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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

報われない片想いの話

終わらない片思いの話

作者: 紅南瓜

「報われない片思いの話」「親友ができるまでの話」の後の話です。「報われない片思いの話」の続きのようなものです。

合わせて読んで頂けたら幸いです。


親友の結婚式は、途中で帰った俺になど構いもせずに滞りなく終わった。

式が終わってからも気持ちはなくならないままで、毎晩毎晩枕を濡らした。そのうち誰かと付き合うのすら疲れてしまった。

辛うじて吐き出してきた行き場のない気持ちをどこに向けていいのかも分からず、そんな中たまに呼ばれるあいつの家での食事会は地獄だった。それでも会いたくて会いたくて、毎回断ることも出来ずに行った。自分はなんて馬鹿だと思いながら予定が入っていても調整した。

暫くしてあいつに子供が出来た。全くあいつに似ていない猿みたいな赤ん坊をみて昔のあいつの面影を感じた。

あの時、断頭台に立たされた気分だったと言ったが本当に自らの首を断ち切る方がどれほどマシだっただろうとそう思った。

そのうちその食事会に一人の女性が加わるようになった。魂胆は見え見えだった。昔、俺がやったようにお膳立てされているのだ。あの時と違うのは俺が全くその女性に興味を持っていないというだけ。女性の方はどうやら好意的に俺のことを見ているらしかった。

いい機会だと思った。いつまでも捨てられない気持ちを少しでも誤魔化すために、せっかく親友が勧めてくれているんだからとその女性と付き合うことにした。

相手が好意的に見てくれているのでなんとなく付き合ってても意外にうまくいった。

そのまま雰囲気と流れでプロポーズして結婚した。結婚式も、世間体や彼女の希望もあって行った。彼らとは違いそこそこ盛大にやった。友人代表としてのスピーチを頼む相手に困った。

一番仲のいい奴は親友のあいつだとそう感じていたし、あいつもそう思っているとわかってはいたけど、どうしても頼みたくなかった。

そうこう悩んでいるうちにあいつにあの時とは逆に俺がお前のいい所をスピーチしてやると言われた。断れなかった。自分が一番の親友だと信じて疑わないあいつの気持ちを傷つけたくなかった。

自分で自分の首を閉め続けているとそう気づいた頃にはもう遅い。恐ろしい気持ちで結婚式当日を迎えた。恐怖で顔が強ばった。周りには緊張しているように見えたらしかった。

式が終わって披露宴が始まる頃にはより一層恐ろしくなった。隣の女性にはいつまで緊張しているのよなんて検討違いの言葉をかけられてそうだなと適当に返事をした。ケーキ入刀後、遂にその時が来る。人前にたって話すのがあまり得意ではないあいつが少し震えた手で原稿を開いて、こちらを見て笑う。

祝福の笑みだったのだろうけど俺には悪魔が合図のように微笑むのだとそう感じた。裁きを受ける罪人のようにスピーチの内容を一言一句漏らさず聞いた。初めて声をかけられた時の印象や、それから話すようになったこと、仲良くなった俺の印象、俺が幸せを与えてやったというようなこと、そんな俺が親友で誇らしく、そんな俺と結婚出来る女性は幸せと俺と似たようなことを言った。

幸せだろうと思うなら、お前がその相手になってくれよと性懲りも無く思う自分に心底呆れた。お陰で涙は零さずにすんだけど、そのせいでおめでとうと俺のために泣くあいつの姿をはっきり見た。

その後はぼんやりと過ごして、いつの間にか終わった。

結婚してからも女性を愛することはなかった。ただ、普通の家庭はこんな感じだろうと思いつつ過ごし、子供もできた。情はあったが愛はなく、そういうことに女性は時々酷く敏感であった。

薄々気づいていた、子供が出来たら少しは変わってくれると思った、もう耐えられないなどと言われて離婚を切り出された。全くその通りで反論せず承諾すると女性はぼろぼろと泣いた。悪いことをしたとは思っていたので、養育費の定期的支払いや財産分与などは相手の望みを全て承諾した。

何もすることがなくなり、なんだか死にたくなった。どうやろうかと準備をしてその度にあいつが悲しむなと考えて思いとどまった。その自問自答のようなことを何度も何度も繰り返した。ただただ苦しかった。

数日後、女性伝いで別れたことを聞いたあいつから連絡があった。別れた理由ははっきりとは知らないようで慰めるような内容の電話で理由も聞きたそうだった。仕方なく、愛に生きすぎたのかもしれないなんて適当な返事をした。

それ以上何も聞かれなかった。呆れたようでも怒るでもなく、そうかと言われた。そして、また家に遊びに来いよと言われて電話が切れた。

その瞬間何かの糸がきれたように涙が溢れた。朝まで止まらなかった。

それからあいつに言われた通りまた、家に遊びにいった。猿みたいだったあいつの子供は本当に昔のあいつに似てきた。その子供に懐かれるのが辛かった。無邪気な笑顔が昔見た先生に褒められた時の笑顔と被って見えて、顔も見たくなかった。

成長するにつれてその子はみるみるあいつに似てきて思春期に入る頃にはもう、昔のあいつそのものだった。ある時そんな子から告白された。予想外の出来事だった。俺が長年言ってもらいたかった言葉がその顔から言われた。照れた少し控えめな笑顔があのときのあいつの笑顔とそっくりで昔にもどったように錯覚しそうになる。

夢のようだった。そして、辛かった。

あいつに言われたかった、あいつの子供に道を踏み外させてしまったとそう思った。気の迷いだ、やめてくれ、二度と言わないでくれと子供の前で情けなく泣いた。

優しいあいつの子はそれ以上何も言わなかった。

それから暫くしてあいつの子に恋人が出来た。あいつの妻によく似て小柄で物静かそうな子だった。それを見て安心する自分がいた。自分の気持ちは異常なのだと今更ながら自分自身が分かっているのだと理解した。

その子達が結婚して、数年が経った頃、俺は病にかかった。癌だった。あいつへの気持ちを忘れるために酒や煙草に明け暮れたり、食事も満足に取らなかったり夜通し泣いて眠れなかったりと元々不摂生だった俺の体は気づかないうちにぼろぼろになっていた。

そのうち余命が言い渡された。病室で心配そうに見つめるあいつにお前のせいだと言ってやりたかった。絶対言えないけれどもう苦しまなくて済むと思うと嬉しかった。

相手にすらされなかった昔とは違い、俺のために泣くあいつの顔を見て好きになって良かったと、最後に見る顔がこれなら幸せだとそう思った。

好きだと言えないかわりにあいつの名前を呼ぶ。

今まであいつに見せなかった涙が、頬を伝って流れた。


最後まで想いを伝えられなかった彼ですが、最後は幸せであって欲しいと思いました。

彼の人生はここで終わってしまうので彼の後の話はありませんが、子供の頃の2人の話や青春時代の話、付き合ってきた人々との話なども「渡せない片思いの手紙の話」や「修学旅行の片思いの話」などで書いております。

子供の話や彼が亡くなったあとのあいつの話も「親友ができるまでの話」の後の話「親友を失うまでの話」、「親友のお菓子の缶の話」として書かせていただきましたので、読んでいただけたらと思います。


最後まで読んでくださりありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 主人公の心情、想いが報われない過程や結末がリアルで感情移入しやすかったです。 [一言] シリーズで全作品読ませて頂きました。 どの作品も素晴らしく、離れたくても離れられない、主人公の痛い…
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