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英雄のパン

いつもご覧いただきありがとうございます!

 リーンが病院で悶々としている同刻の中央研究所内にある大厨房。


――よーし!

気合い十分!

材料も十分!!

 さっそく小麦粉、黒麦を使ったパンを焼くとするかっ‼‼‼


 オレがこれから作るのは『シュトーレン』そして『ミッシュブロート』と呼ばれる黒麦の比率が多いパンだ。

 小麦粉を節約するためなら黒麦のみ使用する『プンパニッケル』というパンの方が良いが、それだと膨らみが悪くなりボリュームに欠けるので今回は小麦粉を混ぜたパンを選んだ。


 加えて、ただ配給用に作るだけでなく、今回オレには試したい事があった。

――それは《《膨らみ方の操作》》だ。


 黒麦、いわゆるライ麦には生地を膨らませるために必要なグルテンが《《発生しない》》ため、通常パン作りの際には小麦粉(小麦粉を使用した種生地)を混ぜる事がほとんどだ。


 小麦粉が増えれば増えるほど膨らみが良く、逆に減らせば減らすほど膨らみが悪くなる。もちろん比例して、黒麦独特の味や風味も変化する。


 オレが目指すのは、『小麦粉の分量を極力減らし、黒麦の比率を多くしたパン』

 黒麦を増やすと膨らまない問題をどうすればよいのか?その自問自答の中でオレは1つ思い付いた。


 パンが膨らむ理屈は、発酵による炭酸ガスの発生による膨張作用だ。ガスは気体であり生地部分より空気比重が軽いため、上に行こうとする時に生地を引っ張ることで伸び、ボリュームが出る様に膨らむ。

 そして膨らんだ状態を焼き固めることにより、空気を包んだ断面がスポンジの様に仕上がり、「ふわぁっ」とした食感のパンになるのだ。


――つまり、《《いかに膨らませ、生地を伸ばす事が出来るか》》がボリュームを出すカギなのだ。

 そのために生地の力だけでなく、『外部から付加した力』でやると良いのではないか?と今までのパン職人として知識や経験を踏まえ、信頼度の高い仮説をオレは立てた。


――そう、さらに新しく手に入れた【重量管理・軽】の力で生地やガスを『より軽くする』

 もし上手くいけば本来は身が詰まりボリュームが無いミッシュブロートが、小麦粉のみ使用したパンと同じ位、ふわふわに仕上がるはずだ。


 そして黒麦パンを食べて欲しい理由はさらにある。――実はビタミンやミネラルが豊富で栄養価の高い黒麦パンだが、敬遠されがちな理由は食感と酸味だ。

 それらは全てどうにかしてボリュームを出そうとする作り方自体が原因なので、もし何らかの形でボリュームが出せるなら食べやすく栄養のある美味しいパンになり、皆に食べてもらえるはずだ。


さぁ、ここからは楽しいパン作りの時間だ。

いよいよ楽しくなってきたぞ……‼


――この異世界で手に入れた『能力』と、オレのパン職人としての『技術』を今ここで融合させ、新たなパンの世界を切り拓いてみせる‼‼


◇◇◇


「――どうだ、進捗具合は?」


 数日後、執務室で事務処理に忙殺されつつ、平行作業で現況報告を皇帝が文官達から受けている。


「はっ!現在、食糧の配布は順調になされております。まもなく全ての輸送計画が終了の見込みです」


「そうか……良かった。

これで安心できるな」


 皇帝がホッとした様子を見た文官も安堵する。彼だけではない、皇帝が民を思うのと同じように民もまた彼を案じていたのだ。若くして即位し、自分達のために昼夜を問わず、粉骨砕身で働く彼を。


「あとの問題は……」

 文官に背を向け、ポツリとつぶやく。

事態は終息したが、まだ成していないことがある。それをどうするか、と皇帝は思い悩んでいた。

 今の自分達が、帝国があるのは『彼』のお陰だ。だがこの大恩にどう報いればいいのか、答えが見つからない。


「どうしたものか……」


チチチ………


 窓の外では鳥達が自由に晴天の大空を舞っていた。


◇◇◇

 

 用意が出来次第、食糧配布がなされた帝国内各地では感動と感嘆の声が上がっていた。


「これが、あの黒麦パンだと⁉」

「ふわふわしていて、一体なんだこの口当たりの良さは‼

 今まで食べていた黒麦パンはまるで岩ではないか!」

「こんなに美味しくて、しかも身体に良いなんて……黒麦パンを見直しちゃったわ‼」

「ママ、これおいしーい!」


 老若男女問わず、シュトーレンだけでなく食べ慣れたはずの黒麦パンのあまりの美味しさに驚喜する。配給作業が進むにつれ、このパンを作ったコムギに感謝と称賛の声が次第に噂となり帝国内に広く聞こえるようになる。


 しかも、今回の食糧確保の立役者であり功労者。彼がいなければ皇帝らも命は無く、帝国滅亡の危機は免れなかっただろう。

 そんな重大な危機を救った『英雄』が作ったパンだと聞いた人々はさらに驚嘆し、コムギへの尊敬の念をより強く深めていた。



いかがでしたでしょうか?


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