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ノース山脈④想定外

『警戒する』


 ありふれた表現だが、それが出来るのは意識と想定の範囲内に脅威や危険がある場合の話。


 だが、もし。

意識の範囲外、想定を上回る想像以上の出来事が訪れたら――。 

 言い換えるならば不意打ち、または奇襲。

いくら厳重に警戒をしていても、標的となった者は無防備かつ唐突に意思と意識、最悪の場合は命を刈り取られる。


 安易な発想や認識の甘さが招く危険。

その重大さをもっと早く自覚していれば……。


◇◇◇


「もう一度、確認しましょう。

ドラゴンの様な魔物がいる場所、そして魔石は魔鉱石がなんらかの要因で変化した物ですか――そうなると……」


 針岩の峰を目指しつつ、闇雲に探すのは効率が悪すぎるし、危険が増すだけ。そう認識を改めたオレ達は立てた仮説を元に探索行動を再開する事にした。


 モノ作りに詳しいドワーフの一族であるパシェリさん曰く、材料に使う鉱石を取るなら山肌の露出した所か深い洞窟の中が良いとの事だ。


 というわけで、現在は進みながら露出した山肌か深い洞窟を探している。だがそう都合良くに見つかる訳もなく……。


「……見つからないね」

「……見つからないですね」

「……見つからないでありますね」


「「「う〜ん………」」」


 そもそも広大なノース山脈を歩いて探すのは効率が悪すぎる。そう、例えば衛星写真みたいなもっと広域的な視野で探さないと。

鳥みたく高い所を飛べれば――……。


「あぁっ⁉」

「ど、どうしたんですか⁉

なにか見つけましたか⁇」


 突然の声に驚きつつ、反射的にキョロキョロと2人が辺りを見渡す。


「ご、ごめん……。

見つけたとかそうじゃなくて、うっかりしてた」

「……?

何をでありますか⁇」

「オレが飛んで空から探せば早いんじゃない?」


「「何を言って……あ‼」」


 皆で忘れていたというか盲点だったと言うか、もっと早く気付くべきだった。

自分の能力なのにすっかり失念していた事を反省する。

なんとも言えない微妙な空気になるが、名誉挽回。

気を取り直すとしよう。


「じ、じゃあオレは空から探すという事で……2人はどうしようか?」

「とりあえずこちらはこちらで地上から探しますよ」

「もし見つけた場合は、どうやって知らせる?」


 当然スマホや携帯電話がある訳ではないので、こうゆう時改めて文明の利器の素晴らしさを感じる。


「発煙筒だと大袈裟ですし、危険な魔物も呼びかねないですよね」

「コムギさん、魔道具これを使った事ありますか?」

「……なにこれ⁇」


 手渡された魔道具それは、シンプルなアラベスク模様の装飾がされた細い銀色の腕輪。一見したところ何か仕掛けがある訳でもなさそうだが……⁇


「魔道具を見るのは初めてですか?

これは『共振器ハウリング』と言います。

互いに持ち合い、100メートル以内に共振器があれば振動して位置を伝えたり、一言程度なら相手に伝えられるので簡単な連絡を取る事が出来ます」

「こんな便利なのがあるの⁉」

「ちなみに相手と距離が近付くにつれて振動が強くなるので、互いの位置も確認しやすくなります」

「よし、これさえあれば迷子にならずに済むね」


 早速1人ずつ持ち合い、オレは空から共振器が振るえるギリギリの高さまで、2人はすぐ駆けつけられる距離30メートル位離れ、なるべく広く探せるように決めた。


「じゃ何かあったり見つけたら共振器で連絡を取りつつ、知らせに戻るから」

「はい。

念のため、緊急や有事の際にはそれぞれが持つ発煙筒を使うという事にしましょう」

「了解であります‼」


 そうやって各々が散らばり、捜索が始まる。共振器が振るえているうちは互いに近くにいる。つまりポケットに入れ、布越しに伝わる振動が互いの無事を知らせる安心の証でもある。


 探索を始めて、約1時間。

探せど探せど手掛かりや見当がまるでつかない。

 もう少しで夕暮れ時。

日が落ちたら探せなくなるから早く見つかって欲しいと願うが、そう上手く行く訳もなくはやる気持ちが胸をざわつかせる。


「――ん?

あれは……‼」


 視界の端に捉えた空を舞う影。

それには見覚え――いや。

つい先程、遭遇したばかりなのだから忘れようもない。

《《そいつはオレには目もくれず》》、急速に2人がいる斜面の森を目掛け急降下した!


まさか――‼⁉


 悪い予感は当たるもの。

そして、そもそも共振器に致命的な欠陥があった事に今更気付く。

 石が知らせる振動によって、互いの距離はなんとなくわかっても、《《具体的な位置まではわからない》》のだ。

だから誰が襲われたかすぐには判別出来ない。


 急降下したそいつは見事に速度を活かした奇襲を仕掛け、一瞬で捕えた者を脚で鷲掴む。そして奇襲後、すぐ離脱すべく空へ飛び去る瞬間を捉える。

 荷物ごと雷竜鳥サンダーバードに捕らえられたその者は衝撃によるショックか絶命したのか判別がつかず、意識と身体に力が無くグッタリとしている。


「あれは――‼」


 雷竜鳥サンダーバードは目の前で何が起きたか理解しきれていないオレを横目に、一瞬のうちに大空へ離脱する。慌てて追おうするも、猛烈な羽ばたきによる驚異的な加速と突風に遮られ、まんまと振り切られてしまう。


「くっ――‼⁉

くそ……。


リーーーン‼‼‼」


 連れ去られた仲間リーンの名を叫び、自身の無力さを悔やみ反省する。油断していた……、意識の外から奇襲されるとこうもあっさりと上手くやられてしまうのか。


 暮れゆく山脈。虚しく響く彼女の名前を叫ぶ木霊が消える頃、連れ去られた共振器の振動は、激しく響く胸の鼓動を嘲笑うように静かに止まっていた……。

いつもご覧いただきありがとうございます。

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