神獣④帰還
「魔石がある⁉どこに⁉」
神獣から告げられた驚くべき一言。
辺りを見渡し、魔石のありかを探すオレ達。
少し前まで無機質でゴツゴツとしたはずだった岩肌の空間が、今では炎と雷による熱で溶解と変質し煌めいている。
そのどこに魔石があるというのか。
「ど、どこっ⁉
神獣さん、どこにあるんでありますか?」
「一体どこに――……」
「……ん、あれは?」
ふと向けた視線の先に、見覚えのある違和感。
不思議な輝きを放つ石がちょうど先程激しい攻防に晒されていた辺り一面に転がっている。しかしその石は以前見た時とは違い、琥珀色をしている。
まさかと思いながら恐る恐る近付き、試しに一つ拾い上げてみる。なんだか石が触れた所がピリピリと痺れる感じがする。
「間違いない、これ……魔石だ!
さっきまで無かったのになぜ――しかもこんなにたくさん……?」
足元で琥珀色に輝く魔石、輝き煌めく地面はまるで琥珀色の絨毯。
「すごい!
これだけたくさんあるなんて、価値は計り知れませんよ‼」
「きれい――……!
宝石みたい――……‼」
足元に広がる魔石の絨毯をまじまじと見ながら興奮し、魔石に負けないくらいキラキラと目を輝かせる2人。
「しかしこれだけの魔石、どうして気付かなかったのか……」
さっきまでなかった魔石がなぜ現れたのか。手に入れられる嬉しさと同時に疑問も生まれる。氷の魔石の時とはまた違う入手状況にオレは困惑していた。
「お前達がいう魔石はな、魔鉱石に膨大な魔力が凝縮され変質した物を言うのだ。この洞窟は魔鉱石の鉱脈に出来たものでな。魔力溜まり程ではないが、魔力が満ちていて居心地とチカラの回復が出来て良いのだ。
恐らくそれらの魔石は、魔鉱石が我の雷の力が凝縮された物だろう。まぁ今の我のチカラではあまり大した量の魔石が出来なかったがな」
「「これだけあれば十分です‼」」
溢れんばかりの魔石、興奮を抑えきれず訴えるリーンとパシェリさん。
「そ、そうか…それなら良いのだが……」
しかしなるほど、この神獣の雷により出来た魔石はさしずめ『雷の魔石』といったところか。
氷の魔石もまとめて使うと冷凍庫に匹敵する冷気だった。これだけあればかなりの電気の力が使える、つまり――⁉
「これさえあればオーブンやミキサー、店の機械が動く‼
店でもっとパンが作れる……本格的に店が…ベーカリーコムギが復活出来るぞ‼‼」
胸が高鳴る。
店に戻れたら元のようなパン作りが出来る。想像するだけで、こんなに嬉しい事は無い。思わず目頭が熱くなる。
こちらの世界に来てから、どうしたら良いのか、不安に押し潰されそうになった時もあった。電気が無いだけで、どれだけ仕事に支障が出るのか、ありがたみも良くわかった。
だが遂に、苦労した問題の大きな一つが解決出来そうだ!
「よし、この魔石をありったけ持って帰ろう。そして皆で帝国に帰って報告だ‼」
「「お〜‼」」
意気揚々と収拾作業に入るオレ達。
その様子を見ながら、神獣雷竜鳥が語りかけてくる。
「我がお前達を送るとして、その後はあー……確かコムギと言ったか。
オクリビトたるお前と一緒に行動する事にするが良いな? 神獣たる我の使命なのでな」
「それはまぁ良いけど……でもそんな巨体じゃどこに――?」
「心配はいらん、送り届けた先で転身するとしよう。チカラを満たすまでしばらくは若く小さな身体ゆえ、邪魔にはならんはずだ」
念の為、パシェリさん、リーンに視線でそれで良いか確認すると2人共に異論は無いようだ。
「じゃ善は急げだ、早く集めて出発しよう」
皆で手分けして拾い集めた魔石、量が量だ。
重く多すぎるため3人のリュックや予め用意してきた袋に分配して運ぶ事にした。
そして出発前に洞窟の奥からリーンが神獣の転身に必要な卵を抱えて来て、帰還準備は完了した。
「では、良いな?
全員、背に乗るが良い。振り落とされないようしっかり掴まるのだぞ」
「一度ならずも二度も空の旅を、しかも伝説の神獣の背に乗ってなんて一生自慢出来ますよ‼」
「え、パシェリさん。
空を飛んだなんて、いつの事でありますか?」
「いや、リーンを探す為にコムギ殿と……」
「ずるい、ずるいであります!
アタシもコムギさんと空の旅がしたいであります‼」
背に乗る前に聞いたリーンは地団駄を踏み、涙目になりながら全力でパシェリさんに抗議する。膨らませた頬とジト目で睨む表情、嫉妬の感情が全身から漲っている。
「まぁまぁ、リーン。
今度一緒に行こうよ、連れてってあげるから」
腹に括り付けてぶら下げる、あれで良いのか?と少し不安になるが彼女が望むのだからやってあげよう。怖い想いもさせた事だし罪滅ぼしという事で。
「ほ、本当でありますか⁉
絶対、絶対約束でありますよ‼"」
「あぁ、約束だ」
「やったあぁぁ‼」
ぱぁっと弾ける様な笑顔でぴょんぴょんと跳ね歓喜の表情に変わり、ひとしきり喜んだ後、背によじ登る彼女。オレも後に続き、いそいそと乗り込むと、背中越しの神獣に語りかける。
「よし、じゃあ準備はいいな。
帝都まで向かってくれ」
「帝都だな、念の為案内は頼む――いくぞ!」
蒼白い光を放ちながら漆黒の闇の中を駆ける雷竜鳥。
きっと地表から見る者からすれば、さぞ神々しいのだろう。
流星の如く、滑るように空を切り、星空を羽ばたきながら眺める星空をオレ達は一生忘れないだろう。
魔石を手に入れ、無事に帰還するオレ達を祝福するかの如く、満天の星達が瞬いていた。
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