ノース山脈①休憩と敵意
ノース山脈編始まります!
「見た⁉一体どこで!?」
「え、あ、えーと……ごめんなさい。
確信は無くって、見た事がある気がするような、位で本当にあいまいなんです」
「いや、それでも雷龍鳥を見た事がある気がする、というのは変だよ。
そもそもドワーフの里に来るまで存在を知らなかった物を知ってる気がするなんてさ」
「確かにそうですが――……」
「ふぅむ……訳がわからんのぅ」
「ご、ごめんなさい!変な空気にしちゃって。あはは……」
空笑いで場を少しでも和ませようとするリーン。
確かにいくら考えても、気がする程度じゃ信憑性は低い訳だから考えるだけ徒労かもしれない。
「じゃあノース山脈に行くにあたり、魔石そのもの、もしくは魔石に関するヒントを持っているかもしれない雷龍鳥を探す、という事で良いかな?」
「はい!」
「異議なしであります!」
あとはどこを探すか。
窓の外を見れば、視界いっぱいに広がる山という山。
広大なノース山脈を闇雲に探したら、時間がいくらあっても足りない。
しっかりポイントを絞り込みたいところだが――……。
「うぬ?」
「ドゥーブルさん、どうしました?」
「いや……この絵の山の一部なんだがな、ほれ。
この場所に見覚えがあってな、もしやと思ったんじゃ」
「「「ここ??」」」
指差す絵には特徴的な場所が。
まるで剣山の様な岩肌がビッシリと立ち並ぶ所を背に雷龍鳥が佇んでいる。
「これは――恐らく『針岩の峰』じゃな、ノース山脈の奥地で歩きなら3日程の場所にある。
確かに奥地は危険も多いため未開部分がほとんど、《《知られぬ何か》》がいても不思議ではない」
未踏の場所なら可能性があるかもしれない。
目的地は決まった。
魔石を手に入れるため『針岩の峰』を目指すとしよう。
「よし、じゃそこまでのルートを確認して明日の出発に備えよう!」
「「はい!!」」
◇◇◇
「ふっ――……はっ――……ふっ――」
少しずつ薄くなる空気のせいか、それとも疲労のせいか。疲れないよう、リズムよく呼吸をながら街の北にあるノース山脈から続く山道を延々とひた歩く。
時折現れるまばらな傾斜と舗装されていない、自然の赴くままに荒れて歩きづらい砂利道。
そして徐々に近づいてくる山脈の奥から感じる不穏な雰囲気は、まるでオレ達の歩みのペースを見出そうとしているかの様だ。
「コムギさん、リーン大丈夫ですか?」
先頭を歩くパシェリさんは時折後ろを振り返り確認してくれる。荒れた山道だ、足を取られたりして怪我や滑落などの危険があるからだ。
「大丈夫です」
「大丈夫であります」
そろそろ針岩の峰まで3分の1くらいの位置に差し掛かる。今の所は問題無く、順調なペースで来ている。
具体的な情報はかなり少ないが、目指すは針岩の峰。そして雷龍鳥を探す事が目的となった。希少な魔石だ、そうそう見つからないとは思うが……。
時折雑談しながら歩き、ふと気になったので訊ねてみる。
「魔石を2人は見た事あるの?」
「はい」
「ありますよ」
どうやらリーンは中央研究所の標本、パシェリさんはドワーフの工房で見たらしい。
中央研究所ではマイスさんが、工房の組合長であるパシェリさんの弟バジィルさんがそれぞれ大切に保管しつつ、活用法や性質を日夜研究しているとの事だ。
「コムギさんは氷の魔石を手に入れたんですよね?」
「あぁ、でも店に置いてきたけどね」
冷蔵庫と冷凍庫で食材の保存のために使える氷の魔石は貴大切にしなきゃな。
店、か……。今頃どうしているだろう、大丈夫かな……。
「「氷の魔石で食材の保存⁉」」
「うん、冷蔵庫と冷凍庫に使ってるんだよ」
「なんですか⁉そのレイゾウコとレイトウコと言うのは⁉」
「コムギさんのお店、行ってみたいであります‼」
「私も気になります!氷の魔石を使って食材の保管をするなんて聞いたことありませんよ」
話を聞いた2人はふんふんと鼻を鳴らし好奇心を顕に興奮している。
「ぜひ来てよ、パンならたくさんご馳走するからさ?」
「「ぜひ‼」」
こんな他愛のない会話もしつつ、途中開けた見晴らしよく安全が確保しやすい場所を見つけたので休憩を挟む事にした。
休憩の食事は枝豆パンにトマト、ベーコン、レタス、目玉焼きを挟んだサンドイッチを持参してきたのでそれを食べる。ちなみに痛まないよう【温度管理《ヒート&クール》】で低音に冷やした弁当箱に入れて持ってきた。
「うーん!
このサックリとした歯ごたえのパンに、カリカリのベーコン。
塩っぽさを和らげ、マイルドな味にしてくれる目玉焼きと、酸味のアクセントを演出するトマト。
彩り良い緑と白と黄、赤の4色の組み合わせ――見た目からすでに美味しく感じさせる……!
パンに具材を挟む、こんな食べ方があるとは⁉」
「食べごたえもあって、パンだけで食べるより美味しいであります‼」
「そりゃ良かった、この『サンドイッチ』は栄養的にも良いからね」
「『サンドイッチ』――それがこの料理の名前でありますか?」
「うん、サンドイッチはパンに色々な具材を挟むんだよ。
おかずみたいな惣菜から、ジャムやクリーム甘い物までなんでもオッケー!幅広い可能性を秘めた食べ方だね」
2人とも空腹であることも相まってか夢中でかぶりついている。
―――サンドイッチか。
そういや山で食べるのはこれで2回目だ。
前にも魔石を取りに来た時に食べたっけ。
あの時はアンさんが隣にいて――……。
元気にしてるかな……、アンさんも、みんなも……。
「コムギさん、どうしたでありますか?さっきから元気が無いようですが、疲れましたか?」
「いや、大丈夫だよ。ちょっと前の事を思い出してね。
氷の魔石を手に入れた時も山でサンドイッチ食べたからさ」
「そうなんでありますか、氷の魔石は1人で?」
「いや、あの時は《《アンさんと一緒》》だったよ」
「アン、さん……?」
不意にリーンの表情が強張る。
何かを察知し警戒するかの様に。
「アンさんはブーランジュ王国の公爵令嬢だよ。
色々わからない中で困っていたオレを助けてくれたし、帝国にくるキッカケを作った人だね」
「――ふーん……。
じゃあその人には感謝でありますね、コムギさんと出会わせてくれたのですから。
もし、会う機会があれば直接《《ご挨拶》》をしたいであります」
……なんだろう。
悪意は無いが敵意を感じさせる冷たい響きが交じっている気がする。
パシェリさんも悪寒を感じたらしく、ははは……、と力無い乾いた笑いをしていた。
いつもご覧いただきありがとうございます。
梅雨特有のじめじめした空気はイヤですね……。パン生地には良い時期なのですが、人間に辛い時期です。