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神獣③駄鳥

「よがっだでありま"ずぅ〜」


 オレに抱きつき、嗚咽するリーン。

密着するとしっかり感じる事が出来る。

温かな体温も、柔らかい感触も。

……もしかしたらあれは臨死体験というやつかもしれない。今わの際に時間がゆっくりに感じられるという――。


「本当に大丈夫なんですか、コムギさん。

どこかにお怪我は……⁉」


 意識を取り戻してなお心配そうにするパシェリさん、膝を付きぺたぺたとオレの身体を触り確認する。念の為と隅々まで触られるがちょっとくすぐったい。


「しかし、なぜ無事だったんだ……⁉」

「――貴様がオクリビトだからよ」

「っ⁉」


 突如、背後から聞こえた声に吃驚する。

この声は――。


「まさか、こんな偶然があるとはな。

これから探そうとしていたオクリビトの方から来てくれるとは思いもしなかったぞ」 


雷龍鳥サンダーバードは辛そうではあるが、命に関わる程のダメージではないらしく、地に伏せながら語りかける。


「どうゆう事だ?」

「神獣の役目は訪れる世界の危機から平和、秩序を守り維持する事なのだが、オクリビトのチカラを借りなければ不可能なのだ。

故に我々神獣がオクリビトに危害を加えられないよう神から付与されている加護が働いた様だ」


「そうなのか……だからお前の攻撃はオレに通用しなくて無事だったって事か。

……ん?いま神獣って言ったけど何それ⁇」


 いきなり出てきてリーンは無事だし、神獣だの、前にも聞いたオクリビトだの、起きてすぐのアタマでは理解が追いつかない。


 まずリーンは大きな怪我もなく無事。腹を空かせてサンドイッチの匂いに釣られた雷竜鳥サンダーバードに連れ去られただけらしい。

 そして軽く混乱している状態のオレとパシェリさん、リーンも興味深そうに雷竜鳥サンダーバードの次の言葉を待つ。


「さっきも言ったが神獣とは定期的に訪れる世界の危機を救い、安寧を見守り、維持するための存在。

今世界は危機に瀕しておる、だから我は300年ぶりに目覚めたのだ。

(……うっかり寝坊してしまったが、どうにかせねばならん……ボソボソ)」


「え、最後なんて⁉聞き取れなかったけど……」


「いやいやいや!

なんでもないぞ⁉うむ、本当になんでもない」


 明らかに動揺しているあたり何かを隠しているのか?なんだな怪しいな、と思っているとリーンが耳打ちし、どうやら寝坊したらしいと言う事を教えてくれる。


「世界の危機に寝坊したんですか……」

「神獣が寝坊はさすがにダメでしょう」


 ジト目で雷龍鳥サンダーバードを見やると反省しているのか巨体がしゅんと小さくなった様に見える。


「ぐぅむっ⁉


……そうだ、うっかり寝過ごしてしまったのだ、あと3年は早く目覚めなければならなかったのに。

我とした事が……何たる不覚……‼」


「早く起きなかったら何かマズいのか?」


 素朴な疑問だ、早く起きなければならなかった理由。その内容は果たしてなんなのか。

どれほど重要なのか、気になるのは当然だろう。


「『転身』しなければならなかったのだ」


「「「転身?」」」


「そうだ、この身体はそろそろ限界が近い。振るうチカラの行使にそろそろ耐えきれなくなるだろう。そうなる前に我が務めを果たすべく、新しい身体に魂を移す事が『転身』なのだ」


「あっ、もしかしてあの卵は⁉」


 どうやらリーンは新しい身体とやらの存在を知っているらしい。あれがそうだったのか、と1人納得した顔をしている。


「そうだ、転身するための用意はしてあったのだが寝過ごしてしまってな……ぐぬぬ」


「いや、ぐぬぬじゃないだろ。

転身して、その後はどうするつもりだったんだ?」


「転身した後はチカラが落ちるのでな。チカラを蓄えるべく成長のために時間を割くつもりであった……」


「「「だが寝坊したと」」」


 ガックリ落胆する神獣様。

寝坊したという事実から逃げられないと観念したらしく、意を決した真剣な眼差しになる。


「とりあえず急いで転身せねばならん。

転身前の栄養補給は《《こないだの亀共》》でどうにか少し賄えたが、まだ足りん。寝過ごしたせいか時期が悪くてな、手頃な食べ物が無いのだ。何か食べ物はないか?

