮起するに悪くない話だと思うがな」


「はぁ、そうゆうもんですか……」


 サンドイッチなんてそんなに大したもんじゃないのに本当に大丈夫かな、とオレは心配になりながら静かになっていく食堂天井の虚空をぼんやりと見る。

 同席する他の一同も兵士らが熱狂的に走り去る姿を心配そうに見送っていた。

――構わず食事を取り続ける者を覗いて。



「はぐはぐ――……サンドイッチ美味しいっピ!!」


ご覧いただきましてありがとうございました。

感想、評価、ご指摘お待ちしております。

改稿も少しずつしなきゃです……

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