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英雄のパン

いつもご愛読ありがとうございます。


どうしてもこのパンの話を書きたくて構想を練りました。

馴染み深いパンですが、改めて話にすると難しいですね。

コムギが王様と城で謁見している頃、ところ変わってここは帝国。


皇帝が執務室で相変わらず、バリバリと事務処理を進めている。

常人ならとてもではないがこなせないであろう速さで、目の前にある書類の山を次から次へと片付けていく姿に、研究報告に来ていたマイスは見慣れた光景ではあるが、感嘆していた。


ちょうど区切りがついたのか、ふーっと息を吐き、先程まで酷使していた腕を伸ばしつつ疲れた肩を支点にグーッと上に伸ばす。


「待たせたな、どうだ?

例の亀の巨大化の件は??」


「はい、今のところの経過は順調ですね。

何事も無く、その兆候も見られません。

そういった意味では順調なのですが、研究の面からすれば難航しております。

いまだに巨大化の原因がわからないのですから、、。」


「そうか、、いつ同じような危機が訪れるともわからん。

その際に、コムギがいてくれるとも限らんしな。

引き続き、研究所では巨大化についての研究を、騎士団にはより一層の鍛錬を命じる。」


「わかりました。そのように伝令致します。」


2人の会話には緊張が走っていた。

現在は「ひとまず」何もない小康状態なだけで、実際にはいつまた巨大化するかわからない亀の魔物がこの首都にいるのだから。

捕獲した地方ではなく、首都で暴れだしたら、構造物の被害だけでなく民衆のパニックによる2次、3次災害の方が間違いなく問題になるだろう

そういった危険を回避するために、一刻も早い根本的な解決策と手段を見出さなければならないのだ。



この件だけでなく来年の食料計画など、まだまだ問題が山積みだ。

だからこそ自分達が奮起しなければならない、と2人は気を引き締める。


「ところで、リーンは上手くやっているかな?

お膳立てはしてやったんだ、いい方向に転んでくれることを願うばかりだが、、。」


「そうですね。

あの娘もなかなかの策士ですからな、きっと上手くやるでしょう。」


「ふふふ、しかし屈強な精鋭の男共に物怖じもせず、序列3位まで上り詰めた才女が

意中の異性の前で年相応の少女の顔になった時には、親になったようで見守りたい気分であったよ。」


「陛下のお気持ちは私が1番わかりますよ、入隊時から世話してきましたからな。

お互い過保護な親バカですな?」


「言い換えれば、それだけ惜しい、ということだ。

腕も立ち、頭も切れる。

それに今は可憐な少女だが、将来は絶世の美人になるだろう。

そんないい女を世の男達が放っておくまいよ。

まあ、そうはいっても堅物な彼女のお眼鏡に敵わないとダメだから、逆に行き遅れないか心配だがな。」


「違いありませんな。

そういった意味でもコムギ殿と上手くいってくれれば帝国としても最良の結果になりますな。まさに大手柄!といった具合でしょう。」



皇帝はキィと椅子を引き、ゆっくりと立ち上がると、背にしていた窓の外を眺める。

眼下にはいつもと変わらぬ平和な城下町が見える。


「コムギ殿には本当に感謝だな。

もし、あのとき、彼がいなければどうなっていたことか。

それにこの命も、、、。」


背中越しのつぶやきのような一声。

絶望的なあの場にいたマイスも同じ気持ちだ。


「本当にコムギ殿はわが国の英知が集う研究所でも皆が舌を巻く程の博識さと手腕の持つ方でしたよ。

料理、パン作りの腕のみならず、経済・流通・経営に携わること全般を網羅しておられた。

もしかしたら他にもなにかあるのかもしれないと思わせる立ち振る舞い、底の知れない御仁だと正直戦慄しました。皇帝陛下の恩賞のご判断は英断だったと思いますよ。」


「まぁそこまで深い意図は無いが、つながりは持っておきたいではないか?

魅力的なお人だ。

正直リーンでは無いが、女なら惚れるだろう。

男である自分ですら惚れるのだからな。

、、いや、少し違うな、憧れかもしれん」


「憧れですか?」


最大の規模を誇る帝国の主君たる皇帝は見目麗しく、為政者として才覚に秀でた、まさに天が二物を与えたという存在だ。その皇帝をして憧れると言わしめるとは、マイスはやはりコムギを帝国に引き止めるべきだったのでは?とひどく後悔した。


「マイスよ、そんな顔をするな。

コムギ殿は自由な鳥と同じよ。きっと羽ばたくからこそ、魅力がわかるお人なのだ。

無理に鳥かごに閉じ込めてはならん。

また機会は訪れるはずだ。」


「そうですな、失礼致しました。」


2人が向き合い、微笑を交わす。

その笑みの中には言葉と裏腹に、やはり少しの後悔と未練が含まれていた。



「ところで、コムギの『置き土産』はどんな具合だ?」


そう。コムギは帝国での研究所で大量のパンを作る際に、置き土産をしていった。

彼曰く、子供の笑顔があれば大人は頑張れる。

そのためにも、まずは子供達のためにと作ってくれたのだ。


「とても評判ですよ。

それこそ子供だけでなく、大人達も笑顔になりました。

そういった気遣い、そして体現してしまうあたり、やはりコムギ殿は違いますな」


「そうだな。」


コムギの置き土産。

それはかつてマイスが模倣に苦心し、結果上手くできなかった物をさらに改良した物だった。それを見たマイスや研究員は技術と発想の上を行かれていることに嫉妬するも、同時に皇帝とは違う憧れと尊敬を抱いていた。


「皇帝陛下もいかがですか? 

実は持ってきたんですよ。

最近のお気に入りでしょう?」


「気が利くではないか!

『このパン』を食べると、やる気が出てくるのだ。

コムギ殿のように強く負けないように、教訓として今回の件を思いだせるように、そして最後には克服できるように、とな。」


「命は食にあり、とも申しますからな。

形から意味を持たせたこのパンはきっとこれから帝国民にとって、忘れられない思い出深いものになるでしょうな」



2人はゆっくりとそのパンと目を合わせないように、もったいないと思いながらも、甘美なる旨味と口解けを感じながら平らげてしまった。



後に、帝国民の間で子供だけでなく全ての人にこのパンは長く愛されることになる。

かつて巨大な魔物から国の危機を救った『英雄がもたらしたパン』として。

そしてその形は魔物の形を模し、そのパンを食べることで英雄のように強く、たくましく、どんな困難も克服できるようになれるというゲン担ぎの意味も含めて。

そして今日もパン屋では子供達のうれしそうな声が聞こえる。



「かめろん、くださいなっ!」


いかがでしたでしょうか?


可愛らしさと味のバランスのとれた人気のパンですので、書きたくてしかたありませんでした。

稚拙な話運びだったかもしれませんが、全てはこのためでした。


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