職業(ジョブ)
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洞窟の奥からのそりと現れた、見上げるほどに巨大な熊。
熊は元いた世界でも、自然界における食物連鎖の上位の生物。恐らくはこちらの世界でも同様だろう、そう思わせる程に本能が危険を感じ取る。
――自分達は狩られる側だと。
まずい……ドラゴンより身近な存在な分、熊に対して必要以上に恐怖してしまう。
――しかし、なんで熊はこんなところに?
いやいや!
そんなことを考えるより、どうする⁉
熊相手に人が敵うわけがない!
漫画やアニメで熊に勝つとかよく言ってるが、目の前で対峙すればわかる。
――丸太の様に太い手足
――唸る際に口元でちらつく鋭利な牙
――巨体から漲る殺気と威圧感。
どう考えても勝てる要素が見当たらない。
ドラゴンの巣に到着する前にオレの人生終わったか……。
食材達よ、すまん……。
手間隙かけた酵母、発酵種たちよ、すまん。
オレの城、『ベーカリー・コムギ』すまん‼‼
バッ‼
アンさんが立ち竦むオレの前に壁のように庇い立つ。こちらの動揺をこれ以上悟らせないよう毅然と熊と対峙しつつ退避を促す。
「大丈夫です。
ゆっくり……目を合わせて下がって……」
「あ、ああ……」
なんて頼もしい!
そういやアンさんは騎士なんだよな。
腰に短剣も持ってきてるし。
「あれはアイスグリズリー、山に住む魔物です。迂闊でした、きっと食べ物の匂いで寄ってきたんですよ。
山は上に行けば行くほど食べ物が少なくなりますから……もっと警戒すべきでした」
ああ熊や鹿とかの野生生物がエサを求めて人のいる街に降りてくるとかよく言うよな。そうゆう理屈と同じか。
「私の職業は『騎士』です。
通常の人間相手の戦闘ならなんとかやれるのですが、熊相手に装備が短剣だけなので正直厳しいです、弱りましたね……」
歯がゆさに美しい顔を歪ませ、なかば開き直るかのように薄ら笑いを浮かべるアンさん。どうしたものか……。
「ところ……で職業ってなに?」
「それもわからないのですか⁉
こんな時にそんな……とりあえず余裕はありませんので、あとで!」
俺にも職業ってのはあるのかな……。ふとした疑問からつい質問してしまった。好奇心が先走るのもオレの悪いクセだ。
そして彼女の言う通り、今はそんな悠長な事を考えている場合じゃなかった!どうにかしてこの場を切り抜けないと‼
グゥ――!フゥ……‼‼
熊が静かな唸りをあげ、まるで品定めをするかのようにこちらを凝視しながらゆっくりと臨戦態勢を取る。アイスグリズリーが完全にオレたちを獲物と認識したらしい。
『狩る側と狩られる側』
明らかにそれを決定付け出来るほどに、今のこの状態は深刻だ。
「どうする?」
「このままでは逃げられませんね、アイスグリズリーは動きも速く、集団で獲物を狩るんです」
「いま……なんて言った?」
「集団で獲物を狩……はっ⁉」
そう。近くにまだ仲間がいるという事だ。1匹でこの有様、これ以上増えたら即……。
なんとしても、出来る限り今この場から脱出しなければ……。
「エサがあれば引き付けられるかな?」
「あまり期待はできませんが多少の可能性はあると思います」
「なら……」
オレは背荷物からパンの予備を全部アイスグリズリーの後方目掛けて投げた。
ビュン!ビュン‼
「ちくしょう、食べてあげたかったぜ……パン達よ、すまん。
オレたちを守ってくれ!」
放物線を描き、狙い通り熊の後方に落ちたパン。熊が何事と思ったのか、ふんふんと匂いをかぎ始めオレ達から注意が逸れた。
「今です!」
死に物狂いで駆け、なんとか洞窟の入り口付近まで引き返す。
「ふぅ……ふぅ……はっ、はあっ……‼」
「ここまで来れば大丈夫だろう」
「そうですね」
「でさっきの質問なんだけど職業ってなに?」
「職業とは、1人一つ、神から与えられる能力です。
その職業に必要な能力が通常より強く発揮できるようになるんです」
「へー、俺にもあるのかな?
どうやったらわかるの⁇」
「基本的には神殿で神託書にサインと祈祷すればわかります。もしくは自分で職業を選ぶかですね。
ただし、自身で選ぶ場合はよほど条件が揃わないとダメらしいですし、神託で頂く際より能力が低くなるらしいですが」
――なるほど、だがオレがなるべき職業は『パン職人』これしかない!
そうであってほしい、いやきっとそうだ!
しかし念のため聞いておこう、もしもの為の心積もりは大切だ、うん。
「職業の『パン職人』って本当に無いのかな?」
「う〜ん……私も色々な職業は知ってますけど今まで聞いたことないです……」
マジかよ…⁉
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