機構都市ハマト
さて。
そう言うわけで、今私達、私とユニに加えて、レイ様とライエさん、アントンさんの5人は機構都市ハマトに向けて、ゼルバギウス家の馬車に乗っている。
御者はライエさんだ。
蛇足だが、普段レイ様のお世話をしているマルコさんは、ミリアーヌ様のお茶会のサポートという名目でソフィテウスに残っている。
「いい剣が見つかるといいな、ユニ」
「うん。」
「うむ。そこは期待してくれ。我がゼルバギウス家は、武を尊ぶグラント王国の中でも、特に武で身を立ててきた家だ。そのため武具にも妥協はしない。」
「やはり、そうなのですか?」
「ああ。もともとグラント王国でも武器は作っていた。当然だがな。そしてしがらみだなんだとあるグラント王国の貴族達は、そこで武具を調達していたわけだ。しかしある代のゼルバギウス家当主が、ハマトで作られた剣を絶賛してな。それ以来、我が家はしがらみよりも実を取るよう教えられている。」
「そうでしたか。流石は我が国の剣であり盾でもあるゼルバギウス家ですね。」
「ありがとう。だが余りおだてないでくれよ、ルーク。貴族の付き合いも大切なのは確かだし、そう言ったものを気にする家からは評判は良くないからな。」
なるほど。やはりそう言った面倒くささはあるのだろう。
「ところで。」
話を聞いていたユニが口を開いた。
「やっぱりハマトでは昔から良い武器を作っていたんですか?」
「そうだ。技術もだが、共和国は山の民とも親しいだろう?だから、良質な鉄などが手に入りやすいのも理由の1つだな。素材と技術が良いなら、完成した物も良いものになる。」
「なるほど。」
「まあ、その分と言うわけでもないが、武器の扱いでは我が国の方が圧倒的に上だと思っている。授業でも聞いただろう?適材適所、利害の一致、というやつだ。我々は我々の武に誇りを持てばいい。」
そう言って笑うレイ様は本当に爽やかで、改めて貴公子という言葉を連想させた。
流石は共和国の馬車と道、と言うべきか。
大して疲れることもなく、昼前には目的地である機構都市ハマトに到着した。
規模としてはガインと同程度。
十分大きい街なのだが、ソフィテウスから来ると少し小さく感じるな。
余談になるが機構とは機械仕掛けという意味であり、実際この街は最初、絡繰好きのある貴族が水車や馬車、滑車などの開発、生産の拠点として力を入れ発展した。
そして物作りを得意とする人材を集めた結果、魔道具づくりを得意とする魔法使いや鍛冶屋なども集まり、今のような物作りの坩堝のような街になったらしい。
「焦らしても仕方ないからな。早速向かうとしよう。」
そう言うとレイ様は、我々を先導して歩いていく。
その足取りは慣れたもので、目的地への親しみが感じられるものだった。
1時間ほどだろうか。
私達は立派な建物の前に到着した。
私が店と聞いてイメージするような、商品が並んだ場所ではなく、普通のお屋敷だった。
「ここ、ですか?」
そう呟くと、
「おう。俺も騎士になってから知ったけどよ。貴族様の買い物ってのはこういうものらしいぜ。商人の家に行って、色々と商品を持って来させるのさ。」
とアントンさんが教えてくれた。
それに続きライエさんが補足する。
「さらに言うとだ。上位の貴族なら、商人に屋敷まで品物を持って来させるな。実際、ゼルバギウス家でも奥方やミリアーヌ様の服などはそういう形だ。しかし、旦那様やレイ様は、自ら商人の屋敷まで赴くことが多い。少しでも領地の様子を見る機会になるからだと、お聞きしたことがある。」
「そうでしたか。流石はゼルバギウス家の方々ですね。」
話を聞けば聞くほど、名領主の噂が伊達でないことが伝わってくる。
少なくとも偉そうにしている領主よりは親近感が湧くだろうし、同時に堂々とした姿を見せれば敬意を集めることにもなるわけだな。
「そこまでにしろ。私はただ、商品が待ちきれないだけだ。」
そう言って顔を赤くされれば、それが本心か照れ隠しなのかは、付き合いの浅い私でもわかると言うものだった。
「これはこれは。レイ様にわざわざお越しいただけるとは光栄にございます。」
出てきたのは痩身で細めの男性だった。
イソップ童話にでも出てきそうな狐を連想させる。
「事前に連絡もせず、すまなかったな。」
「いえいえ。ゼルバギウス家の方々ならばいつお越し頂いても誠心誠意お迎えいたしますよ。して、今日はどのような御用向きかお伺いしても?」
「ああ。と、言ってもいつもと変わらない。武具をいくつか見せて欲しい。特に彼女に合う剣をな。ルーク、ユニ。彼はハールと言って、私が知る中でもやり手の商人だ。ハール。この2人は護衛として一時的に雇っている冒険者達だが、今回は客としての紹介だ。良い品を頼む。」
レイ様は
「かしこまりました。ルーク様、ユニ様。本日はお越しくださり、ありがとうございます。ご紹介に預かりましたラウハム商会のハールと申します。ユニ様は剣をご希望とのことでしたが、ルーク様はなにかご希望の品はございますか?」
「では、手甲の類があれば見せて頂けますか?このような形ですが。」
そう言って私は懐から自分の手甲を見せた。
今更だが私は、摩擦や棘、刃物から拳を守るため布製で手の甲の部分に鉄板を仕込んだ手甲を使っている。形そのものは、指が全部出ているグローブのような形をイメージして貰えればいい。
ユニの剣のように替える必要は感じないが、多少くたびれているのは確かだ。
「かしこまりました。では、屋敷のものに部屋まで案内させましょう。私も準備を終えてすぐに向かいます。」
どんな品が見られるか、楽しみにしていよう。