出来ればサンドイッチがあるとありがたいのだが」


「……ちょっと待て、まさか亀共ってコマッタートルの事か?」


「ん、そうだが?

奴ら、この山脈にある魔力溜まりで本来ならば我が摂取する分まで魔力を吸っていたようで巨大化しとったな。だがその分、食べ応えはあったぞ」


 待てよ。確かコマッタートルは北から《《何かに追われる様にして帝国に出現した》》はず。

そして今のこいつの発言、つまり――………。


「いやー丸々として美味そうだったから捕らえて喰おうとしたが、亀共が逃げおってこの辺りからいなくなったのも誤算だったわ。お陰で栄養補給もままならなくて困ってしまってな」


「「「全部お前の寝坊が悪いんじゃないか‼」」」


「我の寝坊、そんなにダメか⁉」


「「「当たり前だ‼」」」


 どれだけの迷惑が起きたか、雷龍鳥サンダーバードに滾々《こんこん》と説明する。話を聞く中で色々わかった事が。 

 魔力溜まりとは、少しずつ大地に貯められる魔力エネルギーの吹き出す場所。その魔力溜まりは魔物がチカラを得るためのいわば餌場。神獣も同様らしい。

 だが、稀に魔物が魔力溜まりのエネルギーを浴びると巨大化したり、特殊なチカラを得てしまい時に厄介な存在になるとの事だ。

 

 そうならないように管理するのも本来、神獣の仕事らしいのだが寝坊したせいで手遅れに。

 ちなみに目覚めた時、コマッタートル達はすでに巨大化した後。手遅れになりつつも使命感と栄養補給と間引きを兼ね、襲撃しつつ捕食したらしいのだが、大部分には逃げられてしまった。 

そして神獣サンダーバードに追われ逃げたコマッタートルはドワーフの谷を超え、帝国の穀倉地帯で悪さをしたと――。


 話をまとめると、そうゆう顛末てんまつらしい。

 オレ達3人からじろりと睨まれた神獣、雷竜鳥サンダーバード、いや――駄鳥ダバードは、しゅんと肩身が狭そうにしている。


「はぁ……とりあえず食べ物なら、弁当として持ってきたサンドイッチがあるよ。あと少ししかないけど」

「おっ‼

我、それ好きだぞ!

サンダーバード、サンドイッチ、ほれ名前も似ておるだろ?それに何より美味しいからの!

なに、礼に下界まで送るから弁当の心配などせんでよい。ほれ、早くくれ」

「仕方ないなぁ、ほら。

もうこれだけだけど」

「これだ、これ!――ハグハグ……」


待ってましたと言わんばかりにサンドイッチにがっつく駄鳥。一心不乱に食べる姿は食べっぷりが良い、があの巨体だ。明らかに食べ足りないだろうな。


「しかし困ったな……」


 サンドイッチをもっしゃもっしゃと頬張りながら、「まだ何か用があるのか」と訊ねる駄鳥。


「えぇ、魔石はどうしましょうか」

「手ぶらで帰るのも残念で惜しいであります」


そうなのだ、肝心の目的。

魔石に関しては一体どうしたものか。


「無事に帰れるならそれに越したことは無いよ、魔石はまた今度の機会にしよう」


 リーンも無事だったし、今回は無事に帰れるんだから諦めるしかない。

また別の機会にしよう、そう思ったのだが。


「なんだ、お前達。魔石が欲しいのか?

なら、ほれ。そこにあるではないか」


「「「え?」」」

ご覧いただきましてありがとうございます。

ノース山脈編はあと少しで終わりです。


感想、評価、ご指摘お待ちしております。



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