初めての人
いつもご愛読ありがとうございます。
少しずつ寒くなってきましたね、身体には気を付けて下さいね!
「――そこまでだ。
この勝負、コムギの勝利とする。
さ、皆も明日に備え、早く解散せよ‼」
興奮冷めやらぬギャラリー達はガヤガヤと勝負について語らいながら自身のテントへと入っていく。
そして、敗北を喫したリーンは敗北のショックからか、うっすら涙を目に浮かべ駆けていった。
「――――っ」
「……なんか悪い事しちゃったかな?」
倒した相手は少女。少なからず罪悪感を感じチクリと胸痛い。彼女の心配していると皇帝、マイスさん、騎士団長がニマニマと意地の悪そうな笑みを浮かべ集まってくる。
「いやぁ剣のみとは言え、よくあのリーンを倒せたな⁉正直ダメかと思ったぞ。
しかし最後にデコピンとはなぁ……ダメ押しの精神的ダメージを狙うとは大人げないなぁ?」
(――心外だ、どんな一撃でも入れないと決着が着かないと思っただけでそんなつもりは無いですよ)
「もし彼女が魔法を使ってたとしても勝てないでしょうな……。先程の姿を見るに、最初からコムギさんが能力を使えば勝負にならないと言った方が正しいかもしれません」
(――買いかぶり過ぎだし、下手したら最初の一撃でやられてましたよ)
「ガハハ!
初めましてだな、騎士団長のタイガーだ。よろしくな!
良い物が見れたぞ、騎士道的に大の大人が少女を屈服させる様な勝ち方は、鬼畜か外道の所業としか言えないが、これも勝負だからな!
勝った者が全てだ‼
――いずれにせよ外の人間に初めての敗北だ、リーンの成長には良いキッカケになっただろう。アレはまだまだ強くなるはずだからな、うん!」
(――タイガー騎士団長、必死に戦った労いもなく鬼畜や外道呼ばわりとはヒドい……)
人の気も知らないで皇帝、マイスさん、タイガー騎士団長らがハハハ、と上機嫌でそれぞれの感想を述べるが、厳しい意見は期待の表れ。それだけリーンに可能性や伸びしろがあると見ているのだろう。
「――とは言え、思いがけず勝負をさせてしまい、コムギもすまなかったな。
疲れただろう?早く休むと良い。
明日もまだまだ移動せねばならんのだからな」
「ありがとうございます、では失礼します。おやすみなさい」
はぁ…確かに疲れた……。
うぅん……寝袋がぬくい……。
こりゃ、よく眠れ……そう……だ……。
◇◇◇
皆が寝静まる深夜。見張りだけが起きているはずの時間に未だ眠らない者がいた。テントの中で膝を抱え、じぃっと足先の虚空を見つめる少女、リーン。
彼女の心は未経験な痛みに掻き乱されていた。
(……負けた。
剣だけだけど、手は抜いてない、全力で挑んだのに……。
噂では聞いていたけど、まさかあんな簡単にやられるなんて……)
多少なりとも自負と自信があったからこそ、自ら仕掛けた勝負。にも関わらず、無様な姿を晒してしまった自分の愚かさにひどく後悔する。
文武に秀でた天才と称賛され『従者』の職業を活かし、若くして皇帝陛下の親衛隊隊長を任された。
『《《気に入らない》》二つ名』を持ち、多少なりとも心のどこかに慢心があったのかもしれない。
すっ――……。
デコピンで弾かれたおでこをゆっくり感触を確かめるかの様に細い指先で優しくなぞる。痛みはなかったが、衝撃的な一撃だった。――敗北を悟らせるに十分すぎるほどの。
(騎士団長のおじさま、マイスさん以外の人に『初めて』の敗北……。
彼はどこであれ程の力を手に入れたのか。
どうしてあれ程の実力者が無名なのか。
ただのパン職人なわけはないはずなのに……
わからない……。
――だからこそ、彼をもっと知りたい……‼)
自分を負かしたパン職人、コムギの事ばかりを考えながら、いつしか少女は静かに眠りについていた。
まだあどけなさが残る少女の寝顔には少し微笑が含まれていた。
いかがでしたでしょうか?
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